第4話.瓦礫に咲く歌劇と、土を喰らう黄金の強奪者
「さあ、開店準備よ! 6500年分の鬱憤、全部売上に変えてあげるわ!」
アタシの号令とともに、アカネのナノマシンが唸りを上げた。
一夜明けた翌朝、街の外れのボロ教会は変貌を遂げていた。
外見こそ周囲に溶け込む廃屋だが、一歩踏み込めば
そこは最新鋭の迎撃システムを備えた鉄壁の要塞。
そしてその隣には、不自然なほど豪華な「シェンカー劇場」がそびえ立っていた。
「マリア様、もう泣いていらっしゃる暇はありません。
あなたは今日から、この国の『希望の歌姫』兼『ガチャの目玉商品』なのですから!」
「……ええ、わかっていますわ、アカネさん。
この胸の痛みは、歌声に乗せて民衆に届けましょう。
そして、きっとこのルーンに、光を取り戻します」
マリアは覚悟を決めた。
かつての皇女が、アルと並んで舞台に立つ。
演目は『失われた王国の再興』。
それは、卑劣な四天王によって滅ぼされた聖王国の悲劇と、
それでも消えなかった民の希望を描く物語だった。
アルの【チャーム(魅了)】が劇場を包み込み、
セシリアが降らせる本物の光魔法の粒子が、
民衆の凍てついた心を溶かしていく。
「あ、あの光は……伝説の聖魔法?」
「なんて美しい歌声だ。俺たちは、何を忘れていたんだ……?」
観客席のあちこちで、管理下にあった人々の目に光が戻り始める。
そこへ、アタシはすかさず「限定ブロマイドガチャ」を投入した。
「はいはい、感動の余韻に浸りたいならこの1枚!
今なら王女マリアの直筆サイン入り(※アカネによる代筆)が当たるかもよ!」
劇場が民衆の心を揺さぶる一方で、アタシたちは実力行使にも出た。
アカネが張った「悪意ある者を吹き飛ばす結界」を盾に、小規模なゲリラ戦を展開。
嫌がるトウマを先頭に立たせ、アタシとアカネ、3人で
街を徘徊する四天王の巡回兵を片っ端から襲撃したのだ。
「キリがないわね。でも、いい練習台じゃない」
「……練習台にされてる俺の身にもなってくれ」
愚痴をこぼすトウマだったが、
実戦の中でその才能が異様な進化を見せ始める。
四次元の力を継承した兵士たちと剣を交えるたび、
彼の脳内に未知の剣理が刻まれていく。
そして7日目、ついにその力は形を成した。
新スキル【天下無双】。
相手の剣と触れるたびに、その技能と魔力を強制的に引き抜く
――驚異の強奪スキル。
その覚醒を待っていたかのように、
ついに教会の外壁が轟音と共に砕け散った。
「――ネズミ共の追いかけっこも、今日で終わりだ」
砂塵の中から現れたのは、巨大な戦斧を担いだ筋肉の巨漢。
四天王の一人、土のザックがいた。
その後ろには、見るからに世紀末な筋肉隆々の部下たちが並んでいる。
「やっと見つけたぜ。俺様が一番最初にネズミを見つけるとは、ついてるぜ」
ザックは下卑た笑いを浮かべ、獲物を定めるようにアタシたちを睨みつけた。
でも、こんな雑魚、トウマの練習台で十分だ。
「トウマ、アンタ一人でやりなさい。アタシたちは手を出さないから」
「……は?」
トウマが虚を突かれた声を出すより早く、ザックが腹を抱えて爆笑した。
「ギャハハハ! 四天王の俺様を相手に、一人でやれだと?
力の差を知らない3次元の弱き者たちめ。
おい野郎ども、女二人は生かしておけ!
俺様の部下たちに遊ばせてやる。せいぜい踊りな!」
ザックの部下、世紀末な大男二人がアタシとアカネめがけて
大剣を構えて突撃してくる。
「アカネ、魔法は禁止ね。剣で遊びましょう」
サーヤの短剣と、アカネのレイピアが閃く。
相手は精鋭のつもりだろうが、彼女たちの速度には掠りもしない。
数合の交差の後、男たちは何が起きたかも分からぬまま、
喉と心臓を貫かれて絶命した。
「……何ッ!?」
「横を見てる余裕なんてあるの?
ほら、筋肉バカ。アンタの相手は目の前の『ビビり』トウマよ」
「……三次元の雑魚が、調子に乗るなよ!」
ザックが大斧を叩きつける。
だが、トウマの剣が斧に触れるたび、
ザックの動きは目に見えて鈍くなっていった。
新スキル【天下無双】が発動したのだ。
このスキルは剣を交えるごとに、相手のスキルとパワーを奪っていく。
< シャキーン >
甲高い音が鳴る度に
ザックのSSS級たる所以――長年の経験と身体能力が、
トウマへと引き抜かれていく。
「な……ぜだ!? なぜ、お前が俺のスキルを!?
俺が自分のスキルで斬られるだと?……分からねえ……!」
トウマが奪ったザックのスキルで、攻撃してくるので
ザックは混乱状態に陥っている。
ついには、剣技で勝てないと悟り、ザックの目に血走った狂気が宿った。
「ふざけるなッ! 剣がダメなら、この国の土ごと圧し潰してくれるわあッ!」
ザックが吠え、地面に拳を叩きつけた。SSS級の魔力が大地を駆け巡る。
「死ねえ! 『ガイア・デストラクション』!!」
地響きと共に、教会の床が牙のように突き出し、
巨大な岩の激流がトウマを飲み込もうと迫る。
地形そのものを武器にする、回避不能の広域殲滅魔法。
「あいつ、本気出したわね。……でも、遅いわよ」
まったく、脳筋のバカはこれだから困る。
最初から得意技を出せばいいのに、今更遅い。
もうトウマのターンなのだ。
トウマの手元には、かつてこの国で最も気高いとされた
伝説の剣が――その幻影が形を成している。
「――『擬似・エクスカリバー』」
トウマは黄金に輝く大剣を振り抜いた。
放たれた光の奔流が、迫りくる巨大な岩山を紙細工のように粉砕し、
ザックの放った魔力そのものを消滅させた。
剣が生み出した光はそのまま真っ直ぐに突き進み、
絶望に目を見開いたザックの喉元を通り過ぎる。
一瞬の静寂。
ザックのSSS級の魔力によって隆起していた大地が、
砂となって崩れ落ちる。
そして、ザックの首もまた、
静かにその巨体から離れ、地面へと転がった。
「……ふぅ。これで一人、か」
トウマが剣を収める。
「なーに、カッコつけてんのよ。
はやくアタシを手伝いなさい」
アタシは素早くザックの死体に近づき、金目のものを頂戴する。
とととととと、とんでもないも持っていた。
なんと、マリの体操服ブルマカードを、懐に忍ばせていたのだ。
「おっさん、見直したわ!
その顔で本当はマリ推しの変態オヤジの1人だったとは!」
アタシは転がっているザックの顔に敬意の言葉を投げかけた。
「内部工作は順調よ。大軍が来たら、
ユーリに例の『ミニ・ウルティマウェポン』を撃たせてね。
ブラックホールにならない程度で、おねがい、ね」
アタシが不敵に笑う背後では、マリアの歌声が力強く響いている。
『聖王国奪還』、そして『歴史の再修正』。
四次元海賊によるカオスな反撃は、まだ幕を開けたばかりだ。
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