47.(後編)シリウスの記憶と、百万ギラの風
自販機の明かりだけが浮き上がる暗い通路に、アカネが四次元ボックスから
手際よくフカフカのベッドを並べていく。
ダンジョンのど真ん中で高級ベッドが並ぶ光景は、控えめに言っても異様だ。
「……はい、マリ。大丈夫?これ飲んで落ち着きなさい」
アタシは皆への『貸し』で買った熱々のコーンスープをマリの口元に運んでやった。
マリは夢から覚めるように、ゆっくりと瞳の焦点が合っていく。
さっきまでの、あの猛獣のような殺気は消えていた。
「……サーヤ? 私、なんだか変な夢を見てた気がする」
マリがポツリと語り始めたのは、遠い過去の、けれど鮮烈な記憶だった。
太陽が二つある惑星。平和に暮らしていた部族が、ある日突然、
四次元から現れた「大王」によって一瞬で滅ぼされてしまった話。
(……大王? 誰のことよ。エリカやユーリがいたら、
「それアンタのことじゃないの?」って笑うところだ)
アタシの背中に嫌な汗が流れる。
「サーヤ様。……おそらくマリ様のDNAに刻まれた先祖の記憶です。
つまりシリウスはかつて、四次元人の侵攻によって崩壊した可能性があります」
アカネの小さな呟きが、冷たく響く。
マリの先祖の故郷を奪ったのが、アタシの同胞……あるいは「家族」だったとしたら?
アタシはあえて考えないようにした。
「……ま、過去の話はいいわ。今は目の前の宝箱よ!
ねぇアカネ、セシリアが自分の武器も欲しいってうるさいんだけど、何か無いの?」
「あまりにしつこいので、髪のピン留めセットを用意いたしました」
アカネが差し出したのは、赤、青、緑の宝石が埋め込まれた三種類のピン留め。
赤は火の精霊イフリート、
青は水の精霊ウンディーネ、
緑は風の精霊シルフを使役し、
魔力を増幅させる四次元デバイスだ。
「ナイス、アカネ。……でもカネは取ろう。友情とビジネスは別よ」
「承知いたしました。セシリア様、三セット合わせて……そうですね、30万ギラになります」
「と、当然ですわね。タダというわけにはいきません。
安いものですわ。はい、100万ギラの束よ。
お釣りは不要、可愛いアタクシたちへの投資ですもの!」
セシリアが太っ腹なところを見せ、領収書を切るアカネ。
悪徳商人を見るような目がトウマとマリから向けられる。
(おカネは取れる時に取っておかなくちゃね)
セシリアは満足した顔で、ピン止めを配って歩いた。
早速、アタシが赤、マリが青、そしてセシリアが緑のピン留めを髪に差した。
そこからの第5、第6階層は、まさに「セシリア無双」だった。
「おほほほ! 行きなさい、アタクシのシルフ! 塵ひとつ残してはなりませわよ!」
緑のピンが発光した瞬間、洞窟内に猛烈な真空の刃が吹き荒れる。
シルフが作り出す『風の壁』で敵を寄せ付けず、『風の槍』で急所を貫く。
圧巻だったのは、第6階層のボス、騎士団長の亡霊・デュラハン戦だ。
セシリアは不敵に笑いながら、自身で『ファイアーインフェルノ』を展開。
そこにシルフの『トルネード』をぶつけ、巨大な火炎旋風を生成した。 焦げ付くような熱波がアタシの頬を打ち、デュラハンは断末魔すら上げられず、
一瞬で消し炭へと変わった。
『お、おねーちゃん、やるな。美人さんだしナイスバディじゃ。
ぜひ、おじさんの秘書として働いて欲しいわい。……次が最終階層じゃぞい』
また、あのロク爺似の変な声が響く。
「断りますわ。アタクシが求めているのは可愛い女の子との甘い生活(物理)だけ。
貴方のような加齢臭のするシステムに用はありませんことよ!」
「……セシリア、ある意味アンタが無敵だわ」
心が変態オヤジのセシリアVS本物の変態オヤジ(影の声)。
休養はバッチリ。
トウマも新しい剣(10万ギラのやつ)を握りしめてムズムズしている。
「それじゃ、最終階層に行きましょうか。
……アカネ、念のためキャリーやエリカたちに連絡。
いつでも四次元転送できる準備をさせておいて」
アタシたちは一歩ずつ、階層移動の階段を下りていく。
その先にあったのは、おどろおどろしい巨門……ではなく。
『この先に進むには、1人1万ギラいただきます。チケット売り場はこちらです』
……は? 目の前には、遊園地の入場口のような質素なカウンターと
「チケット販売中」の看板。
「さ、さすが海賊ね……。略奪する前に、まず入場料を毟り取る。こうでなくっちゃね!」
アタシがテーマパークに行くようなノリで財布を取り出す横で、
マリもセシリアも、そしてトウマも完全にビビりきっていた。
待ち構えるモンスターに対してではない。
この先に進んだら、一体いくらむしり取られるのか……? という、
アタシと同じ「略奪者」への底知れない恐怖に。
第47話(後編)をご拝読いただき、ありがとうございます!
今回、マリの重い過去に触れ、少しシリアスな空気が漂いましたが……
後半はいつもの「金と欲望」が全てを上書きしていきましたね(笑)。
100万ギラをポンと出すセシリアの太っ腹さと、しっかりとお釣りをもらわず
「投資」と言い切るあたり、彼女も相当なタマです。
とはいえ、その裏で無言で領収書を切るアカネが一番恐ろしい気もしますが……。
面白いと思ってくださったら、ぜひ星(★)やいいねで応援をお願いします!




