第3話.神の消えた王国
「――これが、アタシたちの愛したルーンなの?」
サーヤの隣で、マリアが声を震わせた。
かつて「白亜の真珠」と称えられた聖王国ルーン。
6500年の時を超えて辿り着いたその場所には、美しい大理石の街並みも、
清らかな噴水の音も、何一つ残っていなかった。
空は重苦しい灰色に澱み、
管理OS『アオイ』の監視ドローンが羽虫のように飛び交っている。
だが、この街を真に腐らせているのは、アオイの無機質な管理以上に、
この国を実効支配する「四天王」たちの下卑た暴力だった。
「……信じられない。あの美しかった大聖堂が、あんな……!」
マリアが指差した先。かつて神への祈りが捧げられていた聖域は、
今や鉄格子が並ぶ**『奴隷市場』**へと成り果てていた。
聖歌が響いていた広場には、四天王の私兵たちが略奪品を奪い合い、
鎖に繋がれた人々を笑いながら鞭打つ音が響いている。
「バビロニア」で会った博士の話によると、
かつてこの国を襲った悲劇は、あまりにも卑劣なものだった。
1500年前、アオイの冷徹な統治に喘いでいたルーンの人々の前に、
突如として四人の「英雄」が現れた。
彼らは四次元から来た強大な魔力を使い、
管理OSの脅威から民を救う仲間の振りをして王国に近づいたのだ。
当時の王族は、彼らを心から歓迎し、貴族の地位を与え、
家族のように迎え入れた。しかし、それが地獄への招待状だった。
権力の中枢に入り込んだ四人は、本性を現した。
王族の姫を力ずくで奪うと、四天王の一人が自ら「国王」を自称。
反抗する騎士団や貴族は、軍を掌握した残りの三人が「大掃除」と称して皆殺しにした。
幽閉された王族たちは、秘密裏に処刑され、聖王国の高貴な血筋は絶えた……
「善意を踏みにじり、王を殺し、
民を家畜に変えた……。四天王って奴ら、獣にも劣るわ」
サーヤが吐き捨てるように言った。
こんな世界になった原因は自分の欲望にあるのだが、
こいつらのやり方は反吐がでる
「魔法の気配が、全くしませんわ……」
セシリアが青ざめる。
かつての聖魔法学園は、今や軍の汚らしい宿舎となり、
神聖な教室は兵士たちの賭場と化している。
その時、路地裏から怒号が響いた。
「待てよ、小娘! ザック様への献上金が足りねえ分は、
その体で払ってもらうぜ!」
「や、やめてください……っ!」
酒に酔った兵士たちが、一人の少女を追い回していた。
動いたのはトウマだった。瞬きする間もなく、
彼は男たちの懐に飛び込むと、一撃で彼らを地面に転がした。
「……その汚い手で、子供に触るな」
「なんだと!? 四天王ザック様の兵に手を出すとは、どこの回し者だ!」
駐屯兵たちが集まってくる。マリアが凛として前に出た。
「兵士の方、少女を襲うのは重罪です。
ルーンの法に基づき、適切な処罰を!」
「ルーンで法だと? ギャハハ! そんなもん、
俺は生まれた時から見たことがないぜ。
それよりも俺達と遊ぼうや、姉ちゃん」
兵士の手がマリアに伸びた瞬間、セシリアの杖が光を放った。
この地で失われたはずの『聖魔法』が炸裂し、
兵士たちは悲鳴を上げ吹き飛ぶ。
「な、なんだ!? 魔法だと……!?
まさか、四天王様と同じ力を持っているのか!?」
四天王以外の魔法を知らぬ兵士たちは腰を抜かし、恐怖に顔を歪める。
「サーヤ様、騒ぎが大きくなります。一時撤退を」
アカネに促され、一行は街の外れのボロ教会へ逃げ込んだ。
「はぁ、はぁ……あのクズども、絶対にタダじゃおかないわ」
サーヤが怒りに震えながら埃を払っていると、
奥から一人のシスターが現れた。
「どなた……ですか? ここにはもう、何もありませんよ」
そのシスターの胸元で揺れる『ネックレス』を見た瞬間、
マリアの心臓が跳ねた。
「……あなた、そのペンダント……どこで手に入れたのですか?」
「これは、母の形見です。先祖代々、『ルミナ』という名と
ともに祖先から受け継いできたものですが……」
「ルミナですって……!」
マリアの目から、大粒の涙が溢れ出した。
そのネックレスは、6500年前。マリアが聖王国を離れる際、
愛する妹ルミナに「お守り」として託した私物だったのだ。
「生きて……いたのね。私の、家族が……」
マリアはシスターの手を握りしめ、嗚咽を漏らした。
血脈は絶えていなかった。
聖王国の魂は、この絶望の淵でも、細い糸のように繋がっていたのだ。
「……決まりね」
サーヤがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
その目は、すでにこの最悪な状況を「どう金に換え、どうひっくり返すか」
という海賊の輝きを取り戻していた。
「このボロ教会を、アタシたちの反撃の牙城にするわよ。アカネ! 準備はいい?」
「ええ、サーヤ様。一晩あれば、ここを難攻不落の要塞……
そして、最高の『劇場』に変えてみせましょう」
聖王国奪還作戦。 その第一歩は、祈りではなく、欲望と歌劇、
そして「ガチャ」から始まることになった。
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