第9話:決戦前夜、絶望の進軍
「――明日、我々はルーンを完全に強奪し、アオイとの決戦の準備をする」
ルーン聖王国の城門には、あふれんばかりの兵がひしめいている。
全身真っ赤なプレートに身を包み、レナードが高らかに宣言した。
兵の中には初めての老化を経験し、恐怖のため自殺するものが現れた。
このままでは、アオイとの決戦の前にレナード軍は全滅する。
そうなる前にルーンを滅ぼし、この国の人間のエーテルを手に入れるのだ。
人間のエーテルは四次元エネルギーの源になる。
かつて正教会がエーテルの魂を集めたのと同じように、
レナードも3次元の魂を集め、四次元の魔王に対抗しようとしている。
だが、時間がなさすぎるのだ。
「一刻も早く、ルーンを起点にアオイの支配を終わらせるのです」
その言葉に、生き残った四天王ジャンと、
新たに召集された大罪人集団『七狂星』の面々が不敵に笑う。
「へへへ、レナードさん。
どうせ相手は魔法すら満足に使えない下等種族だ。俺たちだけでもいいんだぜ?」
「いいえ。相手にはアオイの端末と思しき個体がいる。
それに、ザックとフォーンを討ったイレギュラーの小僧も……。出し惜しみはしません」
そういうと、レナードは眼下に広がる四次元から連れてきた全兵力十万、
ドラゴンとオーガの混成部隊を眺めた。
それは、ルーンの住人にとっては文字通りの「世界の終焉」を意味していた。
城門に集まった大軍の報せは、偵察に出ていたアルによって正教会へもたらされた。
「……あんなの絶対に無理。地平線の先まで、魔族と怪物がいるんだ……!」
アルは震える足で戻ってきて報告した。
十万の魔軍に対し、ルーン軍は市民兵を合わせても一万に満たない。
もたらされた情報は、瞬く間にルーン兵の間で広がった。
兵士たちの士気が目に見えて削がれていく。
その重苦しい空気を、サーヤの快活な声が叩き割った。
「さあ! 決戦の準備よ。
マリア、セシリア、マリ。例の『最強装備』に着替えなさい!」
「い、嫌です! 聖女として、
そんな破廉恥な格好で死ぬなんて絶対に嫌です!!」
マリアが必死に抵抗する。
彼女の手に握られているのは、網タイツとウサギ耳が付いた、
どう見てもバニーガールの衣装だ。
「いいから着るの! 兵士たちを本気で鼓舞するなら、
これしかないってアタシが保証するわ!
(……これでまたブロマイドの売上が上がるわね、うふふふ)」
三時間後。
教会の広場を埋め尽くした一万の兵士たちの前に、
「奇跡の少女たち」が現れた。
「――ルーンの……民よ、聞くのですっ!」
壇上に立ったのは、顔をリンゴよりも赤く染め、
震える手で聖杖を握るバニー姿のマリア。
そして隣には、スク水姿のマリと、ミニスカナースのセシリア。
あまりに衝撃的、かつ神々しい(?)光景に、兵士たちは呆然と静まり返った。
「(……サーヤさん、今すぐ私をデリートしてください……っ!)」
マリアは涙目で震えながらも、
アルから放たれる【チャーム】の波動に乗せて叫んだ。
「このまま……親や子供をいたぶられながら、支配者に屈して生きるのですか!?
私は……私は、最後の一瞬まで、自由なルーン人として誇りを持って戦いたいのです!」
バニー姿の聖女が放つ、決死の咆哮。
その瞬間、兵士たちの心に爆発的な火がついた。
「おおおおおお……! バニー姿の聖女様が、我々のためにあんなに恥を忍んで……!」
「守らねば! あの網タイツ(聖域)を、俺たちが命に代えても守り抜くのだぁぁぁぁ!!」
「アカネ、今のをサブスク配信予約して! 限定受注よ!」
「承知しました。現時点で前月比三〇〇%の予約数です」
サーヤは裏で札束の幻影を数えながら、完璧な作戦配置を指示した。
トウマとマリ、ソウザが前衛。セシリアとアカネが後衛。マリアとアルが支援。
いよいよ、一万vs十万の決戦の幕が上がる――はずだった。
……さらに三時間が経過した。
「どうしたの? 奴ら、道にでも迷った?」
一向に現れない敵軍に、不審に思ったサーヤはキャリーに上空偵察を命じた。
返ってきたのは、言葉にならないキャリーの悲鳴だった。
『……あ……全滅よ。全滅してるわ、二代目……!』
送られてきた映像には、地平線まで続く魔族の死体の山があった。
咆哮を上げていた十万の軍勢。傲慢だった幹部たち。
それらは、ある者は黒焦げに、ある者はバグったデータのように切り刻まれ、
無残な骸として大地に転がっていた。
「……なんだこりゃ? いったい、誰が……」
愕然とするトウマの横で、
アカネだけが、冷たく澄んだ瞳で空を見上げていた。
「アオイ……。マザーシステム自らが、
この領域の『一括消去』を実行したのでしょう」
いよいよ最終章に向けて、物語はラストスパートがかかってきます。
20話完結ですが、新作も今日からスタートしています。
本作同様に、どうぞ宜しくお願い致します。




