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25.試験が終わって

 今日はアタシにとって、銀河を救うよりも重要な決戦の日である。

一ヶ月間、あのドSメイド・アカネの地獄の特訓に耐え抜いた者だけが

許される聖域――[スイーツ食べ放題]の当日なのだ!


「サーヤ様、本当によく一ヶ月間、逃げずに頑張りましたね」


「当たり前でしょ。現金とスイーツのためなら、アタシは悪魔に魂だってコピペして売るわよ」


「ブレない強欲さ、さすがです」


 << ぶーっ、くっくっく >>


「……なんか、背後で鶏が笑い死にそうな声が聞こえるんだけど? 」


「おそらく野生の不審者エリカとキャリーでしょう。無視して進みましょう」


 アタシたちはマリから調査済みの「伝説のスイーツ店」へと急いでいた。

店から漂う、魔法のような甘い香りに理性が溶けかけた、その時だった。



 << ガシャーン!! >>


「子供が魔法車に跳ねられたぞ!」 「誰か! 救急処置を!! 」


 悲鳴がアタシの甘い夢を切り裂いた。

通りの真ん中、血を流して倒れる少年。

アタシは迷わず駆け寄り、指先を向けた。


「ヒール! 」


 だが、傷口が深すぎる。

アタシの拙い回復魔法では、溢れる鮮血を止めることすら叶わない。


「ん、あれは……? 」


 野次馬の中に、医者のバッジをカバンで隠そうとする中年の男がいた。


「おじさん、医者でしょ! 逃げないで一緒に来て! 」


「俺はもう患者は診ない……。俺のヒールじゃ、無駄なんだ……」


 男の目は死んでいた。

過去に絶望し、救うことを諦めた者の目だ。



「煮え切らないわね、アタシがやってやるわよ! 」


 アタシは全力で魔力を練った。

目立ったらマズい? 30億ギラ? 知るか!


 だが、どれほど叫んでも少年の顔色は白くなる一方だ。


( こんなことなら……回復魔法も真面目に練習しておけば……! )


 アタシが己の無力さに歯噛みした瞬間、空気が変わった。

漆黒のメイド服が、凛とした冷気を纏って少年の傍らに降り立つ。


「サーヤ様。――わたくしが、命の定義を書き換えます」


 アカネだった。


 彼女は少年の胸に優しく手を置き、機械のような精密さと、

神にも等しい慈愛を込めて呪文を紡ぎ出す。


「『ライトヒール』および『エクストラヒール』

……さらに術式の『同時配合・二重連結』を開始」


 瞬間、アカネを中心に水色の光が爆発的に膨れ上がった。


 ただの回復魔法じゃない。

傷口の細胞一つ一つを強制的に活性化させ、

欠損した組織を瞬時に再構築していく「異次元の医療術式」。



「……上級スキルを二つ同時に!?

しかも、波長を完璧に同調させて配合しているのか!? 」


 中年男が、腰を抜かして絶叫した。

アカネの瞳に、複雑な魔導数式が超高速で流れていく。


「……バイタル、正常値へ復帰。細胞の過剰再生、終了」



 光が収まった時、少年の傷は完全に消えていた。

呆然とする周囲を無視し、アカネは男を冷たく、だが射抜くような目で見据えた。


「おじ様。命を救う覚悟がまだ一欠片でも残っているのなら、

続きはあなたの家で。……サーヤ様、スイーツはその後でも宜しいでしょうか? 」


「……もちろんよ! 早くこの子を運びましょう! 」


 アタシたちは男の案内に従い、大通りから一本入った細い路地へと向かった。

そこには、古びているが驚くほど手入れの行き届いた一軒家があった。


 玄関の用具箱までピカピカに磨かれているのを見て、

アタシはこの男が「道具を大切にする、根っからの技術屋」であることを確信した。



「ここが俺の家だ。入ってくれ」


 男が扉を開けた、その時だった。


「父上、お帰りなさい! ……って、えっ!? なんでお前がここにいるんだよ! 」


 奥から出てきたのは、見覚えのある生意気な顔。

アタシの学友であり、事あるごとにアタシを「チビ」と呼んで

突っかかってくるクラスのいじめっ子――メディだった。


「げっ、いじめっ子!? 」

「誰がいじめっ子だ! 俺の名前はメディだろ! 」


「おい、メディ。知り合いか? 騒ぐな、患者をベッドに運ぶぞ」


 男の言葉に、メディは一瞬で表情を強張らせた。


「え……? 父上、また医療を施されるのですか……? 」


 怯えるようなメディの視線。

だが、男は力強く頷き、清潔な白衣に袖を通した。


 アタシはその時、この親子の間に横たわる「重い過去」の片鱗に触れた気がした。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


ついにアカネさんの神業医療が炸裂しました。

絶望していたメディの父親、そして偶然の再会……。

かつて帝国で『教授』と呼ばれた男の家で、一体何が語られるのか?


次回、あの『いじめっ子』だったメディが、

最強メイド・アカネの術式を目の当たりにして劇的な進化を遂げます。


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