45.(後編):10万ギラの聖剣――ミミックも逃げ出す激辛の代償
マリの筋力オーバーフローは、完全に計算外だった。
遠距離砲台だと思っていたマリが、実は物理法則をバグらせる超戦士だったなんて。
さすがのアタシも、シリウスの血があそこまで四次元バフと共鳴するとは想像してなかった。
ただし、この狭い坑道であの力はヤバすぎる。
これ以上マリが暴れたら、お宝や博士の聖遺物もろとも、
このダンジョンがガレキの山に変わってしまう。
そうなったらアタシのこれまでの努力も、将来の不労所得も全部パァよ。
「マリ、もういいわ。アンタは少し休んでなさい」
「え? ここからが私のターンじゃない。
あそこの奥にいるデカいのも、アタシがやらせてよ」
マリの瞳は、この先にいるエリアボスの巨大な影をとらえている。
さっきのバフの副作用だろうか、マリが異常に興奮し始めた。
「私がやる、私がやる、殺してやる。殺してやる」
「いけません、サーヤ様。伊集院マリの意識レベルが闘争本能に侵食され、
目が完全に逝ってしまっています」
アタシは反射的にアカネに目配せした。
「アカネ、お願い。……マリには、次回頑張ってもらいましょ」
「かしこまりました。……『精神沈静・強制スリープ』」
アカネの指先から放たれた波動がマリを包む。
「……すやすや」
一瞬で糸が切れたように眠るマリを、アタシは近くにいたセシリアに押し付けた。
「セシリア、マリをお願いね」
「任せなさい!アタクシが優しく、慈しむように、それはもう隅々まで抱いてあげますわ!」
「……だ、だめ。やっぱりアカネ、アンタが持ってて」
変態的な笑みを浮かべる委員長からマリを奪い返し、アタシは正面を向く。
そこには、扉を壊された怒りに震える全高10メートルの白銀ゴーレムが立ちはだかっていた。
「ほら、お待たせ。トウマ、あいつはアンタがやりなさい」
「わかったよ。……でも、あれ、かなり硬そうだぜ」
そういうと、面倒くさそうな顔をしながら、
トウマがゴーレムに切りつけた。
<< ゴォォォォォン!! >>
寺の鐘でも叩いたような重苦しい音が洞窟に響き渡る。
トウマの大剣がゴーレムの装甲に弾かれた音だ。
更にトウマは持ち前のスピードを活かし、死角である背後へと回り込む。
「雷を司るアルゲース、今こそ我が剣に宿れ!!」
必殺の雷鳴剣。青白い電撃が唸りを上げ、空気が焦げる匂いが鼻をつく。
トウマが大剣を鞘に収めた時、ゴーレムの首は確かに胴体から離れ落ちていた。
「さすがS組TOPですね、いつもそうやって胸を張ってれば、
クラスでいじめられないのに」
遠くからトウマを見ていたセシリアが感嘆の声を漏らした、その時だった。
ゴトッ、と音を立てて、落ちたはずの頭部が
磁石のように胴体へと吸い寄せられ、再びドッキングしたのだ。
「……しつこいわね。物理がだめなら、これならどう?
白銀には光属性の熱魔法が有効なのよ」
次はセシリアの番だ。
彼女は杖を取り出し周囲の明かりを一点に集約させた。
そして、太陽のごとき超高温の光球をゴーレムに叩きつけた。
本来なら、白銀の装甲を一瞬でドロドロの液体に変えるはずの熱量だ。
しかし、ゴーレムはびくともしない。
それどころか、ゴーレムは反撃に転じ巨大な拳で、
トウマの大剣を正面から粉砕してしまう。
パリン、と情けない音を立てて砕け散る先祖代々の剣。
「……あ、僕の剣が……先祖から受け継いだ大切な……」
「剣の1本や2本で泣くんじゃないわよ。……アカネ、アレを1本貸してあげなさい」
アカネが四次元ボックスから、以前エリカたちの武器を作った時に出た
「余り物」を無造作に放り投げた。
トウマがそれを慌てて受け取る。
「なんだこれ……? すごい!振るだけで空気が切れて、真空が現れるぞ」
「10万ギラよ」
「へ? この状況でお金取るのか!?」
「当たり前じゃない。この世にタダのモノなんてないわ。
……買うの? 買わないの?」
「……わかったよ、買うよ! 出世払いでいいか!?」
「毎度あり。セシリアも欲しいのがあったら言ってね、年利30%で貸してあげるから」
「……シェンカーさん、本当に貴方は何者なのですか?」
セシリアが引き攣った笑顔を向ける横で、アカネが「まったく……」と
呆れた眼差しをアタシに送っている。
「さあトウマ、10万ギラの力を試してごらんなさい!
あのゴーレム、さっきの光魔法をその剣で増幅させてブチ込みなさいよ!」
トウマが再び叫ぶ。
「雷を司るアルゲース、今こそ我が剣に宿れ!!」
<< バチバチバチバチッ!! >>
剣から溢れ出した電撃が、
アタシたちの肌までチリチリと焼くようなプレッシャーを放つ。
トウマが一閃。
次の瞬間、10メートルの白銀巨躯は蒸発し、キラキラと輝く塵となって消滅した。
『なかなかやるな。ここまでは合格じゃ。
……じゃが、次のフロアでも生き残るかな? フォッフォッフォ』
……何、このロク爺みたいな喋り方。 もしかして、博士の声?
もし、そうだとしたら、ここから先のダンジョンは本物の地獄に変わるわね。
けれど、アタシの目はそんな不安よりも先に、床に転がったお宝を捉えていた。
「コインコイン! あっ、宝箱まで落ちてるじゃない! きゃっほー!」
「あっ、サーヤ様、それは――」
アカネの制止が間に合うより早く、アタシは豪華な宝箱に飛びついた。
ガバッ。
箱が開き、アタシの上半身が飲み込まれる。……ミミックだ。
「きゃああああ!」
セシリアが悲鳴を上げる。
けれど、次の瞬間。
「……ゲホッ! オエェェェェ!!」
ミミックが涙目でアタシを吐き出し、悶絶しながらのたうち回った。
「なによ! 人を食べておいて吐き出すなんて、失礼しちゃうわね!」
「サーヤ様、ポケットに何か入れていたのでは?」
アカネに指摘され、アタシは思い出した。
「あ、これ……。トウマが食事するときに食べさせたら面白いと思って入れてた、
『プレミアム金の唐辛子Z』だわ」
悶絶するミミック。
それ以上に引き攣った顔でアタシを見つめるトウマ。
「そ、そんなことを考えていたのか?
サーヤ、本当はお前がこのダンジョンのラスボスなんじゃないのか!?」
(後編)をお読みいただきありがとうございました!
ついに第4階層を突破!……したものの、
トウマには10万ギラの借金(年利30%)が残り、ミミックはサーヤの
激辛唐辛子の犠牲になるという、なんともカオスな幕切れとなりました。
それにしても、マリの暴走を止めるために『スリープ』をかけましたが、
あのまま暴れさせていたら今頃ダンジョンは消滅していたかもしれませんね……。
そしてラストに響いた、ロク爺似の怪しい笑い声。
サーヤが予感した通り、ここから先は『遊び』では済まない地獄のフロアが待ち受けています。
どうぞお楽しみに!




