第6話.張りぼての平和。四次元ガンのユーリ、到着!
豪華客船『ギャラクシー・クイーン号』の最上階デッキ。
もうすぐ最初の寄港地、セレスに到着しようとしている。
船は大気圏を越え、新鮮な空気を取り込み始めた。
マリとセシリアが優雅なティータイムをデッキに出て楽しんでいる。
アタシは博士から貰ったマンガの「第一話」を、文字通り穴が開くほど読み返していた。
「……あー、続きが気になる。ルーンに着くまでにあと十回は読み直すわ」
そんなアタシのボヤキを切り裂くように、上空から轟音が響いた。
ドォォォォン!!
デッキの中央に、黒い火線を伴って何かが突き刺さる。
爆煙の中から現れたのは、巨大な四次元貫通ガンを背負った、
無表情なボクっ娘――ユーリだった。
「……あ、二代目。やっと追いついた」
「ユーリ、こんな所まで何しに来たのよ? 」
「これ、ロク爺から預かってきた」
手渡された手紙には、怒りで震える文字でこう書かれていた。
『このガキ、暇つぶしに博士の試作銃で月を狙撃してやがった!
このままじゃ地球の潮汐力がおかしくなって大津波になるわい!
頼むからそっちで引き取れ!』
「ユーリ、アンタ……月を壊そうとしたの?」
「……壊してない。デコボコのクレーターを少し綺麗にしようとしただけ」
「それを破壊って言うのよ!」
突然、デッキに何かが衝突したため、船は騒然としていた。
しかし、騒然とする中、一人大はしゃぎだったのはセシリアだった。
「まあ! なんて愛らしいお友達ですの!
「お名前は?」
「何歳ですの?」
「好きな食べ物は?」
「さあ、あたくしの隣が空いてるわよ!いらっしゃい」
目の色を変え、機関銃のように質問攻めにするセシリア。
「この人、ちょっと怖いんだけど。
面倒だから、ここで撃っちゃっていい?」
ユーリは、ボクっ娘なので、
あまりチヤホヤされるのが好きじゃない。
だんだん不機嫌な顔になりつつある。
「儀式みたいなものだから辛抱して」
「大丈夫です。ほら美味しいクッキーがありますよ」
さすが優秀なアタシのメイド。
ユーリはアカネのクッキーを頬張ると機嫌が治った。
「私、マリっていうの。
サーヤちゃんの親戚の人でしょ。よろしくね」
「うん、ボク、ユーリだよ」
「ユーリくん?ちゃん?
そのホルスター、もしかしてルーン製じゃない?」
「「 ええええ、わかるの? 」」
「私の兄がオールドガンの収集家なの。
だから、いくつかルーンのものもあるのよ」
「ボク、マリとなら友達になれそうだ」
「ユーリちゃんは、ガンマニア。
伊集院さんのお兄様と共通のご趣味」
必死にメモを取るセシリア。
そのメモを素早く自分の専属メイドに渡すと
意を得たメイドがネットオークションで
珍しいオールドガンを検索し始めた。
アタシは、セシリアの命がセシリアに着くまでに
尽きないことを密かに祈った。
◇
最初の寄港地、農業惑星セレス。
船から降りた一行の目に飛び込んできたのは、黄金色に輝く麦畑と、穏やかに回る風車だった。
「素敵……。帝国にも、まだこんなに平和な場所が残っていたなんて」
マリが深く息を吸い込み、微笑む。
しかし、アタシの鼻は「平和」とは別の、鉄と汗の匂いを嗅ぎつけていた。
ガタガタ、ガタン……。
のどかな風車の影から現れたのは、重い鉄格子を嵌められた巨大な荷馬車だった。
いや、それは馬車ではない。**「人間を詰め込んだ檻」**だ。
「……待ちなさい! あれは何ですの!?」
セシリアが叫び、真っ先に駆け寄る。
檻の中には、痩せ細り、泥にまみれた農民たちが詰め込まれていた。
その首には、魔力を強制的に吸い出すための銀のチョーカーが嵌められている。
「……ボク、こういうの見逃せない」
ユーリが静かに銃口を向けるが、護送を担当する帝国の役人は、
鼻で笑って命令書を突きつけた。
「やめなさい、お嬢さん方。これは正当な『徴収』だ。
今年は不作でな、年貢の代わりに『魔力エネルギー』を
ルーンの抽出施設へ納めてもらうことになっている。
皇帝陛下と法王様がお決めになった、慈悲深い救済処置だよ」
「魔力を吸い取ることが救済!? ふざけないで!」
セシリアが剣を抜こうとしたその時、檻の中の老人が、震える手で彼女を止めた。
「……やめてくれ、お嬢さん。逆らえば、残った村の子供たちが殺されるんだ……。
これが、この世界の『平穏』を保つためのルールなんだよ……」
老人の目は、とうに死んでいた。黄金の麦畑。回る風車。
その美しさはすべて、農民たちの命を搾り取って維持されている「張りぼて」だった。
「(……これが、博士が言っていた『負の遺産』の末路ってわけね)」
アタシは冷めた怒りを胸に、遠く空にそびえ立つルーン教会の尖塔を見上げた。
「……嘘。こんなの、帝国のやり方じゃないわ」
セシリアの震える声が、麦畑を吹き抜ける風に消えた。
彼女が騎士学校で教わった帝国は、弱きを助け、秩序を重んじ、
民の盾となる誇り高き国家だった。
だが、目の前にあるのは、檻に詰め込まれた民と、
彼らから魔力を略奪する「帝国」の紋章を背負った兵士たち。
「やめなさい! 帝国の騎士が、民を家畜のように扱うなど……
あたくしが許しませんわ!」
セシリアが腰のレイピアを抜き放つ。その刃は、かつてないほど激しく震えていた。
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