第17話.災厄の果て、法王の跪き
「……もうこのものを拘束する必要はない」
法王が「ディメンションフリーズ」を解除した。
時間凍結が溶けだし、静止していたアカネの体がわずかに揺れる。
その瞬間、事態を完全に見誤った男がいた。
「隙ありィ! 死ね、化け物メイド!」
意識を取り戻したジュノーが、
法王の制止も聞かずに聖杯の魔力を全開放した。
アカネが無防備だと確信した彼は、その背後から極大の衝撃波を叩き込んだのだ。
<< ドゴォォォォン!! >>
不意打ちを受け、アカネが火花を散らして床を転がる。
「「 アカネー!! 」」
サーヤの悲鳴が響いた。
「ヒハハ! 見たか法王様、この女さえ消せば……」
勝ち誇るジュノー。
だが、その背筋に凍り付くような殺気が突き刺さった。
「……よくも。よくもアタシの……世界に1人しかない、
超高性能で、しかもアタシに文句を言いながらも一番役に立つ、
大事な大事なメイドを……ッ!!」
ドクン、と心臓が跳ねた。
サーヤの視界が真紅に染まり、
全身の毛穴から黄金のエーテルが暴風となって吹き荒れる。
「アタシの許可なく、アタシのアカネに触んじゃないわよぉぉぉ!!」
絶叫。刹那、サーヤから放たれた衝撃波は、
大聖堂の天井を紙細工のように消し飛ばし、
聖都の空を真っ二つに割り裂いた。
それだけではない。
彼女から溢れ出す破壊の奔流は地殻を貫き、
惑星ルーンそのものに巨大な亀裂を走らせた。
<< ゴゴゴゴゴ……!! >>
星が割れる……。
マグマが噴き出し、宇宙空間から見れば、ルーンという惑星が
今まさに二つのリンゴに分かれようとしていた。
「お、お嬢様! 鎮まってください! 星が、星が消滅いたします!」
法王が腰を抜かし、涙ながらに叫ぶ。
ジュノーはあまりの圧に、戦う前に白目を剥いて失神していた。
「……マスター。やりすぎです。
これでは回収できるはずの売上金までマグマの藻屑です」
冷ややかな、だが懐かしい声が響いた。
ボロボロになりながらも立ち上がったアカネが、その手に「時間結晶」を掲げる。
「……法王。貴方も力を貸してください。生命維持と事象復元、二点同時展開です」
「は、ははっ!」
「「 ワールド・リワインド――事象上書き! 」」
ビデオの巻き戻しのように、割れた大地が閉じ、
崩れた建物が積み上がり、死にかけた人々の傷が消えていく。
数分前の「平和な品評会」へと、世界が強制的に修正された。
◇
静寂が戻った法王の間。
エーテルの輝きが収まり、耳の尖りも消えたサーヤが、
地面に座り込んで荒い息を吐いていた。
「……アカネ、生きてたのね。よかった……」
「お叱り申し上げます、マスター。怒りで惑星を割るのは非効率の極みです。
エリカたちまで消すつもりでしたか?」
「う、うっさいわね……必死だったのよ……」
その前で、法王は再び深々と頭を下げた。
「貴方様は紛れもなく、サラ様のお子様、
そして、四次元大王様のエーテルの血を引く継承者です」
「また、訳の分からないことを言い始めたわね。
法王さん、アタシ、頭悪いんだから簡単に説明しなさい。
……つまり、親父はここにはいないってわけ?」
サーヤが髪を整えながら(耳はまだ少し尖ったままだが)、
法王――いや、今は一人の忠実な執事のようになった老人を問い詰める。
「はい。私達のところへクレームに来た狂犬は、
こちらが四次元大王の手先と分かると、四次元城へ押しかけてきました」
「でも、たった1人なんだから簡単に捕まえられるでしょ」
「はい。お父様(狂犬)を捕らえたのは事実ですが、
彼は四次元の牢獄をわずか数日で『コスプレキャバクラ』へと改築し、
看守たちを全員常連客に変えてしまいました。
今は居城の奥底へ移されたとのことですが……。
おそらく今頃は、居城の食堂を居酒屋に変えている頃かと」
「あのアホ親父……! どこへ行っても迷惑しかかけないんだから!
あんな親父捕まえて、少し痛い目に合わせた方がいいのよ」
「しかし、狂犬を押さえつけられるのは、大王様とサラ様以外、
だれも奴にかなうものがいないのです」
「大王様って人がいるじゃない?」
「大王様はサラ様がお亡くなりになって以来、
部屋に閉じこもり、外に出てらっしゃらないのです」
「はぁ?大王でしょ?
いい年して、何子供みたいなことをやってるのよ」
「はい。このままでは、大王様の反対勢力が四次元の力を悪用し、
三次元の世界まで飲み込んでしまうでしょう」
「なに、ヤバいことになってるんじゃない」
「彼らはルーン正教を語り、帝国王族の中にも入り込み、
まず3次元を支配し、次に4次元へ勢力を伸ばしていくつもりなのです。
そのため私が3次元に派遣され、ルーンを守っているのです」
「じゃあ、アタシ達を四次元から追い出したのも」
「やつらの仕業かと思います」
アタシを四次元から追い出した犯人が分かった。
親父の居所も分かったし、そろそろ四次元に戻っても良い頃かもしれない。
「ふふふ、やっと犯人が分かった。
親父もアチラにいるらしいし、久しぶりに暴れてやろうかしらね」
「それでは、大王様のもとに!きっとお喜びになります」
「何を言ってんのよ。アタシはただ、お礼参りをして、
ついでに、親父を捕まえて借金を取り立てたいだけよ」
法王は涙ながらに懇願する。
「どうか……大王様を慰め、あの狂犬を止めてください!
サラ様の血を引く貴女様なら、大王様もきっと心を開かれるはず!」
「いやよ、面倒くさいし。アタシは家族の揉め事の方はお断りよ」
鼻を鳴らすサーヤ。
だが、その横でアカネが淡々と計算機を弾いた。
「マスター。補足ですが、四次元大王は全宇宙の根源。
その資産は、三次元の通貨に換算すれば国家予算の数兆倍。
宇宙一の『超・大金持ち』ということになりますね」
「…………」
サーヤの瞳が、黄金のエーテルとは別の「百億ボルトの輝き」を放った。
「えっ、何それ。おじいちゃんが寂しがってるの?
可哀想じゃない! 今すぐ行ってあげなきゃ!
アタシ、昔からおじいちゃんっ子だったのよ!」
「……1秒前まで他人事でしたよね?」
アカネの呆れ顔を無視して、サーヤは高らかに宣言した。
「決まりよ! 親父をブチ叩いて、おじいちゃんを元気にして、
四次元の財宝をアタシが管理してあげるわ!
野郎ども、四次元に向けて出航よーーー!」
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