3. [4次元] 大花火大会 その② 帝国側から見た景色
………アタシがサバト星系で花火を打ち上げる6時間前………
帝国軍の緊急ネットワークに、一通のメッセージが配信された。
【帝国軍本部のA001が海賊船に誘拐された】
続いて10分後、更に信じられない続報がもたらされる。
【追跡したパトロール艦500隻が全て消息不明】
2,000 年以上前から、この天の川銀河は (シルバーネオ帝国)が8割の星域を支配している。
つまり、この銀河で帝国にかなう戦力はいない。
当初この事件は、『帝国支配に恨みを持つ 2 割の小国の犯行か?』と推測されたが、
仮に小国の仕業としてパトロール艦を全滅させるのは無理と判断された。
次に考えられたのは、軍内部による犯行だ。
仮に軍内部の犯行だとすると、帝国内の政争が絡んでいるので深刻だ。
軍部だけで勝手に動くことはできない。
そのため事件に当たった作戦参謀本部は続報を待つこととした。
そして午後、軍本部にもたらされた情報は、それらよりも更に深刻なモノであった。
【パトロール艦は四次元海域で襲われたらしい】
参謀本部長のノア大佐は、送信元が [4次元] からだと知らされ、顔色を変えた。
更にメッセージを読み上げた瞬間、沈着冷静な彼には珍しく、唸り声をあげてしまった。
「「 まさか、 [4次元] 海賊が絡んでいるとは! 」」
「大佐、何かご心配でも?
宇宙海賊などパトロール艦が2隻もあれば、十分に撃ち落とせますが………」
「あぁ、普通の海賊ならな」
大佐はそう言うとコップの水を一気に飲み干した。
「[4次元]海賊……奴らは我々とは『生物としての次元』が違うのだよ」
大佐の手元で、コップの水が小さく波打っていた。30年前の悪夢が蘇る。
「あそこでは、時間は止まり、因果律すらねじ曲がる。
彼らにとって、我々の最新戦艦は**止まった標的(スチル写真)**も同然なのだ。
撃たれたことに気づく前に、存在そのものを『消去』される……」
「つまり、戦いづらいと? 」
「そうだ。私も若い頃、奴らと戦ったことがある。
私の艦隊は 9 割の損失で敗れてしまった」
「て、て、帝国軍のエースである大佐がですか? 」
「もう、30 年も前の事だがな。
[4次元] 海賊にはパートタイムで [4次元] に入る奴らと、
フルタイムで [4次元] に居続ける奴らがいる。
後者の場合は、戦艦 1,000 隻では足りんかもしれない」
「大佐がおっしゃるのでしたら、そうかもしれません。
しかし、そんな奴らが存在するのでしょうか?
30 年前ですから、隠退しているかもしれませんし」
「きみ! [4次元] では時間の影響を受けないのだよ。
つまり、30 年前の連中がそのままいる可能性が高いのだ。
犯人がそいつらだとは思いたくないが、念のため戦力を最大限かき集めておいてくれ」
「はい。即時対応できるのは戦艦 3,000 隻です。
その後 8,000 隻を海域に回せます」
「わかった、そうしたまえ」
「了解! 」
◇ ◇ ◇
参謀本部から派遣された帝国艦隊は、旗艦アデルハイドのもと一斉射撃体勢に入っていた。
「時代遅れのボロ海賊船 1 隻に戦艦が 3,000 隻も必要か? 」
その場にいた士官の誰もが同じことを思った。
しかし、参謀本部直々の命令である。異論を口にするものはいない。
艦隊を指揮するゼル少将は、部下たちの不穏な空気を察していた。
そこで彼らの鬱憤を晴らすべく、ギリギリゲーム作戦を全軍に伝えた。
どの艦が、レーザーで敵艦の主翼をかすめることができるか?
敵艦自体を吹き飛ばしたら負け。
各艦からワイン1000本を供出させて、1位が総取り。
敵艦を破壊したら、全館にワイン1000本ずつを支払う、というルールだ。
3,000の艦が一斉に海賊船にレーザーを射撃した。
ビームが船をかすめそうになる度に、沸き上がる歓声。
ゼル少将は、歓声を聞きながらワイングラスを傾けた。
ワイングラスの中で、芳醇な赤が揺れていた。
だが次の瞬間、世界からすべての音が奪われた。
爆発音すら聞こえない。
モニターに映る3,000隻の光点は、まるで見えない消しゴムで消されたかのように、
一瞬で宇宙のキャンバスから「削除」されたのだ。
旗艦アデルハイドの艦橋を支配したのは、死のような静寂。
司令官たちの耳に届くのは、自分の心臓の早鐘と、
逃げ遅れた空間がキシキシと軋む不気味な音だけだった。
「な、なにがおこったのだ? 」
旗艦アデルハイドの司令部は静まり返り、目の前の状況を受け入れられないでいる。
トンデモない兵器が使われたのは確実だ。
ただ、何が起こったのか?分からない。
全ての将校は恐怖のため完全に固まり、静寂だけが艦橋を支配していた。
◇ ◇ ◇
アタシはひと仕事を終えて艦長席からキャリーを見た。
キャリーは次々と爆発していく光の祭典にうっとりしている。
(これで敵の動きが1分間止まるわね)
アタシは飲みかけのミルクココアに口をつけた。
「「 たーまやーーーー! 」
ユーリが嬉しそうに叫んだ。
その瞬間、エリカが操縦桿をグイっと引いて、景色が「ぐにゃ」っと、曲がった。
いつものことだが、
艦のスピードが光速を超えると、目の前の景色はグニャっと曲がって見える。
特にエリカの運転は、敵のAIが補足できない不規則な動きをするために、グニャグニャを超えた
エグイ世界が目の前に広がる。
アタシのように慣れていても、3 日間船酔いが収まらない。
「おーい、2代目!顔色が悪いぞー、大丈夫かー? 」
くっ、、、くやしい。エリカが生意気な顔でアタシを見下ろしている。
「まだまだ!これぐらいは全然平気よ」
「じゃあ、本気を出すぜ」
エリカがニヤリと笑った瞬間、艦内にかかる慣性中和装置が悲鳴を上げた。
視界がグニャリと歪み、色彩がプリズムのように分解される。
景色が引き延ばされ、光が糸のように流れる超高速の世界。
脳が頭蓋骨の中でシェイクされるような衝撃に、サーヤは奥歯を噛み締める。
「(……これ、30億ギラの前に、アタシの魂が体からおさらばしちゃうわ……! )」
( みんなは大丈夫かしら? )
キャリーは、、、静かに目を閉じている。
間違いなく気を失っているわね。
ユーリは、、、こちらは撃沈。
ロク爺は、、、目を閉じている。
まさか、死んでいないわよね!?
(おっと、ヤバい・・・。アタシも周りを見ていたら気持ち悪くなってきた)
「・・・・・・・・」
「ついたぜ! 」
エリカの声と共に、荒れ狂っていた次元の歪みが収束した。
目の前に横たわるのは、無数のクレーターに刻まれた小惑星。
その深淵にある秘密ドッグが、牙を剥いた獣のようなアタシたちの船を静かに迎え入れる。
3,000隻の追っ手を消滅させた代償は、空っぽのエネルギー残量と、
死んだように転がっている仲間たちだ。
「……さて、ここからが本番よ」
椅子から滑り落ちたユーリの頭を軽く撫でながら、
アタシはモニターの向こうの暗黒を見つめた。
30億ギラを掴むまで、アタシたちの航海は終わらない。
次回からは、物語がさらに大きく動き出します!
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