第6話.戦場は、笑いと歌とブロマイド
「――ふん、帝国軍の残党狩りなど、暇つぶしにもなりゃしない」
四天王の一人、水のジャンは血の滴る剣を納め、冷たく言い放った。
四次元人たる彼らにとって、この時代の兵士など、
設定ミスを疑うほどの低ステータスでしかない。
あっ気ない勝利に祝杯を挙げる気にもなれず、
ジャンが不機嫌そうに鼻を鳴らしたその時だ。
「……ジャン様。シャドーからの定期連絡が途絶えました。
消息を絶った場所は、例の教会付近だと思われます」
伝令の言葉に、ジャンはニヤリと口角を上げた。
「ほう……あいつを消したか。本格的にヤバい相手、
あるいは久しぶりに骨のある奴が来たらしいな。嬉しいぜ」
「ちょっとジャン、嬉しがってる場合?」
呆れたように声をかけたのは、風のフォーンだ。
「ザックがやられ、シャドーまで。
……本当はメラードを誘うべきじゃない?
あいつを抜きにして動くと、後で何をされるか……」
「……」
メラードの名が出た瞬間、二人の間に重苦しい沈黙が流れた。
四天王といえど、その力は均等ではない。
最弱のザックは外の世界で強さを誇示したがったが、メラードだけは別格。
他の三人が束になっても敵わない、圧倒的な暴力の権化。
「あいつを呼べば、手柄は全て持っていかれる。
それに、俺たち二人が組めば負けはしないさ」
ジャンは二個師団を動員し、劇場を三重に完全包囲した。
「キャアアアア!」
「逃げろ! 兵士たちが攻めてきたぞ!」
平和な歌劇場は、一転して戦場へと化した。
管理OSアオイの支配下で牙を抜かれ、
聖魔法すら使えなくなった一般市民たちが逃げ惑う。
「セシリア! マリ! 市民を避難させて!」
「わかっておりますわ! 聖なる光よ、盾となれ!」
セシリアとマリ(ホログラム)が必死に奮戦する。
だが、敵は数に勝る四天王軍。
四次元の技術を付与された銃弾と魔法が、じわじわと彼女たちを追い詰めていく。
「マリア様、こちらへ! 怪我人が!」
マリアは聖属性魔法を使い、倒れた人々を癒して回る。
だが、その背後から冷酷な銃弾が放たれた。
「セシリア!?」
咄嗟に庇ったセシリアの肩を弾丸が貫く。
崩れ落ちる彼女に、兵士たちが一斉に斬りかかった。
「――待たせてごめんね。ソウザ、あの辺、よろしく」
アタシの暢気な声が響いた瞬間、影が走った。
「朝飯前です。……全く、このご主人は人使いが荒い」
ソウザが指先に触れた瞬間、兵士たちがバタバタと倒れていく。
闇魔法【シャドータッチ】。
触れた者の全身に即死級の毒を回す暗殺技だ。
だが、それでも敵の数は数千。
「アタシは博士にもらったコレを使うわね」
アタシが取り出したのは、懐中電灯のような筒。
『いいか、サーヤ君。これを使う時は、決して自分に向けないようにな。
光を当てれば、敵は地獄の苦しみを得て気絶する』
……博士はそう言ってたけど、大丈夫かしら?
「えいっ!」
アタシがスイッチを押し、敵の塊に光を浴びせた。
パッと、あたり一面が白銀の光に包まれる。
「あはははははは!」
「なんだこれ、おかしくて、ハハハ! 止まらないッ!」
「た、助けて、ハハッ、笑いすぎて息が……ハハハハ!!」
地獄絵図だった。
数千の兵士たちが、腹を抱えてのたうち回り、爆笑している。
笑いすぎて呼吸を忘れ、顔を真っ白にして気絶する者。
顎が外れてもなお笑い続け、悶絶する者。
「……ちょっと、待ってください!」
マリアが血相を変えてアタシの腕を掴んだ。
「サーヤさん、止めて! この兵士たちは、
洗脳されているだけのルーンの民です!
私は、同胞をこんな風に傷つけたくない!」
「えー? でも放っておいたらこっちがやられるわよ」
「何か、別の方法はないかしら……?」
マリアの真っ直ぐな瞳に、アタシは溜息をついた。
「わかったわよ。……アル、マリア、舞台に立ちなさい!
そこで踊りながら歌うのよ!」
「えええ!? こんな時にライブ!?」
「いいから! アル、あんたは全魔力を込めて
『幸せな気持ち』をチャームに乗せてバラ撒きなさい!」
しぶしぶ二人が舞台へ駆け上がり、歌い始める。
すると、どうでしょう。 さっきまで殺意に満ちていた、
あるいは笑い転げていた兵士たちが、
一人、また一人と武器を捨て、呆然と舞台を見上げ始めた。
アルのチャームが、彼らから「怒り」と「洗脳」を剥ぎ取っていく。
次第に兵士たちの目から涙が溢れ、戦場は静かな聖域へと変わっていった。
「いい? ソウザ。歌が終わったら、この映像を空に投影しなさい。
それと、この屋台を広げるのよ」
「お嬢……。これは、まさか」
「今日限定のサイン付きブロマイドよ。心が浄化された今なら、言い値で売れるわ!」
「……俺は前世で、どんな大罪を犯したんだ」
◇ ◇
一方、劇場の裏手。
トウマの前には、二人の四天王が立ち塞がっていた。
「どうやら、向こうは『始末』がついたようだな、フォーン」
ジャンが冷笑する。
だが、フォーンは風に乗って聞こえてくる歌声に顔を引き攣らせた。
「……ジャン、おかしいわ。
チャームの波動……兵士たちの戦意が消えてる。マズいわ、すぐに行かないと!」
フォーンが空へ舞い上がろうとした瞬間、
その足元から巨大な岩の柱が突き出した。
「――待てよ。そっちには行かせない」
トウマが剣を抜き、不敵に笑う。
「こ、これは……ザックの土魔法!? まさか、この小僧がザックを……!」
ジャンが驚愕に目を見開く。
そのジャンを遮るように、メイド服の少女が静かに立ちはだかった。
「トウマ様を傷つけると、ご主人様の機嫌が悪くなりますので」
「……お、お前……そのエーテル……まさか、『アオイ』か!?」
ジャンが後ずさりし、震える。
アカネから放たれる無機質なプレッシャーは、
彼らにとっての絶対神、アオイそのものだった。
「……いいえ。私はただのメイド・アカネです」
「嘘だッ! 貴様のような化け物が、なぜあんな小娘に従っている!
フォーン、死ぬ気でやれ! こいつらは……本物の化け物だ!!」
第10話、いかがでしたでしょうか!
ついに動き出した四天王ジャンとフォーン。
ですが、彼らの前に立ちはだかったのは、サーヤが持ってきた
「笑うしかない地獄のライト」でした。博士、一体何を作ってるんですか……。
そして戦場ライブ。マリアの慈愛の歌声が、
傷ついた兵士たちの心を癒やしていきます。
……まあ、その感動の横でソウザに「限定ブロマイド」の
屋台を準備させているサーヤは、相変わらずの強欲っぷりですが(笑)。
ラスト、アカネを見て震え上がるジャン。
四天王をもビビらせるアカネの正体とは一体!?
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