34.「殺す気満々の剣、指二本で十分よ」――守銭奴少女の執念、伝説の家系を追い詰める
「アカネ、あの青年がイワサキ博士の子孫だとしたら、
学園の名簿に名前があるはずよ。……今すぐ、徹底的に洗って」
アタシたちは、月面のクレーター裏に隠した修理用ドックにいた。
アカネが魔法科学園のメインサーバーに侵入するのを待つ間、
アタシは形容しがたい達成感に包まれていた。
(……やっと、ここまで来た)
三次元なんて不便な世界に降り立ち、窮屈な制服を着て、
慣れない「学園生活」なんていう茶番に付き合ってきた。
すべてはこの時のためだ。6500年という果てしない時間を旅し、
放っておけば勝手に髪の毛が伸びるような野蛮な三次元で、超苦手な学校にまで通った。
それもこれも、ウルティマウェポン、そして聖遺物「マンガ」を手に入れるため。
すべてが今、この瞬間に収束していく。
「……ありました。トウマ・イワサキ。高等部1年S組所属です」
モニターに映し出された青年の顔を見た瞬間、胸の奥で何かが熱く弾けた。
「……見つけた」
絞り出すような声が出た。
それは、獲物を追い詰めた海賊の歓喜か、あるいは遠い家族を見つけたような安堵か。
自分でもよく分からなかったけれど、今までの苦労がすべて報われたような、
圧倒的な達成感がアタシを包み込んだ。
「へー、なんか病弱そうで冴えないツラ。……でも、博士に似てるわね」
「二代目は、彼と会った時に何も感じなかったのですか?」
「アタシは人の顔なんて、紙幣の肖像画くらいしか覚えないわよ。
……でもね、アカネ。あいつを見た瞬間、魂が『こいつだ』って叫んだのよ」
<本当かよ。またいつもの帳尻合わせじゃないのか>
その場にいたアカネとキャリー、そしてロク爺の目がそう言っている。
ユーリがいたら、即座に声に出してアタシをバカにしていただろう。
アカネの報告によると、トウマは月面第2都市『ルナティ』に向かったらしい。
そこには博士の遺産である『マスターシステム』が眠っている。
その頃、トウマはルナティの最深部で、
「神」であるマスターシステムからの指示を仰いでいた。
年に二度、博士の子孫たちは代々、こうしてお告げを受け続けているのだ。
『トウマよ……引き続き、帝国の前でスキルを見せるな。
そして未来人の子孫であることは秘密とせよ……』
いつものように二時間ばかりの『お告げの時間』が終わると、
トウマは月面のハンバーガー屋で昼食を摂っていた。
ここのハンバーガーは、タレの配分と肉の焼き加減が絶妙で、月面一番の人気店だ。
トウマは子供の頃から、月に来るたびこの店に寄っている。
そこに、アタシが「やっほー」と現れた。
アタシの顔は、自分でも制御できないほど「獲物を見つけた喜悦」に満ちていたかもしれない。
「……ッ!? き、君はシャトルの……!」
「海賊の時はありがと。お礼にポテト代くらい持ってあげるわよ」
何の脈絡もなく現れたアタシに、トウマの顔が恐怖で土気色になった。
「(帝国に正体がバレた……美少女型暗殺者か!?)」
彼はハンバーガーを喉に詰まらせながら店を飛び出し、全力で逃げ始めた。
「ちょっと、待ちなさいよ! 話を聞きなさいってば!」
人影のない路地まで追い詰められたトウマは、観念したように杖を構えた。
杖が白銀の大剣に変わる。
「……これ以上、ボクを追うなら容赦しない!」
瞬歩でアタシの背後に回り、白銀の刃が切り込んできた。
太刀筋に迷いはない。アタシを瞬殺する気満々の剣だ。
だが、その剣は一度見ている。
アタシは微笑みながら、その剣先を人差し指と親指の二本で、パチンとつまんで止めた。
「うわ、いきなり殺す気?」
「……指で俺の剣を防ぐだと? 嘘だ、ボクの剣は、一度として……!」
焦ったトウマは、今度は風と火、光属性をミックスし、
炎の竜巻の中に稲妻を加えて放ってきた。
アタシは掌を彼に向け、光の壁を作り出す。
ついでに50回ほどコピペを繰り返して厚みを持たせた。
ドォォォォン!
と激しい衝撃。
だが、トウマの攻撃は13枚目の壁で完全に止まった。
「13枚目まで破るなんて、すごいじゃない」
絶望に震える少年に、アタシは余裕の笑みを向ける。
絶対的な自信のあった剣技を鼻歌混じりに防がれ、トウマは底知れぬ恐怖に呑まれていた。
「俺が何をしたって言うんだ。殺すなら殺せばいいだろ!」
「とにかく落ち着きなさいよ。アタシはあんたの祖先の……関係者。
今日はあんたが『本物』か確かめたかっただけよ。……会えて嬉しいわ、トウマ君」
徐々に、人が集まり始めている。
人目を避けるためアタシは混乱するトウマを置き去りにして、その場を離れた。
ドックに戻ると、アカネとキャリーが待っていた。
「キャリーの(千里眼)を用いて、博士のマスターシステムの解析に成功しました」
彼女たちの報告によると、
イワサキ博士と共にこの時代へやってきた三人の仲間は、
地位と名誉を求めて大国『ルーン聖王国』に向かったという。
その際、博士の発明品の殆どが持ち去られた。
つまり、将来にわたって帝国を凌駕するルーンの技術力は、
すべて博士の知識が土台だったのだ。
「それはそうと、エリカにキャリー!
アンタたち、アタシが慣れない勉強を頑張っている間、
随分楽しそうにしてたみたいじゃない?」
「あ、そんなことはないぜ。
アタイは裏社会の情報を懸命に集めているんだぜ(居酒屋に入り浸りながら)」
「私は来るべき図書館探検に向けて、
サーチに余念がありません(推しの古代本を漁りながら)」
……嘘は言っていないのが、この連中の恐ろしいところだ。
アタシの知らないところで、ろくでもない「遊び」を広げているに違いない。
「ま、いいわ。ようやくウルティマウェポンへの道が拓けたんだもの。
アタシはアタシで、この冬休みの続き――伝説の続きを、最高に楽しませてもらうわよ」
アタシは月面の人工空を眺め、不敵に笑った。
博士の遺産、歴史の歪み、そして謎の少年。
6500年の執念がいま、この停滞した三次元の世界を、根底からひっくり返そうとしていた。
ご愛読ありがとうございます! ついに見つけた博士の末裔、トウマ君。
感動の再会になるかと思いきや、全力の奥義を指二本でつまみ、
防御壁を50枚コピペして防ぐという、四次元海賊流の「えげつない挨拶」になってしまいました。
トウマ君、完全にサーヤを**「命を狙いに来た美少女暗殺者」**だと
勘違いして怯えてますが……大丈夫、サーヤは(たぶん)味方です。
次回、冬休みが明けて舞台は再び学園へ。
いよいよ**「魔法競技大会」**が開幕します!
ただで済むわけがありませんよね。
面白いと思ってくださったら、
ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】をポチッと**して応援いただけると嬉しいです!」




