第18話.男の宝箱は開けないのが、一番かっこいい
アタシ達、ちびっ子メイドが学園品評会で大活躍をする1週間前。
別行動をとっていたユーリが生命の危機に直面していた。
「……腹が、減った……」
聖都の路地裏。
潜入任務中のはずのユーリが、力なく壁に手をつき、崩れ落ちた。
究極の武器集めに集中するあまり、三食すべてを抜くという失態。
さらに彼女は財布をドブに落とすという不運に見舞われた。
銀河を股にかける海賊にあるまじき姿だ。
帝国軍 最年少の元エーススナイパーも、空腹には勝てなかった。
意識が遠のく中、柔らかな香りと共に、温かな手が差し伸べられた。
「まあ、ひどい顔ね。……これ、お口に合うかしら?」
差し出されたのは、湯気の立つ温かなスープとパン。
ユーリを救ったのは、かつての面影を上品に残した老婦人だった。
婦人はユーリを部屋に招き入れ、優しく微笑みかけた。
◇
数時間後。彼女の邸宅で腹を満たしたユーリは、部屋の隅にある古びた、
しかし大切に磨かれた「宝箱」に目を留めた。
「……それはね、私の宝物なの。昔、私が歌劇団で舞台に立っていた頃、
一人の熱心なファンが送り続けてくれた手紙の山よ」
「おばちゃん、有名な女優さんだったんだね。
ボク、呼んでも構わない?」
そういうとユーリは、宝箱のはがきに手を伸ばした。
すると見たことのある名前が記されていた。
(親愛なるあなたのファン、サトル・イワサキより)
ユーリの背筋が凍りつき、目じりが下がった。
箱の刻印、そして語られるファンの名前。
間違いない。これこそが、博士から存在確認を依頼された、
あの『博士の宝箱』だ。
婦人は寂しそうに微笑む。
「彼はとても純粋で、偏屈で……科学の理論を引用してまで、
私の歌がどれほど素晴らしいかを綴ってくれたわ。
私はその手紙に何度も救われ、今日まで独りで生きてこられた」
(いえいえ、ただの推し力が強すぎる変態ですから……!)
思わず声になりそうだったが、ユーリは沈黙した。
目の前の老婦人にとって、博士のファンレターは人生そのものだ。
◇
「博士、例のブツを見つけた。
……だがな、鍵が壊れてて中身がこぼれちまった。
あんたが直接確認しに来てくれ」
ユーリの嘘に釣られ、渋々やってきた博士。
だが、指定の公園で待っていたのは、ユーリではなく上品そうな老婆だった。
周りを見渡して、ほかに人がいない。
仕方なく、彼女の方へ歩いていった。
近づくにつれ、博士の目は見開き、青年の目になる。
なんと、目の前にいるのは、あの日手紙を送った「憧れの歌姫」だった。
「……君は、リリア……?」
「私、ユーリちゃんっていう子と待ち合わせをしているのですが…
なぜ貴方が私の昔の芸名をご存じなのですか?」
「やはり、リリア・モーゼスさん」
「貴方は?」
「サトルです。サトル・イワサキです」
その名前を聞いて、婦人が持っていた日傘を落とした。
自分を手紙で励まし、支えてくれたファンが目の前にいる。
リリアは混乱し、ベンチに座り、博士を見据えた。
「貴方が……、サトルさんだったのですか……」
数十年という歳月を超え、偏屈な天才科学者と元歌姫の時間が再び動き出す。
遠くからその様子を眺めているユーリの元に、通信機を通じてサーヤの怒声が響く。
『ちょっとユーリ! 宝箱はどうしたのよ!
中身次第じゃ博士を脅して……ゲフン、協力させて豪華景品をもらう予定なんだから!』
「……ああ、サーヤ。悪いな、宝箱は見つけたが」
ユーリは、夕日に照らされる二人の背中を見つめ、
静かに、そして晴れやかに笑った。
「中身は『空っぽ』だったよ。
博士の奴、勘違いしてやがったんだ。期待させて悪かったね」
◇
数日後。驚くほど上機嫌になった博士は、
鼻歌を歌いながら、骨とう品のピストルを整備していた。
「ふっふっふ……。シェンカーの子供達もたまには役に立つ。
礼と言っては何だが、ワシがコツコツ買い集めた『地球のマンガ一式』と、
ウルティマウェポン保管庫のマスターキーを授けようじゃないか」
「やったぁぁぁ! マンガよ! 黄金の文化遺産よ!」
「そして、ユーリ。お前にはこの銃をあげよう。
古代の最高傑作、ワルサーP38じゃ」
「いいの?これってドイツっていう幻の技術国の一品じゃん」
狂喜乱舞するサーヤとユーリ。
そんな彼女たちの横で、アカネだけがユーリの横顔を静かに見つめていた。
「ユーリ様。データの整合性が取れません。あの婦人の家には確かに――」
「シッ。……いいんだよ、アカネ。
男の宝箱ってのは、誰にも見られずに閉じておくのが一番かっこいいんだから」
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