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33.「アタシ、十分可愛いと思うんだけど」海賊に売られなかった少女の憤怒

 冬休み後半。アタシたちは久しぶりに自分たちの船の様子を見に行くことにした。


 地球から月までは定期便のシャトルが出ている。

だが、先日のプレアデス軍との戦闘による混乱で、便数は通常の半分。


 アタシとアカネは、伯爵からむしり取った……もとい、

正当な慰謝料の分け前を使って、優雅に一等船室を予約した。


 実はマリからも「これ、お礼よ。パーッと使って!」とかなりの額を

握らされていたのだが、それを隠していたアタシに、

アカネは「主人の金銭管理に透明性がありません」と、しばらくお怒りモードだった。



「一等船室は快適ね。さて、ディナータイムよ、アカネ」


「……はい。ですがサーヤ様、デザートの追加は『隠し金』から引かせていただきます」


 大きなレストランで、豪華な食事を楽しんでいたその時だった。



「動くな! 全員、身ぐるみを剥がされるのが嫌なら大人しくしろ! 」


 下品な怒鳴り声と共に、武装した集団がなだれ込んできた。

船の識別信号は帝国軍のものだったから、アカネの探知も少し遅れたらしい。


 彼らはプレアデスとの戦争で敗走し、責任を負わされて軍を追われた残党――。

自らを「宇宙海賊」と名乗る野党の群れだった。


 アタシはフォークを置いて、彼らをじろじろと眺めた。

古代の海賊を真似たような、もっさりしたトゲトゲの肩当て。


 センスの欠片もない髑髏のマーク。

そして何より、無抵抗な乗客を傷つけるその手口。



「ちょっと……なによ、あのセンスの欠片もない連中」


「……不快ですね。海賊を名乗るなら、せめて美学というものが必要かと」


「そうよ。海賊ってのは、利権や軍資金をスマートに奪うものでしょ。

堅気の宝石や少女を狙うなんて、ただのコソ泥じゃない。本物の宇宙海賊に謝りなさいよ」



 アタシの怒りの沸点が、昨日に引き続き急上昇する。

パトロール艦が来るまであと三十分。

それまで、アタシたちの正体がバレない程度に遊んであげましょうか。


 海賊たちは、スイートルームの客をレストランの中央に引きずり出してきた。


 その中に、一人の青年が混じっていた。

青白く、病弱そうな顔立ち。杖を突き、立っているのもやっとという様子で、

帝国の病院へ転院する途中といった風情だ。


 海賊は青年を蹴り飛ばし、宝石を奪うと、

次に「売り物」になる少女たちの選別を始めた。


 アカネは美しいが、この時代の海賊の基準では、

十五歳を過ぎた少女は「高値」がつかないらしい。


(あ、アタシが狙われるわ。だってアタシ、最高に可愛いし、美しいもの)



 アタシはわざとらしく震えるふりをして、上目使いで彼らが来るのを待った。

……が。 海賊たちは、アタシを完全にスルーして次の少女へ向かった。


「……ちょっと、海賊さん。アタシはいいの? アタシ、十分可愛いと思うんだけど」


「あぁん? このガキ、頭沸いてるのか。年齢はいいが、……顔がな、好みに合わねえ」


 その瞬間、言葉よりも早くアタシの指先が動いた。

物理法則の書き換え。


 アタシの目の前にいた海賊が、砲弾のような速度で背後の壁に激突し、めり込んだ。



「あれー? 突然、ブレーキでも踏んだのかしら? 」


「おい! 何が起きた!? 」


 仲間たちが集まってくる。

アタシは可哀想な少女の顔(自称)を作って言った。


「可愛いアタシを連れ去ろうとして、急にこのおじちゃん、壁に追突したんです」


「……このガキ、不気味だが……まあいい、高く売ってやる! 来い! 」


「はい! でも、あれーーー、やめてーーー(棒)」


 アタシは少女たちの集められたエリアに合流した。

アカネが「……サーヤ様。今、わざとらしくプルプル震えてませんでしたか?」と

冷たい視線を送ってくるが、無視だ。



 そこへ、ふらふらと杖を突いたあの青年が近づいてきた。


「なんだ、また殴られたいのか? 」


「……その子たちを、ここに置いていきなさい」


 青年が静かに告げる。

海賊たちが一斉に飛びかかった、その時。 青年の杖が銀色の閃光を放った。


 ――瞬き、二回。 気がつけば、飛びかかった数人の海賊が、

糸の切れた人形のように床に転がっていた。


「ほう……」


 アタシは少しだけ目を見開いた。青年の動きは、地球人のものではない。

海賊のボスが、魔法の杖を「火属性の大剣」に変化させて現れた。


「俺たち前線部隊を相手に、何秒立っていられるかな! 」


 無数に飛び散る一千度の火の刃。

だが、青年は杖を白銀の剣に変えると、まるで見えているかのように全ての刃を切り落とした。



「ふっ……」


 青年が短く息を吐くと、その姿が消えた。

瞬歩。 次の瞬間、ボスの大剣は根元から真っ二つにへし折られていた。


「ば、化け物か、貴様……! 」


 ボスは腰を抜かし、這々の体で逃げ出した。

それを見た乗客たちが、一斉に反撃の魔法を放ち始める。


 青年は、何事もなかったかのように杖を突き、自分の部屋へと戻っていった。



「アカネ、見た? 」


「はい。見事な剣筋でした。……あれは帝国の、しかも古い『海賊の流儀』に近い技です」


「あいつ、海賊だったのかしらね。病人のふりをして姿を隠してるなんて、アタシと似たようなもんね」



 逃げ出した海賊たちの船は、

既にアカネがシステムを乗っ取っており、一歩も動けなかった。


 ほどなくして到着したパトロール艦によって、彼らは一網打尽にされた。

帝国軍は、これがただの「偶然のシステム障害」だと信じて疑わなかった。


 月に到着し、シャトルを降りたアタシたちを出迎えてくれたのは、ロク爺だった。


 横にはエリカとキャリーが、『歓迎 サーヤご一行さま』と書かれた、

これまたセンスのない横断幕を掲げている。


「お嬢様、おかえりなさいませ。……ふむ、今、一人の青年とすれ違いましたな」


ロク爺が、雑踏の中に消えていくあの青年の背中を見つめていた。


「なんだか、懐かしい顔じゃった。若い頃のイワサキにそっくりな青年がな」


「……そのまさか、かもしれないわよ、ロク爺」


 アタシは、遠ざかる青年の背中を思い出しながら、不敵に口角を上げた。


 本物の海賊と、伝説の天才の影。

どうやら、この冬休みはまだまだ退屈せずに済みそうだ。

 ご愛読ありがとうございます! ユーリ視点の閑話、いかがでしたでしょうか。


 アフリカで悪党を粉砕し、ユーリが手に入れた**「相手の能力を数値化するスカウター」**。これが今後の物語でどれほど残酷な(主にユーリの精神的な)役割を果たすのか、ぜひご期待ください。


 さて、次話から物語は再びサーヤ視点へ! 冬休み、月へのシャトル旅を楽しむサーヤとアカネでしたが……そこで出会ったのは、「海賊の美学」を汚す最低なコソ泥たち。 そして、人混みの中に消えていく**「杖を突いた病弱そうな青年」**。


 ロク爺が「イワサキに似ている」と評したその少年の正体とは……?

 

 本物の海賊サーヤと、伝説の天才トウマの影が、ついに月面で交錯します! 面白いと思ってくださったら、ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】やブックマーク**で応援をお願いします。

皆さんの応援が、作者の執筆バフ(魔力増幅)になります!

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