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第18話.男の宝箱は開けないのが、一番かっこいい

 アタシ達、ちびっ子メイドが学園品評会で大活躍をする1週間前。

別行動をとっていたユーリが生命の危機に直面していた。



「……腹が、減った……」


 聖都の路地裏。

潜入任務中のはずのユーリが、力なく壁に手をつき、崩れ落ちた。  


 究極の武器集めに集中するあまり、三食すべてを抜くという失態。

さらに彼女は財布をドブに落とすという不運に見舞われた。

銀河を股にかける海賊にあるまじき姿だ。


 帝国軍 最年少の元エーススナイパーも、空腹には勝てなかった。

意識が遠のく中、柔らかな香りと共に、温かな手が差し伸べられた。



「まあ、ひどい顔ね。……これ、お口に合うかしら?」


 差し出されたのは、湯気の立つ温かなスープとパン。

ユーリを救ったのは、かつての面影を上品に残した老婦人だった。

婦人はユーリを部屋に招き入れ、優しく微笑みかけた。



 数時間後。彼女の邸宅で腹を満たしたユーリは、部屋の隅にある古びた、

しかし大切に磨かれた「宝箱」に目を留めた。


「……それはね、私の宝物なの。昔、私が歌劇団で舞台に立っていた頃、

一人の熱心なファンが送り続けてくれた手紙の山よ」


「おばちゃん、有名な女優さんだったんだね。

ボク、呼んでも構わない?」


 そういうとユーリは、宝箱のはがきに手を伸ばした。

すると見たことのある名前が記されていた。


(親愛なるあなたのファン、サトル・イワサキより)


 ユーリの背筋が凍りつき、目じりが下がった。

箱の刻印、そして語られるファンの名前。  

間違いない。これこそが、博士から存在確認を依頼された、

あの『博士の宝箱』だ。



 婦人は寂しそうに微笑む。


「彼はとても純粋で、偏屈で……科学の理論を引用してまで、

私の歌がどれほど素晴らしいかを綴ってくれたわ。

私はその手紙に何度も救われ、今日まで独りで生きてこられた」


(いえいえ、ただの推し力が強すぎる変態ですから……!)


 思わず声になりそうだったが、ユーリは沈黙した。

目の前の老婦人にとって、博士のファンレターは人生そのものだ。



 「博士、例のブツを見つけた。

……だがな、鍵が壊れてて中身がこぼれちまった。

あんたが直接確認しに来てくれ」


 ユーリの嘘に釣られ、渋々やってきた博士。

だが、指定の公園で待っていたのは、ユーリではなく上品そうな老婆だった。


周りを見渡して、ほかに人がいない。

仕方なく、彼女の方へ歩いていった。


近づくにつれ、博士の目は見開き、青年の目になる。

なんと、目の前にいるのは、あの日手紙を送った「憧れの歌姫」だった。



「……君は、リリア……?」


「私、ユーリちゃんっていう子と待ち合わせをしているのですが…

なぜ貴方が私の昔の芸名をご存じなのですか?」


「やはり、リリア・モーゼスさん」


「貴方は?」


「サトルです。サトル・イワサキです」


 その名前を聞いて、婦人が持っていた日傘を落とした。

自分を手紙で励まし、支えてくれたファンが目の前にいる。


リリアは混乱し、ベンチに座り、博士を見据えた。


「貴方が……、サトルさんだったのですか……」


 数十年という歳月を超え、偏屈な天才科学者と元歌姫の時間が再び動き出す。  



 遠くからその様子を眺めているユーリの元に、通信機を通じてサーヤの怒声が響く。


『ちょっとユーリ! 宝箱はどうしたのよ! 

中身次第じゃ博士を脅して……ゲフン、協力させて豪華景品をもらう予定なんだから!』



「……ああ、サーヤ。悪いな、宝箱は見つけたが」  


 ユーリは、夕日に照らされる二人の背中を見つめ、

静かに、そして晴れやかに笑った。


「中身は『空っぽ』だったよ。

博士の奴、勘違いしてやがったんだ。期待させて悪かったね」



 数日後。驚くほど上機嫌になった博士は、

鼻歌を歌いながら、骨とう品のピストルを整備していた。


「ふっふっふ……。シェンカーの子供達もたまには役に立つ。

礼と言っては何だが、ワシがコツコツ買い集めた『地球のマンガ一式』と、

ウルティマウェポン保管庫のマスターキーを授けようじゃないか」


「やったぁぁぁ! マンガよ! 黄金の文化遺産よ!」  


「そして、ユーリ。お前にはこの銃をあげよう。

古代の最高傑作、ワルサーP38じゃ」


「いいの?これってドイツっていう幻の技術国の一品じゃん」



 狂喜乱舞するサーヤとユーリ。

そんな彼女たちの横で、アカネだけがユーリの横顔を静かに見つめていた。


「ユーリ様。データの整合性が取れません。あの婦人の家には確かに――」


「シッ。……いいんだよ、アカネ。

男の宝箱ってのは、誰にも見られずに閉じておくのが一番かっこいいんだから」

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