8.生存率5割。最強メイドが仕掛けた「次元の博打」
アタシたちがコクピットへ駆け込むと、
メインモニターには帝国軍のレーダー艦がすでに牙を剥いていた。
あの日以来、しつこくアタシたちを追っているストーカー野郎だ。
「……最悪ね。逃げようにも、こっちはガス欠よ」
「ロク爺、充填率は!? 」
「まだ30%じゃ。飛ぶのが精一杯。
ユーリの全力射撃を一発でも撃てば、この船は即座に漂流ゴミに早変わりじゃな」
現代の光子力エネルギーは粒子密度が高い。補充には時間がかかる。
装甲の厚い戦艦を相手にするには、あまりに心許ない残量だった。
「エネルギーモジュールを積み込むわよ! 1%でも多く稼ぐの! 」
アタシがエリカと二人がかりで重いモジュールを運び出そうとした、その時。
「現在の充填率では、逃亡も戦闘も不可能です。……そこで、私に一つ秘策がございます」
アカネがトコトコと近づいてきた。
その表情には、メイド服に似つかわしくない冷徹な演算の光が宿っている。
「説明の前に、私とこの船のメインメモリーを直結させていただきます。
・・・・・・これから【時間結晶】プログラムをインポートし、この空域に時空の歪みを発生。
そのまま[3次元]へ次元跳躍します」
「3次元!?……成功率は? 」
「船の耐久力を考慮して……50%です」
エリカの動きが止まった。
「……おいおい。二回に一回は死ぬってことかよ。笑えねーぜ」
「いいじゃない! 五分五分なら、成功したも同然よ! 」
アタシは迷わず断言した。
「エリカ、このまま包囲されたら助かる確率は? 」
「……一割もないだろうな」
「なら決まり。アタシは五割の方を掴み取るわ。ロク爺、アクセス準備!」
「二代目が正しい」
無線からキャリーの冷静な声が響く。
「……へっ、分かったよ。二代目の意見を却下して、
部屋に10年引きこもられる方がよっぽど損害がデカいからな!」
「あんたたち、失礼ね! アカネ、やってちょうだい!」
「了解しました。……サーヤ様、また向こう側でお会いしましょう」
その言葉を最後に、アカネの意識が船へと溶け込んでいった。
それからの数分間は地獄だった。
モニターには次々とワープアウトしてくる帝国艦隊。
その数、さっきの三倍。
包囲網完成まで、あと五分。 だが、接続したアカネはピクリとも動かない。
「10、9、8……」 ユーリが虚しくカウントダウンを刻む。
敵が攻撃態勢に入った。
その瞬間――船体が、生き物のように震えた。
「インポート完了。……目標、指定座標20569HG。……跳躍します」
アカネの棒読みの合図と共に、オンボロ船のエンジンが咆哮を上げた。
加速。加速。そして、加速。
エリカの操縦技術を遥かに超えた、物理法則を嘲笑うような機動。
「……嘘だろ。このボロ船が、ご機嫌にクールなダンスを踊ってやがるぜ!」
エリカが歓喜の声を上げる。
景色がぐにゃりと歪み、光速の壁を突き抜けた。
「キャリー、指定座標【20569HG】って、どこなの!?」
キャリーが端末を叩き、驚愕に目を見開く。
「……第26星系。人類発祥の地。……地球です」
「目標、西暦2500年。……ワープアウトまで、3、2、1……放出!」
ドォォォォォン!!
凄まじい衝撃と共に、モニターが真っ白に染まった。
雲を突き抜け、次元の壁を食い破り、アタシたちが放り出された先には――。
クレーターだらけの、荒涼とした銀色の地平線が広がっていた。
「月の表面まで0.15光年! 着陸態勢が間に合いません!」
「エリカ、頼んだわよ!」
「任せな! キャリー、不時着ポイントを出せ!」
「二時の方向! なだらかなクレーター!」
船体が激しく軋み、火花を散らしながら銀の砂漠へと突っ込んでいく。
<< ドガァァァァァァァン!! >>
非常用バッテリーが作動し、コクピットに再び微かな明かりが灯る。
誰も、喋らなかった。
アタシたちは憔悴しきった静寂の中で、窓の外――漆黒の宇宙に浮かぶ、
美しくも残酷なほど「青い惑星」を、ただ黙って見つめていた。
ご一読いただきありがとうございました!
「続きが読みたい」「ざまぁが見たい」と思われた方は、
ぜひ評価やブックマークをよろしくお願いします。
皆様の応援が、作者のやる気をますます引き出します!




