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第15話.崩壊する聖域、現れた略奪者

「これから来賓の皇女殿下が、これから視察されます。

くれぐれも粗相のないように!」  


 威張り散らす役人たちの声が響き、聖魔法学園の品評会会場は、

かつてない緊張感と興奮に包まれていた。


「そこの留学生、特にチビ2人!

殿下のお目汚しにならないように隠れていなさい!」


「なによ、アイツら。アタマに来るわね」  


 サーヤは役人たちの背中を睨みつけ、ビラを握りしめた。



「マリアが来ようが関係ないわ。商売、商売!

アル、セシリア、しっかり稼ぎなさいよ!」  


 アタシは皇女来訪でビビっている2人と

スタッフの学生のケツを叩いて回る。

アタシのビジネスはうまくいっている!今が稼ぎ時なのだ!


 だが、その背筋に嫌な冷気が走る。

いつの間にか、会場には祭りの浮かれた空気とは正反対の、

目つきの鋭い教会関係者や冒険者崩れの男たちが溢れかえっていたのだ。



 「……後方の護衛、クリア」  


 雑踏に紛れ、マリアの護衛が一人、また一人と「消されて」いく。  


正教会の暗殺者たちが振るう刃に、迷いはない。彼らを支えるのは、

「神の元へ転生させてあげる」という歪んだ慈愛だ。


 ニコニコと微笑む老人が、息絶えた護衛を物陰へ片付けていく光景は、

狂気そのものだった。この老人も狂信者の1人だ。


 次のターゲットはマリアの右翼護衛の2人だ。

老女2人組が、ゆっくりとターゲットに近づき、足元によろよろと倒れ込む。

注意が彼女たちに向けられたところを、暗殺者がとどめを刺す。


 この繰り返しで、残りの左翼、前方の護衛が全滅した。

しかも、一連の作業は、周りの人間の誰も気が付かない早業だ。


「護衛は全てクリア。次の行動に移れ」

「了解。では、暗殺組はマリアに向かえ」



「うちの殿下に手を出されると困るんだがね」


 雑踏の中から、重厚な鎧に身を包んだ騎士達が現れた。

紫のスカーフには王家の紋章、近衛騎士団のエンブレムだ。


 皆、大剣を軽々と持ち、左手には分厚い盾を構えている。

あっという間に暗殺パーティは切り捨てられた。

パーティには老人子供がいるが、こちらも容赦ない。



「近衛騎士団がついていたのか! ……キャリーさん、お願いします」


「はーーーい」  


 騎士団の前に、やる気なさそうにキャリーが現れた。

たった一人に対して、10人いた騎士団が押されている。

最初からキャリーは相手を殺す気がない。


 時間稼ぎをするつもりだったが、1通の通信がキャリーに入った。

戦いながら端末を確認すると、相手はエリカだった。



「キャリー、楽しそうだな。

アタイがそっちをやればよかった。

こっちは、先代、国王にも法王にも、つかまっちゃいなかったぜ」


「じゃあ博士の話は嘘だった?」


「いや、ルーンにはいたようだ。

だけど、そのあとどこかへ移動している」


「わかった」


 通信をしながら相手を気絶させ、エリカと話し終わるころには、

騎士団全員が倒れて動かなかった。



 聖王国近衛騎士団が全滅し、会場は法王の勢力下に入った。


 法王派のターゲット・マリアはまだそれを知らない。

だが、先ほどから強烈な圧力に襲われている。


皇女として多くの暗殺未遂を経験しているマリアだが、

この圧力は経験したことがない恐怖だ、がくがくと身体が震え始めている。


何者かが空間を切り裂き、鋭い刃が突き刺してきた。

(避けられない……)マリアは覚悟を決めて目を閉じる。



< シャキーン >


 刹那、間一髪でその刃が止められた。


遠くから魔眼・千里眼で様子を見ていた法王が唸りを上げる。


「騎士団長まで来ていたとは。誤算でした」


 近衛騎士団は聖王国の騎士から選抜で構成され、

団長ともなると国内で3本の指に入る強者だ。

彼らは国王、王妃、第一皇子、第一皇女の外出時、

必ず影の護衛として付いているのだ。



「エリアサーチ!」


 騎士団長が探索魔法で潜伏する暗殺者をあぶりだす。

しかし、彼の脳裏には先ほどの剣の使い手が映らない。

だが、『相当な強者が傍に隠れている』彼の経験がそう語っている。



< ビュッ >


 今度は刃がマリアではなく、騎士団長をめがけて出現する。

しかも、的確に自分の急所を突いてくる。


「なぜだ?なぜ刃だけが瞬間的に現れる?」


 団長は初めて味わう剣技に狼狽した。

最初の3撃までは防げたが、剣のかすめる数が増えていく。


「うっ」


 ついに脇腹を探検が突き刺した。

剣には魔力が込められており、しびれと目まいが瞬時に襲う。

音もなく、団長が倒れていった。


 あとに残されたのは、震える皇女一人。

団長が倒された今、もう希望はない。

今度こそ諦めて、マリアは目を閉じた。


暗殺者の足音は、最後の獲物を楽しむかのように

ゆっくりとマリアに近づいていく。



「……見つけたわよ、アンタ。アタシを差し置いて何遊んでんのよ!」  


 その時、死の静寂を破ったのは、およそ場違いな怒声だった。

マリアが声の方を見ると、屋台で買ったたこ焼きを片手に、

黒ずくめの男の首根っこを掴み上げているサーヤの姿があった。



「見つけたわよ、アンタ、アタシに忠誠を誓ったのに、

なに勝手にルーンまで来て遊んでるのよ。

さっさと、こっちにきてアカネを手伝いなさい!」


 マリアがいつ来るのか分からないのでアタシは、

ブースのスタッフに活を入れた後、マリのところへ

戻ろうとしていた。


「い、いや、今はその、取り込み中でして」


「あぁ?なんですって?」


「い、いえ。申し訳ございません」


 銀河最強の殺意が、一瞬で「上司に叱られる駄目社員」へと

成り下がった瞬間だった。



 絶体絶命のピンチで、自分を追い詰めた暗殺者が、

目の前で拉致されてしまった。

状況を飲み込めず、マリアの思考は固まってしまった。

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