41.(前編):変態と聖女のパウダー会談。――あるいは、銀河大戦(勘違い)の幕開け
魔法科学園には、身を清めるためだけの贅を尽くした
レストルームが完備されている。
特に帝国貴族や属国の王族だけが入室を許される『パウダールーム』は、
まさに別格の聖域だった。
一歩足を踏み入れれば、最高級のペルシャ絨毯が足音を完璧に吸い込み、
壁の魔導オルゴールからは、精神を安らげる至高のBGMが流れている。
控えるメイドたちは一級の所作を身につけ、
調度品の一つ一つが小国の国家予算に匹敵する。
ここは、選ばれし淑女たちが仮面を脱ぎ、真の休息を得るための場であった。
だが、そんな優雅な静寂を、不穏な独り言が切り裂いた。
「……あぁ、あの子が欲しいわ」
仕切られた個室から漏れたのは、
ルーン聖王国の王女、マリア・ルーンの吐息だった。
彼女は鏡の中の自分を凝視しながら、指先を微かに震わせている。
(あの子……サーヤ・シェンカー。あの幼い容姿に似合わぬ、
数千年の時を経たような純粋な殺意。
そして、マンガ部で披露されたというあの精神破壊図……。
あの子をこのまま野放しにすれば、帝国は、いえ銀河は終わる。
あの子が手に入るなら、私は王女の地位も、この平穏な生活も、すべてを投げ打つわ……!)
マリアにとって、それは生存本能に突き動かされた「恐怖」からの解放。
彼女は今、銀河の守護者としての悲壮な決意を固めていたのだ。
だが、その直後である。隣の個室から、それとは全く対照的な、
熱に浮かされたような声が聞こえてきた。
「あぁ……あの子たちが欲しい。あのマリ様のつぶらな瞳、サーヤ様のちっちゃな手。
そして、あの小動物のような可愛い仕草……っ!
ああ、あの子たちを、ずっと抱きしめていたいわ……!」
声の主は、S組の委員長にして帝国エリートの象徴、セシリア・リーズ。
彼女は今、鏡を直視できないほど上気し、禁断の「欲望」に身を焦がしていた。
「「 …………なに? この変態じみたセリフは? 」」
二人は同時に隣のパウダールームから顔を出し、相手を覗き込もうとした。
そして――バッチリと目が合った。
「「あっ!!」」
音速で個室に顔をひっこめた。
メイドたちが困惑する中、二人は鏡越しに、自分の心臓が早鐘を打つのを感じていた。
(まさか! 清楚な聖女と呼ばれるマリア様が、
あんな『はしたない』幼児愛を!? 心の中は野獣だわ!)
(信じられない! エリートの鑑であるリーズ嬢が、
あの子を最強の生体兵器として囲い込むつもりだなんて!
あれは愛を通り越した、支配の狂気よ!)
セシリアはマリアを「自分以上の変態」だと勘違いし、
マリアはセシリアを「冷酷な帝国主義者」だと勘違いした。
互いに相手を「自分以上に危険な情熱を持ったライバル」
として認定した二人は、それぞれの陣営へと走り出した。
「はぁはぁッ……! マリア様に奪われる前に、
生徒会を動かして二人を独占……いえ、保護しなければ!」
「一個旅団を秘密裏に呼び寄せなさい。
絶対に、あの子を帝国の手に渡してはいけない!」
パウダールームという小さな密室から、銀河を揺るがす巨大なすれ違いが加速し始めた。
ご愛読ありがとうございます!
聖女マリアと委員長セシリア。
学園の誇る二大才女が、パウダールームでまさかの「変態認定」し合う事態に……。
恐怖から解放されたいマリアと、欲望に忠実すぎるセシリア。
この致命的なすれ違いが、なぜか「国家レベル」の軍事衝突へと発展していきます。
本日【19時(予定)】に、最強の解決策(?)が投入される後編を更新します!
現場の生徒会は「ただのカレーパン好きの小娘」だと思っているサーヤ。
その周囲で戦艦が動き出す、シュールすぎる展開をお見逃しなく!
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