第1話.忘却の聖域:書き換えられた銀河の叙事詩
「アカネさん、俺も……限界です……。安静用ベッドを……」
最後に残ったトウマが膝を突いた。
これでルーンから乗り込んだ5人全員がダウンしたことになる。
「無理もないぜ。初めての四次元航法だからな。
アタイだって最初は、自分の脳みそがシェイクされてる気分だったし」
「ボクも! 」
アタシの船は、このまま四次元大王の城下町へ向かう予定だったが、
5人の体調が不安なので、一度3次元へ戻ることにした。
帝国軍に見つからない田舎の星なら大丈夫だろう。
アタシの船は、ついさっきまでいた月へ向かって舵を取った。
同じ月と言っても、今回は6500年後の月だ。
今回の移動はトラブルもなく、すんなりと着陸できた。
つい数時間前までいたドッグに、また戻ってきたのである。
6500年の月日が経っているが、出発したままの状態だ。
5人はドッグのベッドに運ばれ、
しばらくの間、アカネが介抱することになった。
状況次第では、5人をここに残して四次元に向かう。
その判断をアカネがつけるためだ。
「アタシは少し地球の様子を見て来る」
「じゃあ、運転手が必要だな」
「座標に詳しい者も必要ですね」
「ボクは……、えーっと……」
「ユーリも来たいなら一緒に来なさい」
アタシ達は学園があった場所に向かった。
しかし、さすがに6500年の時間が過ぎている。
学園の場所は、小さな村になっていた。
近代的な基地と学園は、跡形もなくなり、
伝統的な中世風の街並みが広がっている。
街の中心には教会が立ち、
人々は馬車で移動し、小麦を育てて生活している。
「アカネ、もしかして時代を間違えた?」
「アカネさんがミスをするはずがありません。
確かにここは6500年後の地球です」
「ボクが聞いてくるよ」
アタシ達の前を馬車で小麦を運ぶ老人を見つけ、
ユーリが走って追いかけた。
「魔法科学園?大昔ここにあったって聞いたことはあるが、
ワシの爺さんの爺さん、もっと昔のことらしいからのう」
「じゃあ、基地も一緒に移動したのかな」
「基地?なんじゃそりゃ?」
「軍隊がいるところだよ」
「そんなもん、ワシは見たことがない。
王様の騎士なら城にいるもんじゃろ」
「やっぱり、おかしいよ。
ここは地球に違いないんだけど、話を聞いていると
時代錯誤なことばかりなんだ」
「こんなことなら、アカネを連れて来ればよかった」
ユーリのいう通りだ、
アタシもさっきから違和感を覚える。何故だろう?
「二代目、あれを見ろよ」
エリカが指差した先。教会の入口には、神や天使ではなく、
青く発光するホログラムの神父が投影されていた。
教会の中に入れば、壁には村人の名前がびっしりと並び、
そこには「ランク」や「貢献度」を示す数値が不気味に明滅している。
「何これ……まるで学園の成績表じゃない」
嫌なことを思い出した。
毎週、Sクラスを目指しテストを受けて一喜一憂していたのだ。
「あちらは病院ですよね……、なんか変ですが……」
今度はキャリーが異変に気が付いた。
教会の隣の建物でも、フォノグラムが移され、
神父のような男が、病人たちに治癒魔法を施していた。
「よく見るとあれ、治癒魔法でもなんでもなく、
超音波による細胞活性化治療です。
……最新鋭の医療技術が、宗教の形をして潜んでいるわ」
なんだろう。この違和感……。
衣食住は中世レベル。
だが、生殺与奪の権を握る医療と秩序だけは、
目に見えないマザーシステム「アオイ」に完全に掌握されている。
『アオイ様のご慈悲に感謝を』
人々は自由を奪われていることさえ気づかず、
飼育されるペットのように「アオイ」を神と崇めていた。
「お前たち、今日のお勤めは終わったのか?」
アタシ達が街の様子を見ながら歩いていると、
街の城門を警備している兵士に呼び止められた。
「私達は旅の商人でちょうど今、この町に入ったのです」
「そうか、商人なら知ってると思うが、もしアオイ様の
ご慈悲にあずかりたいことがあれば、教会に行きなさい」
「また『アオイ』だ」
◇
アタシたちは急いで月に戻り、見てきた光景をアカネに報告した。
5人の容態をチェックしていたアカネは、いつになく冷徹な、
そしてどこか悲しげな瞳でモニターを見つめた。
「サーヤ様。皆さんが見てきたのは『過去』ではなく『末路』です。
……驚くべき事実が判明しました」
アカネが提示したデータ。
そこには、アタシが元にいた世界とは違う6500年の歴史が刻まれていた。
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