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39.エリートたちが奪い合う美少女海賊。――辿り着いた先は「画力ゼロ」のマンガ部でした

 魔法科学園の中枢――。  

そこは、帝国貴族の優雅な香りと、鉄の規律が支配する「生徒会幹部会」の会議室だった。


「以上のことから、今年の「生徒会幹部会」の推薦者はセシリア・ルビー、トウマ・イワサキの二名と決まりました」


「「異議なし!」」



 並み居る高学年のエリートたちが、一斉に頷く。  

だが、その中の一人が、不可解そうに首を傾げた。


「……ちょっと待ってください。あの『競技大会』で、圧倒的な成果を出した例の女の子はどうなのですか?」


「あの子? ああ、マリ・伊集院ですね」


 幹部の一人が、苦々しく吐き捨てる。


「魔力量、スキルの熟練度、実績。どれも申し分ない。ですが、こればかりは『学則』です。

彼女は地球人……つまり、非帝国民だ。軍部とのパイプ役も担う我々生徒会に、あのような『外様』を入れるわけにはいかない」


「そうですか。……惜しい宝を逃しましたね」


 その決定が、後に生徒会を「最悪の事態」へと誘う序曲になるとは、誰も知る由がなかった。



 翌朝、S組の教室前は、いつになく騒がしかった。


「おはようございます! セシリア・ルビーさん、トウマ・イワサキ君。

おめでとうございます、二人は生徒会幹部会への招集が決まりました! 」



 制服の腕に幹部専用の意匠を巻かれ、クラスメイトから歓喜の渦で迎えられるセシリア。

対して、もう一人の主役であるトウマはといえば……。


「……あ、う……おはよう……ございます……」


 そこには、かつての「期待の星」の姿はなかった。  

頬はこけ、目はうつろ、肌は青白く透き通り、立ち姿はもはや八十歳の老人である。  


 サーヤに「エスケープゾーン」として付きまとわれ、昨夜はアカネが秘密裏に放った「洗脳枕」の試作品によって、悪夢のような幻聴を浴び続けた結果であった。


(ごめんね、トウマ。鍵のありかが分かるまで続くと思うけど耐えてね)



 登校してきたサーヤは、トウマの変わり果てた姿に一瞬だけ手を合わせたが、すぐにマリとの会話に切り替えた。


「マリ、おはよう。朝から何のお祭り? 」


「おはよう、サーヤ。……トウマ君がなんだか『解脱』したような顔をしてるけど大丈夫かしら? 」



「あぁ、あれは放っておいて大丈夫よ。

それより、今朝は何があったの? 」


「トウマ君と委員長、生徒会の幹部会に推薦されたんですって」


 マリの説明によれば、幹部会とは学園理事と同等の権力を持つ超エリート集団らしい。  


 だが、サーヤは欠伸を一つ。


「なーんだ。おカネにならないの。ならアタシには無関係ね。

……それより、さっきマリのお兄さんに会ったわよ。

なんだかアタシたちの事、探してたみたい」


 『兄』という言葉を聞いて、顔をときめかせながら教室を出ていくマリ。


 しばらくして戻ってきたマリは、困惑したような、けれど少し期待に満ちた顔をしていた。



「風紀委員会が、私たちを勧誘したいんだって。

あの大会で、S組を圧倒しちゃったでしょ? 

しかも私たちが『帝国貴族じゃない』ことが、風紀委員長のマリア様のお気に召したみたい」


「風紀委員? 何それ。おカネもらえるの?」


「お金は出ないけど、魔法科大学に無試験で推薦されるし、軍部でのキャリアも約束されるわ」


「やっぱりタダ働きじゃない。

お断りよ。アタシはマンガを読むのに忙しいんだから」


 断固拒否するサーヤだったが、マリア委員長の執念は凄まじい。  

どうやら彼女はサーヤの「底知れぬ力」に気づいており、生徒会とのパワーバランスを崩すための『核兵器』としてサーヤを手中に収めたいらしいのだ。


(アカネの予報じゃ、生徒会と風紀委員会のいざこざは、この学園で一番面倒なイベントらしいわ。早めに『定職』を決めて、勧誘をかわさないと)



 こうして、サーヤによる「クラブ活動・強行見学ツアー」が始まった。


 調理クラブ、お菓子クラブ、ティータイム同好会。  

どれも「美味しいもの」と「おカネ」の匂いはしたが、何かが足りない。  


 妥協して昼寝同好会にでも入ろうかと思ったその時、最後に入った教室で、サーヤは「運命の扉」を開いた。



 そこには四、五名の学生が机を突き合わせ、鬼気迫る表情で白い紙に向かっていた。  


 シャカシャカと、ペン先が紙を削る心地よい音。  

サーヤが恐る恐る近づいて覗き込むと……そこにあったのは。


「――っ!? こ、これって……マンガ!?」


 聖遺物。六千五百年前の高度文明の結晶。  

その「偽造」に、この若者たちは挑んでいるというのか。


「あら、サーヤちゃん!」  


 立ち上がったのは、リズだった。

彼女はこの学園に絵画クラブがないため、ここ『マンガ研究部』に身を寄せていたらしい。


「リズ様、この子は?」


「部長。この子は私に、魂を削って絵を描く勇気をくれた、

サーヤ・シェンカーさんです」


「サーヤ・シェンカーよ。よろしく

(……この集団、禁忌であるはずの聖遺物を量産して、闇市場に流そうとしているのね。恐ろしい組織だわ!)」


 部長と呼ばれる三白眼の女子が、不敵に笑う。


「マンガを知っているのね。いい目をしてるわ、おたく。……ただの読者じゃないわね」


「当然よ。アタシはマンガのために生きていると言っても過言ではないわ。……おカネになりますから」



「ふふ、ますますヤルわね。マンガを『おカネ(価値あるもの)』と呼ぶとは、プロの気概を感じるわ。――じゃあ、おたくの力、見せてもらいましょうか」


 部長は、一枚の白紙とガリペンを突きつけた。


「この紙に、おたくが描きたい魂の絵を描きなさい」


「いいのね。本気を出しても」  


サーヤはペンを握った。  


かつて四次元海賊として、ありとあらゆる兵器の設計図をコピペし、物理法則を書き換えてきた黄金の指先。  


(アタシが一番好きな、あの『伝説のヒーロー』を、三次元の住人たちに見せつけてやるわ!)


 ペンが火を吹くような勢いで走り、数分後。 「……できたわ」


 サーヤがドヤ顔で掲げたその紙を見て、部室内は、四次元のブラックホールが直撃したかのような沈黙に包まれた。


 そこに描かれていたのは――。  



 鳥なのか、牛なのか、あるいは深淵から這い出た末期のクリーチャーなのか。  

不気味に歪んだ線と、理解を拒む絶望的な造形。    


リズは、その絵から発せられる「負のエネルギー」に視神経が悲鳴を上げ、目を回し始めた。


「あ、圧倒的……。次元が……次元が違いすぎて、私の脳細胞では解析できません……!」


「ほほう、言葉を失うほど感動したみたいね。えへっ、アタシ、絵には自信があるのよね!」


 自信満々に胸を張るサーヤ。  


その背後で、部長が「……不気味なほどの、天才、ね」と、震える声で呟いた。  

それは畏怖か、それとも純粋な「見てはいけないもの」への拒絶か。


 最強の四次元海賊。  

彼女の唯一にして最大の弱点――それは、常人の理解を遥か彼方に置き去りにした、


「壊滅的な芸術センス」であった。

ご愛読ありがとうございます!


生徒会や風紀委員といった学園のエリートたちから、

まるで「核兵器」のような扱いを受けて勧誘されるサーヤ。

本人は「おカネにならない」と鼻で笑っていますが、周囲の期待(と勘違い)は止まりません。


果たしてサーヤは、この画力でマンガクラブに入部できるのか!?

そして、トウマ君の若さは戻るのか……。


面白いと思ってくださったら、

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サーヤの画力が1ミリくらい上がるかもしれません!

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