42.(後編):宇宙(そら)まで追いかけて。――ルーンへ続く道】
「いやはや、さすがはルーンの英知だ。この距離で私の気配に気づくとはな」
教会の屋根から、使い古されたコートを羽織った男が、
軽薄な笑みを浮かべて飛び降りてきた。
帝国最強の「S級冒険者」。
単体で戦艦十隻分に匹敵すると言われる生ける伝説が、ついにその牙を剥いた。
マリアの護衛が即座に反応するが、男は一瞥もくれない。
彼は左目のスカウターを起動し、テラスでプリンを抱えるサーヤを捉えた。
だが、次の瞬間、レンズ内に真っ赤な警告文字が明滅した。
【計測不能(ERROR)……計測不能(ERROR)……】
(故障か? いや、ありえん。
この娘、自分の数値を外部から完全に遮断しているのか!?)
男は即座に「威力偵察」を決意した。正体を暴くための電撃戦。
彼は「身体強化」を全開にし、空間を圧縮するかのような速度でサーヤの死角へと回り込んだ。
「――四次元連携魔法術、『虚空の針』」
三次元の障壁を透過して直接標的を貫く、不可視の毒針を放つ。
だが、サーヤは座ったまま頭を数ミリ動かすだけで、
すべての攻撃を完璧に回避し続けた。
「……ねえ、おじさん。そんな古臭い技術、どこの博物館で拾ってきたの?
それにこの生ぬるい攻撃、いつまでつづくの? 」
サーヤの冷ややかな声が、男の鼓膜のすぐ後ろで響いた。
(バカな!? 私の『加速』に合わせているのではない。……先読みされている!?)
男は四次元ボックスから紫色のオーブを取り出し、本気の殺気を解放した。
それと同時に、サーヤの姿もテラスから消える。
ここからは、マリアたち三次元人には
「空気が爆ぜ、空間が割れる音」しか聞こえない、高次元の死闘だ。
男がナイフを振るえば、サーヤは空中で捻りを加え、カウンターの回し蹴りを放つ。
(……間違いない。こいつ、アタシと同じ『あっち』の人間だ!)
「――見えたっ!」
男が放った最大出力の打撃。
だが、サーヤはそれを紙一重で受け流し、至近距離から「ウインドカッター」を放った。
「ぐふっ……!?」
膝をついた男の足元を、突如として一筋の光の弾丸が正確に射抜いた。
(……狙撃!? どこからだ、スカウターが一切反応しない!)
姿なき狙撃手による超長距離攻撃。
恐怖した男は「高光速バイク」を取り出し、大気圏を突破した。
(振り切ったか……!?)
地球を離脱し、木星の衛星イオの影に隠れようとした男は、
背後に迫る「目に見えない熱源」に気づき、発狂しそうになった。
バイクのセンサーが、正体不明の高速追跡者を捉えているが、
バックミラーには何も映らない。
(なんだ、何が追いかけてくる!? 物理法則を無視したこの加速は……!)
混乱のまま逃げ道を失った男の前に、巨大な捕獲ネットが展開された。
「うわあああかっ!?」
数時間後。月面に設営された秘密のドッグ。
修理中の宇宙船を背に、スパナを持ったロク爺が顔を出した。
そこに、捕縛された冒険者がアカネによって引きずり出される。
「お、おい二代目……。なんだその不細工な捕虜は。
……待て、こいつ。どこかで見た顔だな」
ロク爺が男の顔を覗き込み、目を剥いた。
「二代目! こいつ、先代の弟じゃねーか!」
「……お、お前、ロクなのか?」
「え、このオジサン、アタシの親父の弟なの?」
「それなら……お前がサヤ坊か?」
帝国最強のS級冒険者の正体は、サーヤの父の弟。
つまり彼女の叔父、ギルバートであった。
彼は沈痛な面持ちで語り始めた。
かつて四次元海賊が銀河から追放され、文明が崩壊に追い込まれた裏側には、
帝国すら操る「謎の勢力」の存在があったこと。そして――。
「サヤ坊……先代、お前の父親はまだ生きている。
ヤツらに囚われ、世界の理の果てに幽閉されているんだ」
叔父・ギルバートからもたらされた、衝撃の事実。
帝国とそれを陰で操る謎の勢力……。
「アカネ」
「はい、サーヤ様」
「最短で親父を助け出す計画を作って」
「完了しました。まず、目指すところはルーン聖王国です」
「帝国じゃなくて、ルーンなの? 」
「はい。総合的に判断するとルーンに向かうことが
最短の道となります」
自信満々の笑みで答えるアカネ。
アタシはアカネを通じて、何か大きな目に見えない力に
呼び寄せられている何かを感じていた。
第42話、完結! お疲れ様でした!
学園モノだと思って読んでいたら、いつの間にか木星まで行って捕縛して月面で密談……
この圧倒的なスケールの飛躍こそが本作の醍醐味ですね!
叔父ギルバートの登場により、サーヤの出生の秘密と戦うべき真の敵が見えてきました。
『親父を助け出す計画を作って』というサーヤの迷いのない一言に、
二代目船長としての覚悟を感じて震えました。
物語はルーン聖王国へ。お宝、陰謀、そして家族の再会……。
加速し続けるサーヤたちの航海を、これからも一緒に見守ってください!
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