30.『強者が正義』って 当り前じゃないの
「不敬な地球人め! まとめてタローの餌食にしてくれる! 」
噴水に叩き込まれた伯爵ガキの絶叫に呼応するように、
街中に地を這うような重低音が響いた。
祭りの会場はあっという間に、伯爵家が誇る
最新鋭の魔導戦車5台に囲まれた。
銃を構えた数百名の重装歩兵たちの姿も見える。
「面白くなってきたわね。
マリ、空にもお客さんがおいでよ。そっちは任せたわ! 」
「ええ! お父様の痛みを3倍にしてアイツにぶち込んでやる! 」
マリが杖を天に掲げる。
直後、杖の先端から無数の魔力弾が飛び出し、黒竜・タローの巨体を貫いた。
タローは羽根を翻し、必死に逃げるが弾道から逃れることができない。
遂には悲鳴を上げて遥か彼方へと吹き飛んでいった。
(実際には、マリの弾道に合わせてアカネが不可視の増幅術式を重ね、
威力を十倍に跳ね上げていたのだが、マリは自分の覚醒だと思い込んでいる)
「な、なんだあの威力は……!? だが、とにかく逃がすな! 撃てッ! 」
士官の号令。
しかし、戦車の砲塔が火を吹く直前、アタシは適当に拾った石ころを投げつけた。
「えいっ、と! 」
……ドゴォォォォン!!
石が当たった瞬間、一台目の戦車が内部から爆発するようにひしゃげ、
その衝撃で残りの四台も次々と横転。
まるでドミノ倒しのようにスクラップへと変わってしまった。
「なっ……!? い、たかが石ころで最新鋭の魔導戦車が全滅だと!? 」
「あ、あら……? アタシ、火事場の馬鹿力かしら。
マリの領地の石って、意外と硬いのね(棒)」
驚愕する士官たちを尻目に、エリカとキャリーが背後で
「うひひ、今のコピペ上書き、完璧ね」
「あの戦車、分子結合を無視して破壊したわよ。サーヤもえげつないわね」
と、マリに見えない速度でスクラップを掃除していく。
彼女たちは四次元ゴミ箱を使って、戦車を片っ端から四次元へ飛ばした。
これはアタシ達の時代では主婦でも使うアイテムだが、
この時代の人間は知る由もないハイテクノロジーだ。
次々と幻のように消え去る戦車たち。
その場にいた兵士、マリも、何が起こっているのか?分からない。
「さて、親玉にお礼参りをするけど、マリも来る? 」
「え、ええ、行くわ。でも兵士たちがいたはずだけど・・・・」
歩兵隊は、戦車と同時にアカネが瞬殺していた。
四次元ゴミ箱を使ったのか街は、すっかり綺麗になっている。
「伊集院様、兵士たちは黒竜が倒されたのを見て、
我先に離散していきました」
戦車も綺麗になっているところをみると、
そちらもアカネが掃除してくれたのだろう。
アタシたち3人は、アカネが運転する魔導トラックに乗って、
伯爵が滞在する別荘へと向かった。
荷台には、伯爵ガキどもと近衛師団長を乗せている。
別荘はマリの実家の倍以上あり、入口から別荘まで30分を要した。
やがて玄関につくと、執事に混ざって用心棒の冒険者が出て来た。
「あぁ、お坊ちゃま。これ、旦那様にお知らせしろ」
執事がメイドたちに主人への伝言を頼んだ。
そして、自らは武器を持ち、用心棒と一緒にこちらに歩いてきた。
「先方が執事たちならば、こちらもメイドの私がお相手するのが
礼儀かと存じます。よろしいでしょうか?」
「いいわよ、好きにしなさい」
「御意」
そういうとアカネはトラックを降りて、相手に向かって静かに頭を下げた。
「ほう、礼儀のよろしい方が出てきましたね。
それでは、ボーアさん、私は前衛を務めますのでサポートをお願いします」
「わかったぜ、セバスチャンさん。どうせ地球人だ。
どちらが前衛をやっても同じことだぜ」
「作戦は決まりましたか?それではどうぞおいでください」
終始穏やかな表情で会話を続けるアカネに、不気味さを感じたのか、
執事・セバスチャンは慎重に構えた。
彼は元帝国軍レンジャー部隊のエリートだ。
セバスチャンの姿が消えたかと思うと、次の瞬間アカネの右後方に現れた。
手にしたアーミーナイフが光り、攻撃を仕掛ける。
セバスの魔法がナイフを蛇のようにしならせ、アカネにまとわりついてきた。
同時にボーアのファイアーインフェルノがあたり一帯を焼き尽くす。
<しょせん、地球人だ、二重、三重の魔法攻撃など見たことがあるまい>
<< カチン >>
セバスは妙な音と刃先の違和感を感じた。
インフェルノの炎が収まると
指で挟むようにナイフを止めているアカネの姿があった。
「ここまでですね。
この『主人への愛情対決』は、私が勝たせていただきました」
( いつの間に戦闘にそんなタイトルがついたんだ? )
< バタバタ >
アタシが心の中でアカネに突っ込みを入れるよりも早く、
相手の二人は地面に横たわっていた。
アタシは、腰を抜かして震える戦車部隊長の前に歩み寄った。
「さて……『強者が正義』、よね?
だったら、その理屈をあんたのその安いプライドごと、叩き潰してあげるわ」
アタシは冷たい笑みを浮かべ、
隊長の鼻先に「プレアデス」という単語をわざとらしく囁いた。
「わたくしたちは、プレアデス連邦の特務官――なんてね。
ま、あんたたちが今一番怒らせちゃいけない相手、ってことよ。
この不祥事、本国に報告されたくなければ……ここで『誠意』を見せなさい」
「ひっ、ひいいいいい! お、お支払いします! 何でも、お望みのままに! 」
隊長が泡を吹いて卒倒しかけたところで、
アタシは待ってましたとばかりに、使い古した紙に書いた「請求明細書」を取り出した。
差し出された巨大な金貨袋。
アタシはそれを手にとって、重さを確かめると、
これ以上ないほど満面の笑みを浮かべた。
「まいど。これで全部許してあげるわ」
……その瞬間、周囲の空気が一気に冷めた。
軍を人知れずスクラップにして戻ってきたエリカとキャリー。
そして冷静に傍観していたアカネ。
彼女たちの目は、明らかに「ドン引き」していた。
「(……ねえ、あんなに格好良く石を投げておいて、結局カネなのね……)」
「(うひひ、確信犯よ。石を投げる軌道すら、
金貨を巻き上げやすい立ち位置で計算してたわね)」
「(……サーヤ様。主人の金への執着が、わたくしの演算能力を超えています)」
一方、上空数万キロ――。
異変を察知し、地球へ急行していた帝国の巡洋艦三隻が、突如として音もなく消滅した。
『――ふむ、お嬢様の冬休みを邪魔する羽虫めが。……アカネ、処理は終わったぞ』
ロク爺による無慈悲な掃除。
そんな裏の事情も、アタシたちの正体も、マリは何も知らない。
彼女はただ、自分の魔力が奇跡的に高まったことと、
サーヤが投げた石が「たまたま弱点に当たった」幸運に、少し誇らしげに立っていた。
「さあ、マリ。お父様にこの金貨を届けてあげなさい。
……『地球人だって、やればできる』って、最高の笑顔でね! 」
「……サーヤ、ありがとう。でも、その金貨……。
あなた、本当は何者なの? 今の石ころ、いくらなんでも……」
一瞬、マリの目が鋭くなった。アタシは鼻歌混じりに答える。
「ただのマンガ好きの、ちょっと肩が強い
……あ、あと、ちょっぴりカネに目がないだけの女子高生よ! 」
あまりに俗っぽい答えに、マリは呆れたように笑い出した。
アタシの秘密は、まだ守られたままだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
『強者が正義』。その言葉をそっくりそのまま、石ころ(物理)と請求書で叩き返してやりました。 最後は結局カネかよ! と思った皆様……正解です。それがサーヤ様です。
一方、裏で戦車をゴミ箱に捨てていたクルーたちや、巡洋艦を人知れず消したロク爺。 マリにはまだナイショですが、四次元海賊団のチームプレー(?)で伊集院家の誇りは守られました。
さて、冬休み編もいよいよ新展開へ。 あのイワサキ博士の子孫、トウマがついに物語に合流します……!
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