表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/73

43.(前編)40億ギラの虚偽報告と、究極のパフェ

 嵐が過ぎ去った後の学園は、不気味なほどに静まり返っていた。  


 戦場となった学園のテラスでは――。

ルーン聖王国のマリアが、たった一人で「戦後処理」の隠蔽工作に奔走している。



 今回は、目撃者が多すぎた。それに破壊した範囲が広すぎる。


 マリアはまず自身の魔力を限界まで絞り出し、大規模な(記憶修正魔法)を展開。

テラスにいた生徒や負傷した兵士たちの脳に、新たな「偽記憶」を書き込んでいった。


 目撃者が多いという事は、精神干渉魔法で、記憶を書き換える人数が多く、

消費する魔力量も膨大という事だ。疲労感が半端ない。



「……はぁ、はぁ。まさか禁忌魔法をここまで連発することになるなんて……」  


 次にマリアが手を付けたのは、学園の1区画がふっとんだ後始末。

こちらは「魔法実験の暴走」として片付けられた。



 だが、魔法の「上書き」にも限界はある。  


二年生の教室では、消去しきれなかった記憶により、リズが(覚醒)の兆しを見せ始めていた。

こちらはマリアが知る由もない。



「……リズ様、先ほどからずっとご自身の手を見つめておいでですが、何か?」  


 メイドの問いに、リズは夢見るような瞳で呟く。


「私、お昼休みに夢を見ていたのかしら。

私、夢の中で、極大魔法ファイアーインフェルノを使っていたわ。

あの焼けるような感覚が、まだ身体に熱が残っているの……」



 知らず知らず、リズの掌からは、高密度の魔力が漏れ出している。


だが、まわりの生徒やメイドたちは、それに気づいていない。

記憶は消せても、魂が覚えた「全能感」までは消せなかったのだ。



◇ ◇ ◇


 一方、その日の夜、月面のドッグでは酒盛りが盛大に行われていた。

久しぶりの再会という事で、ギルバートとロク爺がワインを開け、

便乗するようにエリカが、飲んで騒いでいたのだ。


 宴会は夜通しおこなわれていた。

アタシは、朦朧としながら3人につきあっていたが、

ある言葉がアタシを覚醒させた。



「俺も本当はこんな辺鄙なところまで来たくなかったんだ。

しかし、あの額を提示されたらな……」


「え、報酬っていくらだったの?」


 アタシの興味がある話題になったとたん、目が覚めた。

ギルバートも、この時ばかりはノリノリで話し始めた。



「30億ギラだ」


「やるわよ、30億なら」


「な、サヤ坊もそう思うだろ。やっぱりカネだよな! 」


 そうそう、30億だったらアタシも何でもやるわ!

アカネの護送の時も、帝国軍を敵に回すと知って、仕事を請けたのよね。


 そんな話をすると、ギルバートが、ますます盛り上がって、

ワインのペースが上がり始めた。



「なるほど、カネに意地汚いのはシェンカー家の血だな。うひひひ。」

「そりゃ間違いない、先代もカネに目がなかったからのう」


 そんな2人を見て、エリカとロク爺がニタニタしながら、

杯を重ねていく。


 そんな感じで宴会は朝まで続き、アタシもロクに寝ていない。

も、もちろんアタシは未成年だからジュースよ。ジュース。



 ギルバートは、朝早く帝国本星へ帰っていった。


 帝国本星といえば、何百万光年も離れているが、四次元を使えば一瞬だ。

彼も四次元海賊の端くれなので、なんなく航海ができる。


 そのギルバートから、1時間前に通信が入った。

もう帝国本星についたらししく、帝国統合本部に出向き、

皮肉を込めた痛烈な虚偽報告を叩きつけたそうだ。


「ターゲットの少女はルーンとは無関係だった。

態度の悪いガキで辟易した。情報の精度を疑う」



 辺境から届いたガセネタのため、

S級冒険者を動かしたことに本部は謝罪し、

30億の報酬に10億ギラを上乗せしてくれたそうだ。


これもアタシのお陰とお礼を言ってきた。


 今回、叔父は大儲けをしたが、

一方、無駄な軍事予算を投じた帝国太陽系方面軍は、

責任追及の嵐に晒されることとなった。



◇ ◇ ◇


 翌日3時限目の休み時間、一年S組の教室。  

アタシは、隣の席のマリと、叔父・ギルバートがくれた

帝国名物のシナモンクッキーを食べながら談笑していた。


 やっぱり平和が一番。アタシはこうやって、好きなものを食べて、

まったりとした時間を過ごすのが好きなのだ。更にマンガがあれば最高よね。



 しかし、そんな幸せな時間は続かない。

今回も犯人は王女マリアだ。本当にしつこい。


 彼女は教室に入るなり、真っ直ぐサーヤの元へ歩み寄ると、

周囲の驚愕を余所に、深々と頭を下げた。


「サーヤさん。改めて、お茶会に招待させてください。

……昨日の『お詫び』と、その、お礼も兼ねて」



 教室内が「お詫びってなんだ!?」

「聖王女に頭をさげさせるなんて、あのチビ、恐れ知らずの残虐者だ!?」

と騒然となる中、サーヤは面倒そうに片目を上げた。


「お茶会? またですか。アタシ、暇じゃないんですけどー」  


 マリアに対して、これ以上ないほど不遜な態度。

だがマリアは怒るどころか、どこか縋るような目をしている。



「サ、サーヤ、行こうよ! 聞いた!? ルーン本国から、

王家御用達の伝説のパティシエが今日のために来てるんだって!

究極の『パフェ』が食べられるチャンスかもよ!」  


 親友のマリが、キラキラとした目でサーヤの袖を引く。

記憶を消された彼女にとって、これは「降って沸いた幸運な招待」なのだ。



「……伝説のパティシエ。……究極のパフェ。

……まぁ、そこまで言うなら、行かなくもないわよ」  


結局、アタシは食い気に負けて、重い腰を上げることになった。



 マリアの個室で行われた二度目のお茶会。

そこには、なぜか「サーヤちゃんの護衛(自称)」として、セシリアも同席。

更に、ルーンの情報にアクセスするチャンスだと、アカネまでメイド姿で乗り込んできた。


 個室の中は、昨日、闘った3つの勢力が仲良く膝を突き合わせている。

記憶を書き換えられているとはいえ、異様な光景だ。



「……それで、お詫びとは何のことかしら?

昨日はただ、みんなで楽しくランチを食べただけですよね?」  


 アタシは目の前に並んだ、芸術品のような重層パフェを

スプーンですくい取り、モグモグしながら、マリアに尋ねた。


「昨日はちょっとお客様が多くて、メイン・ゲストの

サーヤちゃんを放置することになって、それを謝罪したかったの」


「ふーーん」


「それで、改めてだけど」


「アタシ、風紀委員会には入らないわよ。

毎日が忙しくて、とても風紀委員会まで手が回らないわ。ねぇアカネ」



 サーヤに話を振られ、控えていたアカネが完璧な所作で一礼した。


「はい。サーヤ様は毎日、マンガ研究部の活動を楽しまれ、

帰宅後もマンガの研究と仰り、マンガ漁りと、スイーツの日々。

そういえば、今日の宿題もする暇がございませんでしたわね」


「あっ、それは。トウマにやらせるの忘れてたわ」


「こまった主人です」



 あまりに完璧な茶番劇。マリアは肩の力を抜き、苦笑を漏らした。

目の前の幼女は、自分以上に「隠蔽」を徹底している。


 アタシの正体が何であれ、今はまだ踏み込むべきではないと

マリアは悟ったのだ。


「わかりました。風紀委員会は、二度とマンガ研究クラブに干渉しないと誓いましょう。

……ただし条件として、いつか我がルーンへ遊びに来てくださる?

もっと驚くようなスイーツをご用意してお待ちしていますから」


「……スイーツ。……気が向いたら、ね」


 こうして、銀河規模の衝突を孕んでいたランチタイムは、

極めて平和な結末へと収束したかに見えた。



 しかし……アカネの目は笑っていなかった。


「さすがはルーンの聖女、結局最後にサーヤ様を自国へ招く布石を打ち、

断れない雰囲気の中でお茶会を終わらせるとは……」

第43話(前編)をお読みいただきありがとうございます!


宇宙規模の戦いが終わってみれば、叔父のギルバートは40億ギラものボーナスをゲットし、サーヤは伝説のパティシエが作ったパフェを堪能するという……。結局のところ、この叔父にしてこの姪あり、といったところでしょうか。シェンカー家の『カネと食い気』への執念は筋金入りです。


一方、一人でせっせと記憶改竄に励むマリア様が、本作で一番の苦労人に見えてきました。 さて、平和に戻った(?)学園ですが、サーヤにはまだやり残したことがありました。


もし「続きが気になる!」と思ってくださったら、

ぜひ【評価】や【ブックマーク】で応援いただけると、更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ