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43.(後編):最強の借金取りと、地下迷宮の鼓動

 マリアとのお茶会という名の心理戦は、「形式的な和解」という形で終わった。


 学園内の3つ巴の構想は終わったが、アタシには確かめたい事が増えた。

アタシ達に対する四次元追放と、親父の行方をルーンが握っている。


 そうなると残るは1つだ。

いち早く、ウルティマウェポンと聖遺物を手に入れ、ルーンへ向かうことだ。

そのためアタシは、2つのカギを握るイワサキ博士の子孫・トウマを攻略することにした。



 お茶会の日の下校時、

アタシは廊下で、セシリアを捕まえると彼女にある要求を突きつけた。


「委員長。トウマの家、教えて。あいつの住所は、生徒会で把握してるでしょ」


「これはこれは、シェンカーさん!

何かと思えば、イワサキ君の家を知りたいのですか?」  



 セシリアは緩んだ目じりを隠すように、

細いフレームのインテリ眼鏡のブリッジを、中指でスッと押し上げた。


「……不謹慎ではありませんか。男女が安易に互いの居所を教え合うなど。

……ですが、シェンカーさん。貴女がどうしてもというのであれば、

私が『監督役』として同行しましょう。当然の義務ですわ」  


 無機質にさえ聞こえる冷徹な声。しかし、頬は紅潮している。

カバンから、ピンク色の丸っこい猫のキャラクター付きの通信端末を取り出すと、

執事に連絡を始めた。



「さあ、私の車へ。外は風が強いですから」  


 セシリアが用意させた防弾仕様の超高級リムジン。

ドアが開くと、豪華な座席を真っ先に確保したのは、意外にもマリだった。


「ちょっとサーヤ! 私を置いてトウマ君の家に行くなんて、

絶対にダメなんだからね! 仲間外れは禁止!」  


 膨れっ面でサーヤの腕を離さないマリ。

彼女にとって、宇宙船の修理も古代兵器も関係ない。

ただ「親友と一緒にいたい」という、この場でもっとも純粋で、かつ最強の動機だった。



 リムジンの後部座席で、セシリアの理性は極限状態にあった。


 < 右にサーヤ、左にマリ >


 図で書くとこんな感じ。


 |サーヤセシリアマリ|


 つまり密着状態で、名前がくっついて、誰が誰だか分からないほどだ。


 幼女二人に挟まれ、その微かな体温と柔らかな存在感に包まれたセシリアは、

正面の窓を凝視したまま石像のように固まっている。


(……落ち着きなさい、セシリア。貴女は学級委員長よ。

この状況はただの移動手段に過ぎないわ。……でも、なんという芳わしい香り……。

サーヤ様の髪が、私の肩に触れて……あああ、このまま時が止まればいいのに……!)


 彼女の胸元で揺れるペンダントは、実は帝国の秘宝などではなく、

先日サーヤと出かけた時にこっそり買ったお揃いの星型アクセサリーだ。



「委員長。窓、開けていい? ちょっと暑いんだけど」


「……ええ、お好きになさいな(あああ、今私に話しかけられた! 声が耳元で!)」  


 冷淡な返答とは裏腹に、

彼女の指先は、手帳の猫チャームを愛おしそうにギュッと握りしめていた。



 到着したのは、帝国の重鎮が住まうエリアの中でも、

ひときわ異彩を放つ超豪華な御殿だった。  



 メイドに案内されて、トウマの自室の前まで来た。

自室の扉は、最新の四次元演算暗号ロックによって固く閉ざされている。

セシリアは溜息をつき、優雅に魔杖を構えた。


 メイドによると、アタシ達が訪問したことを告げたが無反応。

こうなると、中からトウマが開ける以外、外からは何もできないのだそうだ。



「仕方ありませんわね。帝国技術局の試作ロックですが、

私の解析魔法であれば解除可能ですわ。少々時間はかかりますが」


「どいて。アタシがやるわ」  


(こんなところで時間を食っている場合じゃない。

すぐにでもウルティマウェポンと聖遺物を手に入れるのよ)



 アタシはトウマの部屋の前に立ち、息を思い切り吸い込んだ。



「こぉぉぉぉらぁぁぁぁっ、トウマ!! 5秒以内に出てこないと、

あんたの部屋の空気を全部抜いて真空にしてやるわよ!! 5、4……」  



 ガチャッ、バタン!!


「は、はいぃぃっ! 出ました! すぐに出ましたから!!」


 カウントが「3」に達する前に、顔面蒼白のトウマが扉を開けて転げ出てきた。

セシリアは杖を構えたまま、インテリ眼鏡を少しずらしてポカンと口を開ける。


「……なんですの、今の原始的なセキュリティ突破は」


「あんたね、いつまでも引きこもってないで学校に来なさい。

……それから、貸してた『100ギラ』、今すぐ返しなさいよ」


「は、はひっ! 申し訳ありません!」  


 トウマが震える手で差し出したのは、たった一枚の銅貨だった。

呆れるセシリアとマリを余所に、サーヤは100ギラを満足げにポッケにねじ込んだ。



「……それはそうと。来週、一緒に図書館へ行くわよ。

トウマ、あんたに見せたい本があるの」  


サーヤのさらりとした誘いに、現場の温度が急速に氷点下まで下がった。



「な、なんですって!? 二人きりで密室の図書館!?

不潔ですわ、私も保護役として同伴します!」  


 セシリアがインテリ眼鏡を鋭く光らせた。


「ちょっとトウマ君! 私を差し置いてサーヤとデートしようなんて

100年早いんだからね! 私も絶対に行くから!」  


 マリもまた、親友の隣を死守すべく鼻息を荒くした。



「……何を勘違いしてるのか知らないけど、

トウマにしか解読できない特殊な古代文字があるのよ。

アタシ一人じゃ読めないの」  


 キャリーが手に入れた情報によると、

 この学園の地下図書館の最深部に、「開かずの間」と呼ばれる禁書庫がある。

更にその先には、四次元文明の遺跡が眠っているらしい。


 遺跡……

つまりそこには、三次元ではただの娯楽品と誤認されている聖遺物『マンガ』

――四次元エネルギーを紙葉の形に高密度圧縮した「方舟の残骸」が隠されているにちがいない。


 トウマはそこで何らかのカギになるらしい。

生きたまま連れて行かねば、カギにならないので、こうやって誘っているのだ。



 サーヤはトウマの震える手を、優しく、しかし逃がさないように強く握った。


「楽しみにしてるわね、ト・ウ・マ・君」


「は、はひぃ……」



 夕闇に包まれるトウマの屋敷を背に、サーヤは夜空を見上げた。  

その視線の先には、月面のドッグで牙を研ぐアカネとロク爺の影がある。


 そして、叔父から聞いた「ことわりの果てに幽閉された父」の幻影があった。


「待ってろよ親父!

膨大な慰謝料をルーンに払わせて、ついでに聖遺物で大儲けして、

ウルティマウェポンも売りつけてやるわ。

そして、アタシは四次元で悠々自適な引きこもり生活をするのよ」


 うふふふふ。


 月を見ながら、声を荒げて笑うアタシ。

横ではマリが、「ともだち(さーや)救出 対トウマ作戦」をノートにつけ

そんな2人を、舐めるように見つめるセシリア。


 満月の夜、しずかに更けていく帝国貴族の高級住宅街の一角で、

欲望者たちによる三者三様の妄想が渦巻いていた。

第43話(後編)をお読みいただきありがとうございました!


ついにトウマの屋敷にカチコミ(?)をかけたサーヤ御一行。 防弾仕様の高級リムジン内で繰り広げられた、セシリア委員長の理性の崩壊っぷりはいかがでしたでしょうか? インテリ眼鏡に隠された彼女の乙女心(と猫チャーム)が、いつか報われる日は来るのか……編集者としても見守りたいところです。


しかし、物語の裏側ではサーヤの『海賊』としての本性が牙を剥き始めました。 100ギラの取り立ては単なる撒き餌。彼女が狙うのは、古代の超エネルギー体である聖遺物『マンガ』、そして幽閉された父へと繋がるウルティマウエポンの鍵。


次回からは、いよいよ新章突入! 【第44話:禁書庫の門――図書館ダンジョン攻略開始】

面白いと思ってくださったら、ぜひ星(★)やいいねで応援をお願いします!

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