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6.マザーシステム、ノックアウト!

「それじゃあ、戦闘で使ったアタシのスキルのタネ明かしをするわね」


 そう告げると、アタシはテーブルに一つだけ残されたチョコムースを指さした。

そして、ゆっくりと両手を天に向けて広げ、指先を踊らせる。


 アタシの指の動きに合わせ、皿の上でムースが「増殖」を開始した。

一つ、二つ、三つ……。


 何もない空間から次々と現れるムースの山を見て、アカネは目をこすりながら凝視した。


「これは何の手品ですか? 精巧なホログラムか何かで? 」


 アカネはアタシがトリックを見せたのだと勘違いし、必死に種明かしを探し始めた。

テーブルの上、下、周囲……。


 だが、どれほど演算しても、そこにあるのは「本物の糖分」だけだった。

やがて降参したように、彼女は両手を上げて席に着いた。



「船長、降参です。タネ明かしをお願いしてもよろしいでしょうか? 」


「分かったわ。これはちょっと難しかったかしらね。じゃあ、次はあの小惑星を見ていて」


 アタシはモニターに映る岩石状の小惑星を指さした。


「えっ?……はい」


 キョトンとしながらモニターを見つめるアカネ。 アタシが指をパチンと鳴らす。

一瞬、画面が揺れた。


「失礼ながら、何も変わりませんが……」


「キャリー、カメラをもっと引いてあげて」


 カメラがズームアウトし、小惑星の全体像を捉えた瞬間。



「ま、まさか、こんなことが現実に……!? 」


 アカネが呆然と立ち尽くす。


 モニターには、同じ形、同じ質感の「双子の小惑星」が二つ、

仲良く並んで映し出されていた。


(うふふ、マザーシステム様も取り乱すのね)


 面白くなったアタシは、隣でニヤニヤしているキャリーと顔を見合わせた。



「アタシのスキルは『コピペ能力』。

一度見たものなら、質量もエネルギーも関係なく複製できるのよ」


「物理法則を完全に無視しています……! 

質量保存の法則は? 

熱力学第二法則はどこへ行ったのですか!? 

宇宙の計算式が、根底からエラーを吐き出しています! 」


 顔を真っ赤にして、言葉にならない絶叫をあげるアカネ。

理屈なんて知らないわよ。


 アタシが「そうなる」と決めたら、世界はそれに従う。ただそれだけのこと。



「……貴方という方は。物理学への冒涜です。

ですが、あまりにも……あまりにも美しい『バグ』だ」


 アカネの瞳が、これまでにない熱を帯びる。

 

「ホーキンス船長! 人のスキルもコピペで模倣できるのですか!? 」


「サーヤでいいわよ。発動するところを見れたら、スキルだってコピペできるわ」


「おぉ神よ! サーヤ様、あなたはまさに神の化身だ……! 」


「やめてよ。アタシは神様じゃないわ。ただの海賊船の二代目船長よ」


「いえ、あなたは私の理解を超えた存在。創造主です。

私にとって今日、世界の常識がすべて塗り替えられたのです! 」


 そこまで言うと、アカネは意を決したように膝をついた。



「サーヤ様、貴方こそこれを持つにふさわしい。

この【時間結晶】を、どうか受け取ってください! 」


 跪き、銀河の至宝を差し出すアカネ。

普通の主人公なら、ここで「世界を救うため」に受け取るんだろうけど。


「えー、いらないわよ」


「……はい?」


「聞こえなかった? い・ら・な・い。

それ、持ってるだけで帝国軍三千隻が空から降ってくるんでしょ? 


割に合わなすぎるわ。アタシが欲しいのは『自由に使えるお金』であって、

『命を狙われる呪いの装備』じゃないの」


「っ!? 銀河の支配権を握れるお宝ですよ!? 」


「支配なんて面倒なこと、誰がやるもんですか。

アタシは南の島で、一生ムースを食べて暮らしたいだけなんだから」


 完璧な知性として設計されたはずのマザーシステムが、その場にガックリと項垂れた。

銀河の至宝を「面倒くさい」の一言で切り捨てた小娘を前に、彼女の全演算能力が停止する。



 その横では、アタシがコピペしたムースを全部平らげた

エリカとユーリが、お代わりを要求してスプーンで皿を叩いていた。


 ――チーン。チーン。チーン。


 静寂の中、アカネの背後で鳴り続けるマヌケな金属音。


「「お代わり! お代わり!」」


 それは、全知全能を自負していたアカネのプライドを粉砕する、

無慈悲なノックアウトの10カウントだった。

ご一読いただきありがとうございました!


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