42.(前編):バケツプリンと、凍りついたランチタイム
魔法科学園のテラス席は、まるで絵画のような静謐さに包まれていた。
白一色のテーブルクロスの上には、色とりどりのフルーツが散りばめられたタルトや、
湯気を立てる最高級の紅茶が並んでいる。
そして何より、その中央に鎮座するのは、サーヤの顔よりも巨大な特製「バケツプリン」であった。
「……これよ。これのために、アタシは今の不自由な生活に耐えてるの」
サーヤは至福の表情でスプーンを握る。
その横では、親友のマリが「サーヤ、マリア様の奢りなんだから、
少しは愛想良くして!」と小声で必死に懇願していた。
その兄ケイも、どこか緊張した面持ちでサラダを口に運んでいる。
マリア・ルーンは、そんな子供たちの様子を優雅に眺めながら、静かに本題を切り出した。
「シェンカーさん。改めて、お願いに来ました。……今年、生徒会にはセシリアさんと
イワサキ君という、一年生の中でも突出した実力を持つ二名が加入しました。
帝国エリートの象徴とも言える彼らの加入は、学園の権力バランスを大きく歪ませてしまうのです」
マリアの瞳には、真実、学園の秩序を憂う「聖女」の光が宿っていた。
「私は今年で卒業します。私が去った後、生徒会の暴走を止められるのは、
同じくS組に在籍し、未知の力を秘めた貴女しかいない。
……風紀委員会に入ってください。もし承諾してくれるなら、
ルーン聖王国の王族として、貴女の将来をすべてを保証しましょう」
だが、サーヤはプリンを飲み込むと、ナプキンで口元を拭って、
吐き捨てるように言った。
「興味ないわ。将来? 卒業後? そんな不確かな先の話より、今このプリンが
美味しいことの方が、アタシの人生にとっては数万倍価値があるわ。
アタシが欲しいのはおカネ(現金)とスイーツ。……権力ごっこがしたいなら、他を当たることね」
完全な拒絶。一瞬、テラスの空気が凍りついた。
しかし、マリアの微笑みは崩れなかった。
それどころか、その瞳にはどこか悲壮な決意が浮かび上がる。
「……残念です。本当に、こんな強引な真似はしたくなかったのだけれど」
マリアが細い指をパチンと鳴らす。
すると、テラスの入り口から、数人の生徒たちが引きずられるように連れてこられた。
マンガ研究部の部長、タカ、そして親友のリズ。彼らは一様に虚空を見つめ、
焦点の合わない瞳でふらふらと歩いている。
その様子を見たサーヤの眉が、ピクリと動いた。
(……何これ。この波長、まさか――)
サーヤはスプーンを置くと、リズの目の前で指を鳴らした。
だが、リズは瞬き一つせず、意思の感じられない呼吸を繰り返すだけだ。
サーヤの表情から余裕が消え、深い嘲りへと変わる。
「精神干渉……?
ちょっとマリア様、あんた何者よ。帝国貴族の最高峰でも、
人の脳の電気信号に直接触れるなんて芸当、逆立ちしたって不可能なはずよね?」
この時代の魔法体系において、他者の精神を弄ぶことは「神の領域」であり、
概念すら確立されていないはずだった。
それを見抜かれたマリアの顔が、驚愕に引き攣る。
「……見抜くなんて。やはり貴女、ただの子供ではないのね」
「アタシの精神を操るつもりなら無駄よ。 諦めなさい。
……あんた、アタシの大切な、とんでもない地雷を踏み抜いたわね」
サーヤの瞳から光が消え、全身から底冷えのする「黒いオーラ」が立ち昇った。
それは、かつて銀河を震撼させた宇宙海賊だけが放つ、絶対的な威圧感。
「覚悟はいいわね、聖女様。アタシが本物の『精神支配』ってやつを教えてあげるわ」
お読みいただきありがとうございます!
マリア様、それだけは言っちゃいけない、やっちゃいけないことのオンパレードでしたね……。
帝国エリートでも不可能なはずの『精神干渉』を使いこなす聖女。
彼女の背後にはどんな秘密があるのか? そして、そんな術を鼻で笑うサーヤの正体とは。
今回、唯一の癒やしだったバケツプリンが遠い過去のようです。
平和なランチタイムを粉砕したサーヤの『黒いオーラ』。
次回は、ついに彼女の隠された力が(一部ですが)解放されます!
果たしてテラス席の運命やいかに!? 次回も応援よろしくお願いします!
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