29.恨みの『利息』キッチリいただきます
マリの父親が帰宅したのは、深夜だった。
しかし、玄関に現れたその姿に、アタシたちは息を呑んだ。
「……あなた!? 」
母親の悲鳴が響く。
誇り高き軍人であり領主であったはずの彼は、軍服をボロ布のように引き裂かれ、
顔面は形を変えるほどに腫れ上がり、部下たちに抱えられていた。
「……すまない、マリ。抗議は……聞き入れられなかった」
絞り出すような声。
帝国軍本部の回答は冷酷だった。
「貴族様のトカゲが餌を食ったくらいで騒ぎ立てるな。
……『強者が正義』。それがこの世界の理だ。
不服なら我らより強くなってから吠えるがいい」
正義を訴えた彼は、伯爵家の近衛士官たちから「教育」という名の
私刑を受け、文字通りボロボロにされて追い返されたのだ。
「そんな……父上が、何をしたっていうの……」
泣き崩れるマリ。
アタシはアカネにバレない程度で回復するように指示を出した。
翌日、聖王国ルーンの国教である「聖教」の主の生誕祭。
地球でも広まりつつあるこの宗教の祭典は、領主が笑顔で民衆の前に立たねばならない。
マリ父は完治していないにも関わらず、重い足取りで公務に向かった。
「……アタシ、ムカついて気分悪いわ。アカネ、ちょっと外の空気吸ってくる」
「お供いたします、サーヤ様」
アタシはどんよりした気分を晴らすため、賑わう祭りの通りへと繰り出した。
通りは色とりどりの装飾で溢れている。
だが、その喧騒の影――屋台の裏に、見覚えのある気配が二つあった。
キャリーとエリカだ。
アタシの海賊団のメンバーであり、三次元人なら帝国貴族だろうが
ワンパンで沈めるチート共が、壁の隙間から目を輝かせてこちらを覗いている。
「(ねえエリカ、見た? サーヤのあの眉間のシワ。……くるわよ、これ)」
「(うひひ、間違いないわね。ブチ切れたサーヤがめちゃくちゃにする姿、
特等席で見守りましょう。正義の鉄槌(物理)が見れるわよ!)」
忍び笑いを漏らす二人。
そんな二人の期待にこたえるかのように、アタシの目に最悪の光景が広がった。
昨日の「犯人」である伯爵家の子供たちが、
祭りの真ん中で傍若無人に振る舞っていたのだ。
「おい、この菓子、口に合わないぞ! 焼き直せ! 」
クソガキ貴族の一人が、老人が営む屋台を蹴り飛ばし、
売り物の菓子を泥の中にぶちまけた。
周りで領民の子供たちが鳴いている。
「……ったく、下等な地球人はこれだから。
こいつら、今日も [ タロー ] の餌にしてやる!
おい、今すぐ [ タロー ] をここに呼べ」
ガキどもは、そばにいる父親の部下に顎で指示を出した。
その仕草を見た瞬間、アタシの頭の中で何かが「プツン」と弾けた。
沸点なんて、とうに越えていた。
アタシは無言で歩み寄り、ガキの襟首を掴み上げると、
祭りのど真ん中にある噴水へと叩き込んだ。
「あだっ!? ……な、なんだチビ! 伯爵家の俺に触れるな! 」
「お前の親のセリフだが、強者が正義、だったわよね?
だったら、その理屈をあんたのその安いプライドごと、叩き潰してあげるわ」
アタシの背後から、護衛の士官たちが一斉に抜剣する。 だが、その時。
「――この土地の人民の命、
そしてお父様の誇りを、これ以上汚させない! 」
凛とした声と共に、空気が震えた。
アタシが手を出すより早く、超高密度の魔力弾が士官たちの剣先を正確に弾き飛ばした。
見れば、涙を拭ったマリが、杖を構えて立っていた。
地球人としては最上級、遠距離魔法の天才としての片鱗が、その瞳に宿っている。
アタシは口角を上げた。
「いいわね、マリ。……あんたの父親をボコった連中への『利息』、
二人で取り立てに行きましょうか」
「えぇ、地球人だってやればできるところを、見せてやるわ! 」
「アタシを怒らせた代償は、きっちりもらわないとね」
陰で見ていたキャリーとエリカが「きたきたーー!」と、
小さな声でガッツポーズを決めた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
『強者が正義』。その言葉を盾に、好き勝手に暴れるクソガキ貴族。
サーヤの理性が、ついに『ブチッ』と音を立てて弾けました。
そして、涙を拭って立ち上がったマリ! 地球人最上級の魔力を持つ彼女が、
ついにその片鱗を見せ始めます。
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