表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/75

45.(前編):鋼鉄の門と、シリウスの乙女

 図書館ダンジョン第3階層。  

一歩足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつく湿り気が変わった。

これまでの「放課後の延長線」のような浮ついた空気はどこにもない。


「……ねぇ、なんか空気、重くない?」


 マリが不安げに周囲を見渡す。  

壁一面にへばりついた光ゴケは、何かに怯えるように弱々しく明滅を繰り返し、

闇の奥からは、こちらの体温を値踏みするような粘りつく視線が突き刺さる。  


そして、アタシたちの前に立ちふさがったのは、絶望そのもののような「鉄の壁」だった。



「無理。これ、扉じゃないでしょ。ただの壁でしょ」


 目の前には、鈍い銀光を放つ10トンはあろうかという巨大な鉄扉が鎮座している。

鼻をつくのは、古びた鉄と乾燥した魔力の、焦げたような匂い。


「何を情けないことを! どきなさい、イワサキ君」


 セシリアが苛立たしげにトウマを退け、一歩前に出た。



「これしきの障害、アタクシたち帝国エリートなら

越えられないはずがありませんわ。

扉を開けて差し上げますから、見ていなさい!」


 セシリアが優雅な制服の袖をたくし上げ、扉に両手をかける。


「――ぬんっ!!」



<< ギギ、ギ…… >>


 耳障りな金属音が響き、微かに扉が動き始めた、その時だった。  

扉に刻まれた幾何学模様が浮かび、突如として眩い白光を放つ。



「な、なんですの……これ!? 急に重く……


<< ギギギギ……っ! >>



「あーあ。これは重力操作系の防衛術式ね。

無理よ、セシリア。今のそれ、100トンくらいあるわよ」


 アタシは冷めた声を投げた。  

案の定、セシリアは顔を真っ赤にして踏ん張るが、扉は1ミリも動かなくなった。  



 アタシは内心で溜息をつき、背後のアカネに小声で耳打ちする。


「……ねぇ、アカネ。これ、アタシが指一本で弾き飛ばしてもいいんだけどさ」


「おやめください、サーヤ様。翌日の学園新聞に

『怪力幼女、現る』とデカデカと載りたいのであれば別ですが」


「だよねぇ。……じゃあ、誰かにバフかけて、そいつの手柄にするのが一番か」



 アタシはこっそり眼鏡スカウターを起動し、(筋力測定モード)にした。

レンズ越しに緑色の数値が走る。


「……ちょっと、これ見てよ。スカウター、壊れてるんじゃない?」


「どれでしょう……。ああ」


 画面を覗き込んだアカネの眉が、一瞬だけピクリと動いた。



 ・セシリア:1000(魔法職のエリート標準)

 ・トウマ:800(期待を裏切らないヘタレ)

 ・マリ:2500



「……マリの数値、おかしくない? 委員長の2.5倍って何よ。岩でも食べて育ったわけ?」


「サーヤ様、彼女の身体をスキャンし、DNAを調べてみました。

極めて微量ですが**『シリウス人』**の因子が混ざっているようです」


「シリウス? ……あの、一噛みで恒星を噛み砕くっていう

銀河最凶の戦闘種族ヤマタノオロチのこと?」


「左様です。ここでの突破口は、伊集院マリ様をターゲットにするのが最適解かと」



 アタシは引き攣った顔を隠せなかった。


(……マブダチが銀河の暴君の末裔。笑えないけど、使うしかないわね)


 アタシは人知れず指を動かし、

マリの背中に向かって不可視の四次元バフ術式――

『重力質量・完全相殺ゼロ・グラビティ』を叩き込んだ。



「ねぇ、マリ。せっかくここまで来たから、帰る前に記念写真を撮りたいの。

そこで扉を開けるフリをしてみて」


「えー? サーヤ、変なことばかり思いつくんだから。

……じゃあ、可愛く撮ってね?」


「なぬ、可愛く!?」


 その言葉にだけ俊敏にセシリアが反応し、

アタシの真横でカメラを構える。  


 マリは無邪気に微笑みながら、

綿菓子にでも触れるような軽やかさで、巨大な鉄扉に指を添えた。



 ドォォォォォォォォォン!!



 鼓膜を揺らす爆鳴。  

100トンの巨門が、文字通り壁ごと引き剥がされ、奥の闇へと消え去った。


「え……?」


 さすがに、アタシの喉も鳴った。

今の破壊音は「バフのせい」だけでは説明がつかない。


「あ、あれ? 今、手応えあったかな?」


 小首をかしげるマリ。  

アタシは嫌な予感に冷や汗を拭いながら、慌ててスカウターを再起動した。



「……うそ、でしょ?」


【伊集院マリ:筋力値(STR)】

 2500 ――> 9999+(OVERFLOW)


(……オーバーフロー!? アタシのバフ、ちょっと盛りすぎた!?)


 レンズの中で赤く明滅する警告表示。  

今のマリは、指先ひとつで小惑星を粉砕できる「歩く戦略兵器」と化していた。


「……サーヤ様。やはり彼女の血と、四次元魔法の相性は最悪(最高)のようです」


「……ま、まさかね。見間違いよ、きっと」


 足元でカメラを落とし、魂の抜けた顔で固まるセシリア。

顎が外れそうなほど口を開けて震えているトウマ。



 そして、無理やり抉じ開けられた扉の向こう――

暗闇の奥から、山のような巨大な影がゆっくりと、地響きを立てて立ち上がるのが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ