44.(後編):地下遺跡のバトルモード――悪意が覗く第3階層
図書館の引き出しの先は、虹色の光が流れる時空間のトンネルが広がっていた 。
そこに1台、剥き出しの椅子が並んだ、奇妙な乗り物が浮いている。
先に入ったトウマとマリは、座席にしがみついてキョロキョロと辺りを見回していた。
「よかったーーー、伊集院さん、無事なようね」
遅れて飛び込んできたセシリアが、安堵の溜息をつく。
その後ろから、アカネが何事もなかったかのような足取りで入ってきた。
「ここはどこなの? サーヤ、何か知ってる?」
震える声でマリが尋ねる。
この異様な空間で、異常なまでの落ち着きを見せているのはサーヤとアカネだけだ。
「異次元に迷い込んだようね。
一昨日読んだ漫画の中でも、同じようなシチュエーションがあったわ。
それは猫型ロボットが運転する、タイムリープをする乗り物だった」
「それじゃ、これはタイムマシンなのかしら!?」
「さあね。でも、図書館には戻れないみたいだし、前に進むしかないわ」
女子たちが冷静(?)に現状を分析する一方で、
トウマはガチガチと歯を鳴らして縮こまっている。
「トウマ、しっかりしなさい。それとも、アタシとのデートが楽しくないの?」
アタシが四次元海賊特有の威圧を僅かに混ぜて嘆いてみせた。
「楽しいでしょ? ……ね!!」
そして威圧の念押し。
「は、はひっ!! いえ、楽しいです! 最高です!!」
涙目で叫ぶトウマ。そこへセシリアとマリの視線が鋭く突き刺さる。
「「やっぱりデートだったのね!」」
「さぁ、デートという名の『お宝探し』に出発よ。さあアカネ、出して」
コクリと頷くと、アカネがコンソールのレバーを引いた。
音を立てて動き出すマシン。
一瞬、目の前が光ったかと思うと、次の瞬間、アタシたちの前には意外な風景が広がっていた。
どこまでも続く、湿った土と鉄の匂い。
暗闇に光ゴケが点在する広大な地下洞窟――
そこは「ダンジョン」だった。
「やっぱり。お宝はこうじゃなくっちゃ」
「お宝? 何のことよ、サーヤ」
マリが詰め寄る。
セシリアもインテリ眼鏡を光らせて同調した。
「私もおかしいと感じていました。
デートにしてはイワサキ君ではあまりに役不足。……そろそろ説明して頂けますか?」
「アカネが読んでいた古文書に書いてあったのよ。
この図書館の地下に、とびきりのお宝が眠っているって」
「だからって、なんで私やトウマ君を巻き込むのよ」
「マリはマぶだちだし、トウマは荷物持ちに使えそうだからよ」
「ま、マぶだち……つまり親友ってこと……。そ、それじゃ仕方ないわね」
嬉しそうに俯くマリ。
しかし、アタシの脳内はもっと冷徹だ。
(……仮にお宝が「カスアイテム」や「ハズレポーション」
だったとしても、地球人には価値があるはず。
富豪の伊集院家なら高く買ってくれる。そのためのマリよ)
そんな裏心が顔に出たのか、トウマがジト目でこちらを見ている。
こっちは四次元と親父と聖遺物がかかっているのだ。
他人の目なんて気にしていられない。
とはいえ、一人でも死なれては困る。
ダンジョン冒険をする前に、全員の実力を知っておく必要がある。
アタシは最後尾に陣取ると、網膜スカウターで全員の魔力波長をスキャンした。
・トウマ:1500(潜在能力が鍵として異常に高い)
・セシリア:1100(帝国貴族平均の800を優に超える数値。流石ね)
・マリ:900(地球人にしては驚異的な努力値)
(……これなら、アタシが手を下すまでもないわね。しっかり肉壁になってもらうわよ)
アタシたちはダンジョンで歩く順番を決めて、トウマを先頭に歩き始めた。
ダンジョンは広く、天井からは不思議な発光石が吊るされている。
「前方、魔物反応! 来ますわ!」
サーチ魔法を得意とするセシリアが叫んだ。
「任せて! ともだち・サーヤには指一本触れさせないんだから!」
マリが小熊のイラスト入りの杖を掲げ、火炎を放つ。
爆炎に怯んだゴブリンの喉元を、トウマの剣が迷いなく貫いた。
即席だが、思いのほかバランスの良いパーティだ。
戦闘が終わると、静寂の中で「チャリーン」と乾いた音が響いた。
「……!? 今、お金が落ちる音がしたわ!」
「え? なにも聞こえないわよ」
「確かにお金の音よ。アタシが聞き間違えるわけがない!」
ゴブリンが消えた跡に、一枚の銅貨が落ちている。
アタシは瞬歩で駆け寄り、それを拾い上げた。
「えへへ、コインめーっけ!」
泥だらけのコインは、見たことのない貨幣だ。
アタシは、綺麗にコインを拭いてポケットに収めた。
それを見守る一行の目は、驚くほど冷めていた。
「……サーヤ。それ、庶民の駄菓子くらいしか買えないわよ?」
マリが冷静に指摘する。
その横では、セシリアが胸を押さえて悶絶している。
「その意地汚い執着心、そして泥を拭う小さな指先……。
あああ、萌えますわ! 汚れたコインになりたい……!」
セシリアが恍惚とした表情で身悶え、トウマが頭を抱えたその時だった
『嘆かわしい……。こんなふざけた奴らが我が聖地を汚しに来るとは』
「……っ!!」
アタシの背中に氷柱を突っ込まれたような悪寒が走った。
(今、誰かに覗かれた!!)
それは単なる視線じゃない。
アタシの存在そのものを値踏みし、排除しようとする明確な「悪意」のプレッシャーだ。
隣のアカネも既に戦闘モードに切り替わっており、鋭い目で周囲をスキャンしている。
しかし、声の主、発せられた方法と場所を突き止めることはできなかった。
やがて、ダンジョンは行き止まりにたどり着き、階段を下りていく。
その入り口には「ようこそ第3階層へ」と手書きの看板が立っていた。
ダンジョンといえば3階層目からが本番だ。
この先に潜んでいるのは、これまでのゴブリンのような雑魚ではない。
「アカネ、全力展開の準備。……念のため、蘇生魔法の術式も並列で組んでおきなさい」
アタシは拾ったばかりのコインを強く握りしめた。
第44話(後編)をお読みいただきありがとうございました!
即席パーティによる初陣、いかがでしたでしょうか。
火力を叩き出すマリ、必死に剣を振るトウマ、そしてサーチと変態的萌えを担当するセシリア……。
意外にもバランスの良い(?)パーティが結成されました。
しかし、そんな賑やかな道中を切り裂く、謎の声と悪意の視線。
『聖地を汚す者』とは一体何者なのか。
そして、サーヤがアカネに命じた『蘇生魔法の準備』が、この先の絶望を予感させます。
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