第11話.管理OSをワンパン。神の消去技術を「コピペ」で再現した強欲海賊】
「……ふふ、ふふふふ。……あははははは!」
静寂を切り裂いたのは、アオイの乾いた笑い声だった。
それは機械が無理に人間を模倣したような、高低差のない不気味な嘲笑。
彼女は、目の前の強欲令嬢を憐れむように見下ろした。
「協力、ですか? 貴女のような、感情という不確定要素で動く下等な炭素生物に、私の『デリート』の価値が理解できるはずもありません」
アオイの目に勝ち誇った傲慢さが宿る。
「それは魔法などという稚拙な現象ではない。物理法則の限界点にまで干渉し、エネルギーの指向性をミリ単位で捻じ曲げる、高等演算技術の結晶なのです」
主人に軽蔑の目が向けられ、
隣に立つアカネの表情が、わずかに苛立ちを帯びた。
しかし、そんな苛立ちを吹き飛ばす意外なセリフがサーヤから飛び出す。
「そんなの手品と同じじゃない」
「え、だ、だから」
「あんたの手品、サブスクで月額課金すれば一番人気になれるわよ」
「……これだから。理解を放棄した者の言葉は、ただのノイズでしかないのです」
「理解なんて必要ないわよ。種さえ分かれば、再現なんて簡単でしょ?」
サーヤが、おもむろに虚空へ手をかざした。
アオイが「馬鹿な」と口を挟む間もなく、サーヤから超高速の詠唱が飛び出す。
「……空間座標固定。対象:目前の戦艦一隻。属性:空白。上書き(ペースト)!」
次の瞬間、目の前に転がっていた巨大な四次元軍の戦艦が、音もなく消滅した。
砂になるのではない。アオイが先ほど見せた「消去」と全く同じ、存在そのものの欠落したのだ。
「さ、サーヤ様……!? 貴女の能力は『無から有を生む』ことに特化しているはずでは?」
驚愕するアカネに、サーヤは平然と答えた。
「原理は同じよ。真っ白い紙に、何も書いてない部分をコピペ(複製)して上書きすれば、そこにあった文字は消えるでしょ? 簡単じゃない」
「な……ッ! 空間の空白を、複製して……上書きしただと……!?」
アオイの演算機能が、一瞬フリーズした。
彼女が天文学的な計算の果てに辿り着く「消去」という現象を、この女は「コピペ」というデタラメな理屈で、しかも一瞬で再現したのだ。
「ああ……! さすがサーヤ様! やはり貴女こそが、この宇宙の真の理……神そのもの……!」
アカネが狂喜して祈りを捧げ、空間は完全に二人の主従に乗っ取られた。アオイは、ゴミのように放置された。
「ありえない。……ありえない。貴女は、銀河における最大のエラーだ」
アオイの瞳に、初めて「殺意」に似た光が宿った。
その時、天空を覆い尽くすように、アオイが率いる帝国軍の艦隊が姿を現した。
その数、実に百万隻。
「……アオイ様。四次元の残党ではありませんが、この者たちは?」
艦隊の幹部が問う。
アオイは、サーヤを凝視したまま命じた。
「……分からない。だが、この者たちは四次元の兵よりも要注意です。……今、ここで全データを抹消します」
アオイが戦闘モードへ移行する。
周囲のエーテル濃度が急上昇し、幾重もの巨大な詠唱プログラムが彼女の背後に展開された。
世界の再定義。惑星一つを塵に変えるほどの消滅エネルギーが凝縮される。
だが、その詠唱が完成する直前。
アオイのプログラムが、内側から激しく書き換えられた。
「なっ……詠唱が、乗っ取られた!?」
アカネが、不敵に指を動かしていた。
「アオイ。貴女のシステムは古い。私の『上書き』の方が、一歩早かったようね」
アオイが放つはずだったデリートの光が、無理やり方向を曲げられる。
次の瞬間、天空にひしめいていた帝国軍艦隊の五分の一――約二万隻が一瞬で消滅し、青い空に巨大な「穴」が空いた。
「……貴女もいたのですね、アカネ。私の詠唱を支配するなど、初めての経験です」
アオイの纏う空気が一変した。
遠隔演算がダメなら、物理で叩き伏せる。
彼女の身体が幾何学的な装甲に覆われ、虚空から抜き放たれた剣がサーヤの喉元を狙う。
「……【時間結晶】、発動」
世界から音が消えた。
色が抜け、全ての粒子が静止する。
アオイが展開した絶対時間停止。
これならば、いかにアカネと言えど「上書き」は間に合わない。
アオイは、止まった世界の中で一人歩みを進め、余裕の表情でサーヤの胸元に剣を突き立てた。
――ビリビリビリ、ビリッ!!
静止画の世界に、亀裂が走った。
ガラスが割れるような音を立てて時間が砕け散り、停止したはずの世界からサーヤが「よいしょ」と飛び出してきたのだ。
「ななな、な……っ!? 何ですか、貴女は! なぜ動けるのですか!」
目を白黒させるアオイ。その隙を見逃すサーヤではない。彼女はアオイの手にある剣を、指先ひとつで「コピペ消去」した。
「理屈っぽいのは嫌いなのよ。結局、最後は拳で語り合うのが一番でしょ!」
サーヤが踏み込む。
一撃。
何の捻りもない、だが全身のバネを乗せた鋭いボディーブローが、管理OSの腹部にめり込んだ。
「ぐ、え……っ!?」
世界を統べる神が、たった一発のパンチで地面に沈んだ。
停止していた時間が、ブロックが崩れるように回り始める。
「サーヤ様、ご無事ですか?」
「まあね。ちょっと手が痛いわ。あんた、体硬すぎよ」
這いつくばるアオイは、信じられないものを見る目でサーヤを見上げた。
「物理法則……時間法則まで無視するなんて……。はっ、まさか貴女は、四次元戦士なのですか?」
「アタシは四次元生まれ、四次元育ちだけど、戦士じゃないわ。海賊よ」
「四次元戦士って何? 初めて聞くけど」
サーヤの問いに、アオイは戦慄を隠せないまま、喘ぐように答えた。
「……先ほど私が滅ぼした四次元兵の、さらに上位に位置する存在。あらゆる物理・時間法則を超越したスキルを使いこなす、伝説の種族……。私が知る限り、この宇宙には、四次元大王……そして、その『行方不明の娘』しかいないはずですが……」
「ふーん、面白そうな話だけど、今はそれよりアンタにお願いがあるの」
サーヤは、アオイの言葉に一切の興味を示さず、倒れ伏すアオイの顎をクイッと持ち上げた。そして、獲物を定めるような冷徹な、しかし情熱的な商売人の目でその顔を覗き込む。
「あんた、さっきボディを入れた時に分かったんだけど、いい身体してるわね。顔も整ってるし、その無機質な感じ……『クール系美少女』として需要がすごそうだわ。……あんた、うちの専属モデルになりなさい」
「……も、モデル? 私は管理者、です。服を着替えて記録されるための機械では……」
「問答無用よ! あんたが消しちゃった十万人のブロマイド売上損失分、しっかりその身体で働いて返してもらうわよ!」
神の系譜すら「商品価値」で片付ける強欲令嬢。
管理OSアオイの、終わりのない「着せ替え労働」の幕が上がろうとしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
伝説の四次元戦士かもしれないという重大な伏線を、「モデル向きのいい身体」という一点で塗り潰すサーヤ様。もはや彼女の欲望の前では、宇宙の法則も神のプライドも無力です。
「一括消去」というチート能力を持った神が、次は「フリフリの衣装」という地獄に叩き落とされる!?
アオイのモデルデビューが気になる方は、ぜひ【☆☆☆☆☆】で応援を!




