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第9話.聖域の崩壊。美少年アル・スカーレットの誤算

 いよいよ今日はルーン聖魔法学園への登校日だ。

リーズ家の馬車に揺られながら、窓外に広がる白亜の尖塔群を眺める。

聖なる石畳には、古の教えが刻まれたかのような文様が幾重にも敷き詰められていた。


 アタシ達はリーズ家の馬車で学園の正門をくぐった。

学園がある敷地内は教会の施設が多く点在する。


「広いわね。うちの学園の3倍はあるかしら」


 マリが感嘆の声を漏らす。

アタシはふと気になっていたことを口にした。


「ここは聖魔法を教えるところよね

そもそも聖魔法ってどんな魔法なの?」


「サーヤ、そんなことも知らずに来たの?」


「シェンカーさん。では話が説明しますので

膝の上にいらしてください」


「そこで説明してくれる?

セシリア、留学先で初日に黒焦げになりたくないわよね」


「じょ、冗談ですわ。

聖魔法とは、基は6大魔法の1つ光魔法を指していましたが、

聖女ローズによって回復系、支援系がくわえられ、

今ではその全体を聖魔法、ホーリー魔法と呼ぶようになったのです」


「アタシ達が使う魔法と何がちがうの?」



「大きく違うのは魔法の『源』です。

魔法が術者の魔力に依存するのに対し、聖魔法は『神への信仰心』を通じて、

この世界の満ちる『霊素エーテル』**を神聖なる力へと転換させるのです」


 納得したアタシの横で、アカネが静かに目を細めた。


「サーヤ様、ご注意を。この敷地内、学生たちからの『不純な熱量』

……いえ、明確な敵意が満ちております」


◇ ◇ ◇


 リーズ家の銀の紋章を掲げた馬車が、

大聖堂へと続く白亜のスロープを滑り上がる。

そこには、荘厳な法衣を纏った学園長と、

規律正しく並ぶ教師陣が「壁」のように立ちはだかっていた。



「ようこそ、帝国の至宝リーズ嬢。

そして……シェンカーさん、伊集院さん。

聖なる学び舎は、皆さんの来訪を歓迎いたします」


恭しい言葉と共に渡されたのは、入校を許された者のみが

佩用はいようできる、聖印が刻まれた魔導ブローチだ。


「ありがとうございます。聖王国との変わらぬ友誼のため、

この身を粉にして学業に励む所存ですわ」


 背筋を伸ばし、非の打ち所のない礼法で応えるセシリア。


(……本当、うちの委員長は外面だけは完璧ね。

中身が残念な変態じゃなければ、歴史に残る聖女になれたでしょうに)



 だが、学園長の細められた眼光には、

隠しきれない「選民思想」が透けて見えた。


「それにしても……噂には聞いておりましたが、実に小柄な留学生だ。

深遠なる聖魔法の深淵に、その小さな器が耐えうるか……

本当に大丈夫でしょうか?」



 始まった。

伝統ある大国が、新参者を品定めする際のお決まりの「儀式」だ。

だが、そのネガティブな空気を、セシリアの欲望が力ずくで塗りつぶす。


「ええ、本当におっしゃる通りですわ学園長! 大丈夫かしら、

この小ささ、この愛らしさ……あたくしの理性が、卒業まで持ちますかしら!」


「え……あ、いや……それは……」  


 学園長が気圧けおされたように後退る。

聖王国の理屈すら通じないセシリアの「萌え」という名の暴力。


 これにはアタシも、少しだけ同情したわ。



 案内されたのは、選ばれし者のみが集う「プラチナクラス」。  

豪奢な装飾が施された扉が開いた瞬間、教室内の室温が数度下がったのを感じた。



「それでは魔法科学園からの留学生を紹介します」


「セシリア・リーズ」です。


「伊集院マリです」

「サーヤ・シェンカーでーす」


「……おい、そのちびっ子。地球人の分際で、

なぜ帝国の犬(リーズ家)の靴を舐めている?」  


 教室の奥、光が差し込む特等席から、

澄んだ、しかし氷のように鋭い声が響いた。  


 声の主は、アル・スカーレット。

バビロニアの劇壇で見た男役をさらに尊大にしたような、

端麗すぎる美少年だ。



「スカーレット君、言葉が過ぎますよ」  


 教師の制止も、彼は鼻で笑い飛ばす。


「そいつの父親は太陽系方面軍のエースだ。

俺は、あの『英雄』に憧れて戦士を志した。

だが、その娘が帝国の愛玩動物として満足しているとは

……英雄の血も、地に落ちたものだな」



 マリが言葉を失い、小さく震える。

それを見た瞬間、アタシの頭の中で何かがパチンと弾けた。

気づけばアタシは壇上の机に跳び乗り、傲慢な美少年を見下ろしていた。


「あーーんた、マリが帝国に媚びをうって、

セシリアのお供になって身も心も捧げたですってーーー?」


「い、いや、俺はそこまでは言っていないが……」


「本当なの伊集院さん、私に身も心も捧げてくれるって」


セシリアが喜んで卒倒しそうな目でマリを見た。



「ほんと、マリアの国は笑っちゃうわね。

下僕たちのしつけがなっていない。

アタシがアイツに変わって、良く吠える犬に

礼儀ってものを教えてあげようかしらね」


 静寂。  

教室内から、一斉に息を呑む音が聞こえた。

王女マリアを「アイツ」呼ばわりする――

それはこの国において、即座に極刑を意味する大罪だ。



「……貴様、今なんと言った?

王女を呼び捨てにするのみならず、侮辱したのか……?」


「関係ないわ。アタシはあんたたちの神様も王様も知らない。

ただ、アタシのマリを侮辱したこと。

その代償は、あんたの安いプライドじゃ払い切れないわよ」



「……その不敬、万死に値するッ!」  


 アルが怒りに任せて杖を振る。


 瞬間、教室を包み込むように紫銀の結界が展開された。

逃げ場を塞ぎ、魔力を封じる聖域の牢獄。



「アルに続け! 帝国の異端者に聖罰を!」


 六十人のエリートたちが、一斉に杖を掲げる。

教室内のエーテルがうねり、発動を待つ光の弾幕が白く弾けた。



「シェンカーさん、加勢しますわ!」


 レイピアに手をかけるセシリアを、アタシは手の平で制した。


「いいから見てなさい。これは決闘じゃない――ただの『調教』よ。

アカネ、アタシがやりすぎたら治療してあげて」


「死体の蘇生は魔術のことわりを超えますので、お手柔らかにお願いします」


「わかってるわよ。命があったら、神に感謝しなさいな」



 怒号と魔力に満ちた教室の真ん中を、アタシは鼻歌混じりに歩き出す。  

さて、この「神様からの借り物」の魔法とやら、どうやって壊してあげようかしら。

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