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第5話.影を刈る死神、スク水に負ける

「――ザックが消えただと?」


 四天王の一人、火のメラードが不機嫌そうに声を荒らげた。

四次元から降り立った彼らにとって、この三次元の世界は、

本来なら自分たちが構築したゲームの盤面に過ぎない。


「四天王最弱とはいえ、奴も四次元人だ。

三次元の土着民に敗れるはずがないだろう」


「あはは、どうせまた『あっち系』の少女でも見つけて、

職務放棄して追いかけ回してるんじゃない?」



 嘲笑うのは、風の四天王フォーン。

彼らはタカをくくっていた。


ザックの軍勢が壊滅したという急報が入っても、

なお「何かの間違い」だと信じて疑わない。



「もしかして、四次元大王が将軍を動かしたのではないか?」


「それなら合点がいくな。……だがジャン、

奴らは例の『狂犬』の相手で手薄なはずだ。

我々に割く戦力などないはずだろうよ」


 水の四天王ジャンの冷静な分析にも、どこか傲慢さが滲む。


「いずれにせよ情報が必要だ。……シャドー、いるか?」


 ジャンの背後、影の中から実体のない声が応えた。


「はい、ここに」



「我らはこれからフォーンと共に帝国軍の残党を叩き潰してくる。

貴様はその間に、ネズミどもの素性を探れ。邪魔なら……消して構わん」


 返事はない。

ただ、そこにあったはずの気配が霧のように消え去った。


「あいつは俺が直に育てた隠密剣士だ。

索敵も暗殺も四次元人並みの腕を持たせてある。

俺たちが戻るまでに、相手を全滅させなきゃいいんだがな。あははは!」



◇ ◇


 その頃、ルーンの街外れに建つ『シェンカー劇場』は、

異様な熱気に包まれていた。


「アル様、なんて麗しいお姿……!」


「セシリア様こそ究極の美少年よ、私もうダメ……!」


 劇場の外まで漏れ出す黄色い悲鳴。

そして、その横ではマリアに向けられた野太い声援が轟いている。


「マーーーリーーーちゃーーーん!」

「LOVE! LOVE! マリちゃーーん!!」


 もはや単なる歌劇ではない。

アルの【チャーム】によって、民衆の深層意識には

「本来のルーンの歴史」が刻まれ、それが熱狂的な支持へと変換されていた。



「見てよ、この売上! 目標の2倍を超えたわ!」


 アタシは飛ぶように売れるブロマイドを数えながら、鼻歌が止まらない。


 アルとセシリアの美少年コンビで女性客を、

 マリアとマリ(博士のホログラム)で男性客を――

ターゲット層を全方位カバーしたアタシの商魂が火を噴いている。



「サーヤ、もうこの辺でいいんじゃない?

マリア様の物語は、新しいルーンの政治活動にまで繋がり出しているそうよ」


 マリが心配そうに言うが、アタシの辞書に「ほどほど」という言葉はない。


「いやいや、マリくん。ここからが本番なのよ。

 さあ、撮影を始めるわよ!

アルとセシリア、ここで薔薇を咥えなさい!

そしてマリ……アンタはこの『スクール水着』に着替えるのよ!」


「な、ななな、何を!? 絶対に嫌だ!」


 抵抗するマリの服を、アタシが無理やり引っ剥がそうとした、

 その時。


「サーヤ様、結界に何かがかかりました。高度な隠密スキルを使用しています」


 アカネが淡々と報告を上げる。


「あー、いいわよ。大丈夫。

こんなこともあろうかと、アイツを呼んであるから。

それより今は撮影よ! ほら、マリ、足を閉じない!」



 教会から10キロ先にある、朽ち果てた煙突の頂。

そこで男――シャドーは、背景の光と同調し、景色に溶け込んでいた。


「(……奴ら、何をやってるんだ? 薔薇を食っているのか?

こっちは幼女の着替え……?)」


 望遠魔法で劇場の裏側を覗き見していたシャドーは、困惑していた。

こんなふざけた連中が、あの暴虐なザックを倒したとは到底思えない。



「(……これなら、ジャン様やフォーン様の手を煩わせるまでもない。

今ここで、全員まとめて仕留めて――)」


 男がその場を立ち去ろうとした、刹那。

背筋を氷の刃で撫でられたような、異常なプレッシャーが全身を襲った。



「(……お、俺が相手に気づかず、一方的に視認されていただと!?)」



『おや、流石だね。気がついたのかい?』


 耳元で囁く声。

だが、どれほど索敵を広げても気配は一切感じない。


(ヤバい、やられる)


 何千人も暗殺してきた本能が、

今度は自分が「刈られる側」だと絶叫している。


男は身体強化魔法を限界まで引き上げ、3キロ先の時計台まで一気に跳躍した。

だが、その視線と圧力は、まるで皮膚の裏側に張り付いたかのように離れない。



「もう終わりかい? もっと楽しませてくれよ」


「あ、あああ! お前は何者なんだ!? カネか? 女か!? 命だけは……っ!」


「あいにくと、主人には恵まれている方なんでね。

いや、裏切ったら四次元まで追いかけてきそうだな、あのお嬢様は。あはは」


「お、お前……四次元人なのか……?」


「おしゃべりは、ここまでだ」


 冷徹な断罪の言葉と共に、

シャドーの身体は文字通り「塵」となって消滅した。

魔法の残滓すら残さない、圧倒的な消去だ。



直後、劇場の控え室に、黒ずくめの男・ソウザがひょっこりと姿を現した。


「6500年ぶりに戻ってきたかと思えば、いきなり仕事を振られるとはね。

……ほんと、飽きさせないお嬢様だ」


「あらソウザ、早かったじゃない。ちょうどいいわ、あそこのレフ板持って!」


「……俺の扱いは、この時代になっても変わらないらしい……とほほ」


 最強の暗殺者は、呆れ顔で撮影スタッフの列に加わった。

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