第10話.バラ色の教室と、黒い算盤(そろばん)――聖都のロマンス劇場
「ライトバレット!」
「ホーリーレイッ!」
学生たちが思い思いに聖属性の攻撃魔法を撃ってくる。
白亜の教室を、聖なる光の雨が埋め尽くした。
だが、その光芒の中をアタシは無視して歩き続ける。
(……6500年前の古臭い魔法式ばかりね。それじゃアカネが展開した
聖魔法向けの身体強化を一枚も剥がせないわ)
身体強化がかけられたアタシに対して、
生徒たちが与えるダメージは、せいぜい1、あるいは2。
アタシの体力は、HP 5000 だから春のそよ風にも満たない。
「はい、右ボディ。あんたはグーパン」
アタシは女子生徒にはボディ。
男性とはグーパンを入れて回る。
ボコッ、バシッ! と、肉を打つ鈍い音が響くたび、
聖王国のエリートたちが紙屑のように吹き飛んでいく。
マリを侮辱した罪。それは、彼らの誇りごと粉砕されることでしか償えない。
仕上げに、アタシは肺の奥から、四次元の「海賊覇気」を解き放った。
「おう、てめーら、うちのマリをイジメたい奴は前に出ろ。
この教室からは、一人として逃がさないからな」
<< ゴーーーーーーッ >>
教室の空間そのものが歪み、生徒たちの精神が悲鳴を上げた。
生まれて味わったことがない凄まじい魔力の威圧に
あちこちで、バタバタと生徒が気絶する。
一番傍に立っていた教師は口から泡を吹いて倒れてしまった。
その光景を確認し、アタシは満足げに息を吐く。
「ふぅ、こんなもんね。……アタシ、やりすぎた?」
「いいえ、サーヤ様。一応、全員生存しております。
蘇生の必要はございませんが、トラウマになる可能性があります。
……記憶の整合性を取らねば、学園が崩壊しますね」
アカネが指を鳴らす。
瞬間、教室内の録画魔石と生徒たちの脳細胞に、
四次元のハッキングが上書きされた。
ただ、1人だけ許せないやつ(アル)がいる。
アタシは片手で、そいつを持ち上げて教室の前方へ運んだ。
「アカネ、みんなを起こしなさい」
「かしこりました」
<< パン >>
アカネが手を叩くと、教室内の生徒、教師が目を覚ました。
「ひーーーーっ」
教室のあちこちから悲鳴が上がる。
詳細の記憶を書き換えたが、本能がアタシの恐怖を覚えているのだ。
「た、たすけて……」
アタシは壇上の机の上に立ち、マリを侮辱したアルを吊るし上げた。
イケメンの表情が歪んで、アタシに許しを請う。
(これは、なかなか……、リア充の歪んだ顔は、気分がスカッとする。
どうせアカネが記憶を上書きする、海賊の拷問でも味わせようか)
「マリ、どうする?こいつ」
「サーヤ、もういいわ。
これ以上、暴れると両国の友好に傷がつくし……」
「ちぇっ、こらからだったのに……。
マリにしっかりとお礼をいっておきなさいよ」
<< ドサっ >>
アタシは無造作にアルを床に放り投げた。
「ぐぅっ」とうなり声をあげながら、よろよろとアルが立ち上がる。
その表情は悲劇の主人公が悪の大ボスに痛めつけられた
ワンシーンを見る様だ。
(もしかしてアタシ、悪の大魔王として見られてる?)
「ありがとう、そして深く謝罪する。伊集院さん。」
よろよろと立ち上がったアルが、マリの前で騎士の礼をとった。
その瞬間、教室の空気が一変する。ボロボロの制服、乱れた髪。
それがかえって「悲劇に耐える美しき騎士」を演出し、
周囲のエーテルが彼の意志に関わらず発光を始めた。
(……ちょっと待ちなさいよ。なんで背景にバラが咲き乱れてるの?
アタシがマリ助けたのよ!主役が入れ替わってない?)
アタシが2人に突っ込みを入れる間もなく、ロマンスは加速する。
「僕は君をバカにしたかったんじゃない。……太陽系方面軍の英雄。
あの偉大な父を持つ君には、誰よりも気高くあって欲しかったんだ」
アルがマリの手をそっと取る。
高校生の美少年が、幼い少女に忠誠を誓う。
その絵面の完璧さに、
マリはキラキラとした目でアルを見つめ返し、頬を朱に染めた。
(だから、助けたのはアタシでしょ?
ねぇ、勝手にロマンス物語を始めないでよ! )
「もう大丈夫です、アル様こそお怪我は……?」
(おい、マリ! 助けたのアタシ!
悪の大ボスにされて吊るし上げてたのアタシ!)
完全にアタシは、蚊帳の外へ放り出された。
もう勝手にしなさいよ。アタシはふてくされて教室の端に座った。
「いいわね、いいわね。まるでバビロニアで見た
歌劇のロマンスシーンを見るようだわ」
「あれ?皆さんは姉の歌劇をご覧になったのですか?」
「姉って?」
「エレナ・スカーレット、今は男役をしていると聞いています。
僕たちは双子の姉弟なんです」
「まぁ、そうなのですか」
ますます嬉しそうなマリ。頬を赤らめる。
完全にアタシを頬りっぱなしで、イケメンとお姫様、
そして歌劇ファンの変態で話が進んでいく。
◇
「「 何の騒ぎですか? 」」
隣のクラスから、若い女性の教師が駆け込んできた。
「留学生たちが挨拶をしていましたのですが、素敵な女性ばかりなので
僕が調子に乗って騒いでしまいました。大変失礼しました」
まるで、おとぎ話の騎士の立ち振る舞いで、アルが深々と頭を下げる。
その姿は歌劇の主人公を思わせる、完璧なものだった。
「まぁ、スカーレットくん。
いい、いいんですよ。でも、少し静かにね」
教師はスカーレットを見るや、頬を赤らめて、
しずしずと教室から出ていった。
マリとセシリア、そして教室中の視線は
自然とアルの魅力に囚われている。
アタシは完全にアルのロマンス劇場から放り出された気分だ。
「ねえ、アカネ。
悪気はないみたいだけど「あれ」って?そうよね」
「はい。無自覚に周囲の因果を書き換え、自身の望む
『物語』に塗り潰しているようです。
……私ですら、影響されそうになりました。多少、震えを覚える存在です」
アタシは、アルの魅力に囚われてフワフワしているマリとセシリアを見つめた。
「……まあいいわ。あそこまで強力な『広告塔』、使い道なんていくらでもあるんだから。
……ねえアカネ、あのイケメンを使って、バビロニア以上の集金システム、組めるんじゃない?」
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