5.時間結晶(タイムクリスタル)
「な、なるほど……。
キミは普通の人間とは違う特殊なスキルを持った、特別な子っていうことね」
少年があまりに突拍子もないことを言い始めたので、
アタシは自分なりの結論をつけた。
よくある話だ。子供の頃に能力を開花させ、
いわゆる『神童』と呼ばれて帝国に囲い込まれたクチだろう。
「いいえ、言葉の通りです。
私は帝国で試作品として作られた <ヒト型の独立系マザーシステム> なのです」
……子どもの冗談にしては、ぶっ飛び過ぎている。
それとも「そんなバカな!」と笑ってあげるところかしら?
とにかく、こんな可愛らしい子に真顔で言われると対応に困る。
他のクルーも、どう反応して良いか分からず目を見合わせている。
「申し訳ございません、驚かせてしまいまして。
私の名前は【試作番号A0001号】。コードネームは――【アカネ】と申します」
「アカネ……? ずいぶんと古風で、女の子みたいな名前ね」
アタシは、その響きを舌の上で転がしてみた。
帝国が400年かけて造り上げた、銀河を統べるメインフレームのプロトタイプ。
その名が、なぜこんなにも「人間臭い」のか。
その時はただの違和感だったけれど、この時のアタシはまだ知らなかった。
この「アカネ」という名前が、
後にアタシの人生を(主にスパルタ教育で)地獄に変える名前になるなんて。
「へーー、女の子だったの?」 エリカが不思議そうに頭を傾げている。
(エリカ! あんた驚くところが違うだろ! )
「ボクも、男の子かと思ったよ!」 (バカがもう一人いた……)
「キャリー助けて。アタシの頭ではこれ以上無理」
アタシはキャリーのところに歩いていき、『ばふっ』と抱き着いた。
ちょうどキャリーの胸にアタシの顔が埋もれる。
ほんのり、石鹸の香りがした。んーー落ち着く。
「つまりこの子は、高性能なアンドロイドということでしょう」
キャリーはアタシの髪をなでなでしながら、淡々と持論を展開した。
「はい、そうご認識いただいて問題ございません」
「もーー、アンタらうるさい。話が進まないじゃない。
キャリー! こいつらのムースを取り上げて」
「かしこまりました」
一瞬で黙り込んだエリカとユーリを尻目に、アタシはアカネに向き直った。
「ごめんね。まだ信じられないけど……。
仮にアナタがマザーシステムだとして、何故、帝国軍から追われているの? 」
「……それは、私が【時間結晶】の原理を発見したからです」
「時間結晶!? ……キャリー、お願い! 」
アタシの丸投げを受け、キャリーが眼鏡を光らせた。
「【時間結晶】とは、外部から時間干渉を受けない、
永久機関や不老不死の材料と言われた伝説の物質です。
ただし……3,000年前に発表されてから、未だ開発に成功した者はいないはずですが」
「……不老不死? ちょっと待って」
アタシの脳内計算機が火を噴いた。
「それって、一人の客に死ぬまで商品を売り続けられるってことじゃない。
いえ、死なないんだから、永久に、1000年経っても同じ客から金を毟れるってこと!?
まさに無限集金システム! 最強の商売道具じゃない!! 」
「さ、サーヤ様、そこまでいくと悪徳商法を通り越して魔王の類です……」
ドン引きするキャリーを無視して、アタシの瞳は「金」の形に光り輝いていた。
「ですがサーヤ様。今では4次元航行により限定的な不老不死が可能となったため、その研究はとうに見捨てられた過去の遺物ですよ」
「なーんだ、お金にならないのか……」
現金なもので、アタシの興味は一気に失せた。
だが、アカネの言葉はそこからが本番だった。
「いいえ。時間結晶の真の力は……『好きな時代』の『行きたい場所』へ、
自由な移動を可能にすることなのです」
アカネが微笑む。けれど、その言葉の重みにアタシの背筋は凍りついた。
つまりこれは、単なる移動手段じゃない。
「……なるほどね。過去の帝国が一番弱かった時代を叩き潰して、
歴史そのものを『削除』できる消しゴムってわけだ」
そりゃあ、帝国軍も3,000隻の艦隊を出して必死になるわ。
自分たちの「存在」そのものがかかっているんだから。
30億ギラの仕事。これはただの護送じゃない。
アタシたちは、銀河で最も重い「爆弾」を運んでいるのだ。
「現在、帝国は過去の各時代に艦隊を送り込んで防衛していますが、
時間禁則――(過去の自分)と(今の自分)は会えない法則があるため、
送り込める兵力が限られています。
もし私のデータが反乱軍に渡れば、帝国は根底から崩壊するでしょう」
「事情はわかったわ。キミは銀河で一番ヤバくて、
銀河で一番高く売れる『お宝』そのものね」
アタシはあえて不敵な笑みを浮かべ、席を立った。
恐怖はある。けれど、これほどの大博打、降りるなんて選択肢は海賊にはない。
「いいわ。じゃあ、約束通りアタシのスキルのタネ明かしをしてあげる。
アカネ、キミは『システム』なら、これが一番よく理解できるはずよ」
アカネが、精密機械とは思えないほど純粋な、キラキラした瞳でこちらを凝視してくる。
「驚かないで。アタシが帝国軍を灰にしたあの魔法
――その本質は、この世界の法則を強制的に
『書き換える(バグらせる)』ことなのよ」
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