35.魔法競技大会 ~天才剣士の憂鬱~
長かった冬休みも終わり、魔法科学園は新学期を迎えた。
だが、いつもの気怠い空気はない。学園全体がどこか浮足立っている。
一ヶ月後に開催される『魔法競技大会』――帝国上層部や属国の王族が視察に訪れる、
文字通りの「青田買い品評会」が控えているからだ。
当然、帝国貴族の血を引く学生には有利な条件が与えられ、
アタシたちC組は「エリートを引き立てるための引き立て役」に過ぎない。
「……大会で活躍したら軍にスカウトされるの?
アタシはいらないわ。静かにマンガを読んでいた方がマシよ」
C組の教室でアタシはマリに不平を漏らした。
新学期からアタシとマリ、メディは、そろってC組に編入されている。
一方、あのイワサキ博士の末裔であるトウマは、
帝国貴族扱いとして、引き続き選ばれしS組に在籍している。
「サーヤ、そんなこと言わないで!
ここで活躍すればお父様への風当たりも変わるし、
帝国軍に入ればサーヤの大好きなおカネも沢山稼げるのよ! 」
マリはアタシの思考パターンを完全に把握しているようだ。
確かに「おカネを稼げる」その言葉には弱い。
そんな目を輝かせるマリを横目に、
アタシはロク爺が開発した耳元の超小型通信機でアカネに念話を送る。
(あー、あー、チェックメイト、キングツー。
アカネ、準備は? 運営側、かなり露骨に帝国貴族を勝たせようと動くはずよ。
絶対にマリの邪魔をさせるんじゃないわよ、オーバー)
(御意。運営委員会のサーバーに侵入を完了。
審判の買収、標的の座標偽装、マリ様の魔力回路への妨害……すべて可視化しました。
マリ様の本来の能力が『正当』に発揮されるよう、
不純物を一つずつ丁寧に『消去』させていただきます、オーバー)
◇
大会当日。会場は超満員となった。
最初の種目は、百キロ先の標的に魔法を当てる【ロングシュート】だ。
マリの番が回ってくると、観客席の帝国貴族から「落ちこぼれが何をする」と嘲笑が漏れる。
だが、アタシの視界には、運営側がこっそりマリの標的周辺に展開した、
光を屈折させる『歪曲魔場』が見えていた。
(フィールド、解析完了。位相を反転させます。……今です、マリ様)
アカネの操作により、卑劣な妨害魔法は逆に
「マリの光弾を標的に吸い寄せる増幅回路」へと書き換えられた。
「えいっ! 」
マリが放った光弾は、妨害を吸収して白銀の閃光へと変貌。
大気を引き裂き、防護壁ごと標的のど真ん中を貫通した。
「な、なんだと!? フィールドが逆にブーストになっただと!? 」
コントロールルームで絶叫する運営を尻目に、
マリは「やったわ! アタシ、今日すっごく調子いい!」とはしゃいでいる。
その純粋な笑顔の裏で、帝国の不正は四次元技術によって粉砕されていた。
続いて、大会の目玉である【剣技大会】が始まった。
アタシは出場を辞退したが、S組代表としてあのトウマが舞台に上がった。
トウマ・イワサキ。
彼は紛れもない天才剣士だが、その性格はあまりに気が弱く、
そして「相手を傷つける」ことを極端に恐れるほど優しすぎた。
一回戦。対戦相手はS組きっての暴れん坊だ。
「消えろ、もやし野郎! 」
振り下ろされた大剣に対し、トウマは「ひっ、来ないで!」と
情けない声を上げて、派手に後ろに転倒した。観客席から失笑が漏れる。
だが、その転び方が異常だった。
トウマが投げ出した杖の先端が、計算されたかのように地面の小石を弾き飛ばし、
それが相手の軸足に転がった。
バランスを崩した相手ののど元に、トウマの杖が「偶然」
吸い込まれるように当たり、呼吸を奪ったのだ。
「……あ、あの。ごめんなさい、大丈夫ですか……? 」
相手が悶絶する中、トウマは半べそで謝り続けている。
はた目には、ただの「奇跡的なラッキー」だ。
しかし、観客席の帝国将軍たちは総立ちになっていた。
「……今のを見たか。転倒の角度、杖の軌道。相手を傷つけぬよう、
あえて『無様な偶然』を装って無力化している。
……超高度な見切りだ。あれこそ、戦場を知り尽くした者の風格! 」
「ああ。不気味なほどの天才だな」
トウマの「ラッキー」は続く。突進を避けようとして躓き、
その反動で振った肘が相手の鳩尾に吸い込まれ、
S組のエリートたちが次々と崩れ落ちる。
「早く帰りたい……」
トウマは泣きそうな顔で優勝旗を受け取っていた。
ご愛読ありがとうございます!
魔法競技大会、終わってみればトウマ君の(精神的な意味での)大勝利でした。
派手に転倒しただけで「戦場を知り尽くした風格」と勘違いされるトウマ君……。
「本人ガクブル、周囲は戦慄」という絶妙な温度差、楽しんでいただけていれば幸いです。
トウマ君、早く帰れるといいですね(笑)。
次回は明日21時10分ごろに更新予定です。
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