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第11話.聖地の不協和音――四次元の暗号と三位一体の恋(ループ)

 聖都ルーンの朝は、美しくも忌々しい讃美歌の合唱から始まる。  

大聖堂を埋め尽くす生徒たちの歌声は、神への信仰エーテル

増幅させるための「儀式」だ。


 そのため、学生たちにとっては、いかに上手に歌えるか?

これは呪文を覚えるよりも重要なことなのだ。

金に余裕があるものは、専属の家庭教師を付けたり、

赤ん坊のころから曲を聞かせ、英才教育をおこなうものもいた。



「晴れたるー、わが神の集い場ーーー」


 アタシは周囲に負けないように必死に喉を鳴らす。

だが、周囲の清廉な旋律に、アタシの歌声はまるで

「異界のノイズ」のように混ざり、音響の結界を不協和音で震わせてしまう。


 子供のころから(今も子供だが)、海賊に囲まれていたので、

一緒に遊んだり、歌ったりした経験がない。

そのため、音程やリズムを合わせるのが苦手なのだ。


(……おかしいわね。四次元聴覚センサーが拾う高周波と、

三次元の拙い音階ドレミが全く噛み合わないわ。

アタシが歌うたびに、大気の魔力密度が乱れてる気がするんだけど)



「あれ?音程が違う人がいます。みなさんに合わせてください」


「晴れたるー、わが神の集い場ーーー」


「やはり、変ですね」


「あなた、歌ってごらんなさい」


 アタシの前の女生徒が1小節歌った。


「大丈夫ね、それではあなた」


 私の番だ。ちょっとだけ音階に気を付けて歌い始める。


「晴れタルー、わがカミのーーつどイバーー」



「うふふふ」「ふはは」「ぷひっ」

「やばい、あいつだ。笑うと殺されるぞ」


 生徒達はみな、声を潜めて笑いをこらえた。

指導のシスターが、引きつった笑みを浮かべ「もう結構です」と、

震える声でアタシの歌を遮った。  


「チビギャングの歌は、聖域の守護結界をも崩壊する」


 その日以来、アタシが歌うとき大聖堂には

何重もの音域結界が張られるようになった。


◇ ◇ ◇


 礼拝の余韻が漂う中、

マリが回廊の一角に刻まれたレリーフの前で立ち止まった。


「……あの壁画、なんだか『違和感』がない?」


 そこにあったのは、慈悲深き神が衆生を救う姿を象った古びた浮彫。

神が掲げる法典の余白には、聖王国のルーン文字とは明らかに異なる、

鋭角で機械的な紋様が刻まれていた。



「「  えっ、なんでこんなところに?  」」


――それは、アタシたち海賊が四次元の海で通信に用いる

**「高次位相暗号」**だったのだ。



 『神の領域に近づいてはならぬ』

 『万象の力は、悠久なる時間の深淵アーカイブにあり』



 このルーンにも四次元の人間が来ていた。しかも海賊が。


「博士の仲間が書いたのだろうか?」


 それ以外は考えられない。あとでアカネに相談してみよう。



 聖魔法学園の特色。

それは、朝の讃美歌と、治癒・浄化魔法の実習があることだ。


 学園は国の施策で病院の役割も持っている。

将来、聖魔導士となり退魔をおこなうにあたり、治癒・浄化の

実践学習はとても重要な経験UPのチャンスだった。



 アタシは痛めつける専門なので治癒系魔法は苦手だ。

怪我をした者の治療をする時には、ケガをしていない

細胞をコピペして、強引に怪我の細胞と入れ替える。


「さすがはサーヤ様、常人では真似できない究極の神業です」


 アカネが奇跡を見るような目でアタシの技をほめたたえる。

しかし、このやり方は聖魔法学園では評価されない。

一瞬とはいえ、患者が痛みを伴い、毎回断末魔を上げるからだ。



「また、チビギャングの拷問が始まった」


 アタシの治療は、強烈に痛いが一瞬で怪我が完治する。

聖魔法なら慈愛の光に包まれ、ゆっくりとじわじわと治療される。

アタシの治療は、彼らルーン人にとって、まさに悪魔の治療なのだ。



 留学から、一週間を過ぎるころ、

アタシとマリのちびっ子コンビにあだ名がついた。


 アタシは「ちびっ子ギャング」。

 マリは「ちびっ子姫」。



 最初は、アタシは「ちびっ子ギャング」だったが、更に一週間たつと、

アタシは「ギャング」、マリは「姫」と呼ばれるようになった。



 とはいえ、実はアタシの治療は、超痛いが、即時治るので、

兵士や上級冒険者たちに人気があった。


「よう、ギャングの姉ちゃん、今回も頼むわ」

「ギャング、見てくれ」



 一方、マリは老人達に人気があった。

自分の孫に肩を叩いてもらう、老人の感覚に似ているだろうか。


「マリ姫ちゃん、ありがとね」

「姫ちゃん、上手になったわね」



 そして、意外だったのがセシリアだった。

もともと光魔法が得意だったのだが、治癒魔法の才能が開花した。


 セシリアの魔法は、絹織物のように細かい単位で傷口をふさいでいく。

しかも、最近では正教の信心がふえて、慈愛の光の密度まで上がってきている。



 魔法科学園の治癒魔法が、外科の得意な西洋医術なら、

 聖魔法学園の治癒魔法は、気脈からなる東洋医術のような治療だ。


 セシリアの治療魔法は、その配合が神がかっている。

ついには、聖魔法科大学の教授までが見学に来るようになった。



 教授たちの影から、燃える熱い視線がセシリアに向けられていた。

留学初日にアタシにボコられながらもロマンス劇場を演じたアルだ。


 当初、彼はセシリアの優れた医療技術に目を奪われていたが、

いつしかそのときめきはセシリア本人に向けられていた。

……思春期にありがちな「ドキドキすり替えの恋」である。



 セシリアに「熱い愛の視線」を送るアル。

 アルに「熱い純粋視線」を送り続けるマリ。

 さらに、マリに「熱い変態視線」を送るセシリア。


「アル→セシリア→マリ→アル」の愛の無限ループ!



いま、聖魔法学園に、禁じられた三角関係の

不純なドラマが始まろうとしていた。

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