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27.(前編)エバーグリーン黒竜事件~その①

「サーヤ様、そろそろ起きないと定期便に遅れますよ」


「せっかく休みなんだから、ゆっくり寝かせてよ……」


 昨日、入れ替え試験という名の茶番が終わった。

今日から学園は冬休み。


 アタシは人生の目的である「二度寝」を満喫していたのだが、

ドSメイド・アカネにベッドから引きずり出された。


 目的地は伊集院マリの領地。超金持ちの辺境伯だ。

娘の友達という事でお小遣いのチャンスがあるかもしれない。


 そしてマリによると、極上のドルチェを作るメイドがいるという。

滞在中、1度は味わうチャンスがあるかもしれない。

この2つのチャンスのためにアタシは渡航を決めた。



 だが、エアポートに到着してアタシたちは足を止めた。


「……何、この混み方。異常じゃない? 」


 出発カウンターは、いつ終わるとも知れない長蛇の列で埋め尽くされている。


「航空会社の通信を傍受してみます」


 アカネが目を閉じる。

データ通信の奔流から必要な情報を抜き出す、彼女なりの「ポーズ」だ。


「――判明しました。太陽系周辺の恒星系で、大規模な戦闘が発生しています。

……場所は、プレアデス星系です」



「プレアデス? ……ああ、例の戦争ね」


 アタシは思い出した。

それは帝国がその歴史上、唯一にして最大の敗北を喫した戦いだ。



「お察しの通りです。

背後に『聖王国ルーン』の超高度な軍事技術が潜んでいたあの戦いです。」


 戦争があったことは、情報規制で隠されている。

乗客には、不可解なシステム障害だけ伝えられているようだ。



「これは、かなり待つわね。時間結晶タイムクリスタルを使うわよ」


「100光年以内に帝国の軍艦がいると、

時空展開の余波を傍受されるリスクがあります。

少しお待ちください。……スキャン中……よし、現在はクリアです」


 そういうとアカネが時間結晶のコードを展開した。


 視界が暗転し、重力が反転する。

アタシたちは結晶を使い、マリの領内にある地方空港へ、

一日の時を巻き戻して「密航」した。



「一日巻き戻して移動したから、今日は昨日ね」


「はい、この日のサーヤ様と私はまだ教室にいるはずです」


「アタシ達1日得しちゃったわね。マリが来るまで観光でもしましょうか」


「そうですね。エバーグリーン地方の景勝地、ナイアガラの滝が有名だそうです。

昔は二つの滝だったものが、三千年の浸食で一つになった巨大な滝です」


 アタシたちは得した気分で、絶景を眺めながらパスタランチを楽しんだ。


 ――そして翌日。



「ねぇサーヤ! 驚かないでね、ここが名物『ナイアガラの滝』よ! きっと驚くわ! 」


「せっかくだけど、そこは昨日……」


「サーヤ様っ」


「……あっ、いや、楽しみだわー。すごく、楽しみ(棒読み)」


 ヤバい。アタシたちは「今日」着いたことになっているのだ。

アタシは笑顔を取り繕い、マリに手を引かれるまま、昨日見たばかりの滝へ向かった。



「サーヤ、ここのランチは美味しいのよー! 」


「あ、ここは……」 「サーヤ様っ」「分かってるわよっ」


 テーブルに並べられたのは、昨日も食べた、全く同じ盛り付けのパスタ。


「ね、おいしそうでしょ? 」


 得意満面のマリ。

アタシはデジャブに耐えながら、昨日と全く同じ味の麺を啜った。


「(……こんなことなら、滝以外の店をリサーチしておけばよかった……)」


 そう後悔した、その時だった。

マリの表情が凍りつき、店内の客たちのフォークが床に落ちる音が響いた。


 滝の上空。一匹の巨大な黒竜ブラック・ドラゴンが、

獲物を探して旋回していた。


 一個師団でようやく対処できる「災厄」。

それが、観光客を新しい獲物と定め、急降下を開始したのだ。


「きゃああああ!」 「逃げろ! 食われるぞ!」


 黒竜は逃げ惑う人々を、あざ笑うかのように追い詰め、

一人、また一人と飲み込んでいく。



「サーヤ様」「分かってるわ……!」


 人前で全力を出すわけにはいかないが、放っておけるはずもない。

アタシが指先に魔力を込め、竜の首を狙おうとした、その瞬間だった。


「タロー! 帰っておいでー!」


 間の抜けた声が響いた。

黒竜は、まるで叱られた飼い犬のようにすごすごと滝の向こうへ飛んでいく。


 そこには、帝国軍の士官服を着た大人たちと、

高価な学生服を着た子供たちの集団がいた。


 彼らは自分のペットが人々を虐殺したことなど、まるで気にも留めていない。


「あはは、タローったらお腹が空いてたのかしら」

「さあ、お茶にしましょう」


 家族旅行を楽しむかのように談笑しながら去っていく、帝国貴族の一行。


「……帝国軍」


 マリの絞り出すような声が震えていた。

その手は、怒りで真っ白に握りしめられている。


 アタシの中の「海賊の血」も、かつてないほど冷たく沸騰し始めていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


冬休み早々、時間結晶を使って『一日得した』はずのサーヤ様でしたが、

まさかのデジャブ・パスタ地獄に陥ってしまいました(笑)。


しかし、そんなコメディを切り裂くように現れた黒竜、

そしてそれを『ペット』と呼ぶ帝国貴族たち。

平和なエバーグリーン地方に漂い始めた、あまりに不穏な空気。


【後編:矜持編】**では、マリの両親が登場します。

帝国軍人としての誇りを持つマリの父、辺境伯が下す決断とは……?


続きが気になった方は、ぜひブックマークと、

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