22の2.勘違いの殺気と、伝説の聖遺物『マンガ』
今日は、1年生と2年生の合同魔法実験の日だ。
2年生と話したことがないが、1学年違うと背も大きく違うのね。
背だけでなく、男子はうっすらと髭もあり、女子は出るところが
けしからんぐらい、目立ち始める。
[ 4次元 ]では、100 歳違っていても平気で同い年に見えるのに。
やはり [ 3次元] は、成長が早いが老化も早いに違いない。
ホントに怖い所だ。
アタシはマリと一緒に、上品そうな2年生の女子と
同じグループになった。2人とも美人で大人だ。
1人は、キャリーから昔話で何度か聞いたことがある
伝説の(縦ロール)の髪型をしている。
( こんな立派な縦ロール。きっとキャリーが見たら
大喜びで、カメラを回しまくるんだろう )
マリがその学生と親しく挨拶を交わしている。
どうやら旧知の仲らしい。
2人は優雅に挨拶を続けていたが、アタシはお昼に食べたアイスのせいで、
お腹が<グルグル>言い始めており、それどころではなかった。。
合同実験は2年生の模範実験が終わり1年生の番となった。
尻込みをする1年生。
その中で、唯一マリだけが実験に進み出て、
子熊の杖を左右に振りながら華麗な手さばきで、
2つのミニ台風を作り上げていった。
( 普段から人前で魔法を使うことに慣れているのかしら? )
マリの魔法は一定のリズムで繰り出され、まるで音楽を
聞いているかのように、気持ちよく生まれ出る。
やがて、教室はマリの独壇場となっていった。
しかし、アタシはお腹の中で氷の魔法が荒れ狂っている。
ちょ、ちょっとそろそろ限界。
「シェンカーさん、あなたも挑戦してみなさい」
( このタイミングは最悪。マリができる子だから、
アタシも優秀だと勘違いされているのね )
しかーーーし、それどころではない。本気ではヤバいのだ。
マリの次のご指名で、周りのお兄様、お姉さま方の
期待に満ちた目がアタシにズイズイプレッシャーをかけて来る。
アタシはこんな幼稚な魔法など目をつぶってもできるけど、
どこに帝国の目が光っているか分からない。それにトイレに駆け込みたい。
上手に断ったつもりだったが、目の前のお姉さまは許してくれなかった。
「そんなことないでしょ。帝国貴族を倒すあなたなら、
これくらいのこと、朝飯前じゃありませんか? 」
( この人、何を言っているんだ?アタシはそれどころじゃないのよ )
言葉を抑え込み、必死に耐えながら絞り出すようにつぶやいた。
「おねぇさん、アタシの何を知っているの? 」
その瞬間、教室の空気がパキリと凍りついた。
リズの視界で、サーヤの背後に巨大な死神の鎌が揺らめいたような錯覚。
少女の瞳は鋭く据わり、額には微かに汗が滲んでいる。
( ……これは、殺気? いえ、それ以上の……運命を拒絶するような、
凄まじい「意志」の軋み!? )
サーヤは限界だっただけだ(腹痛的な意味で)。
だがリズには、それが**
「私の正体を暴こうとするなら、タダでは済まさない」**
という銀河最凶の警告にしか聞こえなかった。
アタシは今、一瞬でも気を抜くと大変なことになってしまう。
アタシは心の中で強く祈った。
<以前見かけたアタシの話はいいから、今目の前のアタシを見てよ>
何故か、お姉さまは急に顔色を変えてこちらとの距離を取った。
その隙を見逃すアタシではない、
全力で脇をすり抜けて教室を出ることに成功した。
「神よ、ありがとう」
心の中で流れる讃美歌の中、アタシは至福の時を過ごした。
やがて、氷の魔法の呪縛は溶け教室に戻ると、
お姉さまが狼ににらまれた羊のような怯えた表情でこちらを見ている。
(挨拶もなく、彼女の脇を通り過ぎたのがいけなかったかしら? )
ここは多勢の貴族が集うエリート中のエリート校だ。
挨拶もなく立ち去るなど、おそらく経験がなかったのだろう。
しばらく彼女とは距離を取った方がいいかもしれない。
アタシはお姉さまから離れた場所に座ることにした。
すると目の前に1冊のノートが広げられていた。
そこには、可愛らしい子猫の絵が描かれていた。
ほかに子供たちが庭園で遊んでいる姿、湖畔でたたずむ白鳥、
見たことのない美しいバラ科の植物。
ページをめくるごとに、目の前に幾重もの世界が広がって来る。
「こ、これがあの『マンガ』というものなのか! 」
素晴らしい!
安くとも1億ギラはくだらないという伝説の『マンガ』。
1億ギラあれば、何が買えるだろうか?
早く自分も聖遺物『マンガ』を手に入れて大金持ちになるのだ。
いつの間にか、アタシはノートを手に取り、
むさぼるようにページをめくっていた。
「ページをめくるだけで、心が躍るし、今では張り裂けそう! 」
(1億……いや、2億ギラ!
このページ、1枚で戦艦の燃料が何年分買えるのよ!? )
興奮して鼻息が荒くなるサーヤを見て、リズは胸を打たれた。
( なんて純粋な瞳。私の、未熟な絵の中に隠した『地球への愛』を、
彼女は見抜いたというの!? )
世界で最も「カネの匂い」に敏感な瞳と、
世界で最も「芸術への理解」に飢えていた瞳が、奇跡的に交差した。
「サーヤさん、絵にご興味があるのですか? 」
「もちろんよ。こんな素晴らしいものはないわ」
「まぁ。そこまで‥‥。うれしい」
ノートの持ち主・リズがアタシの前に立って涙ぐんでいる。
さっき、挨拶をしなかったのが不味かったかもしれない。
「サーヤ様は、夢をお持ちでしょうか? 」
( 突然、お姉さん、変なことを言うわね。
夢なんて1つしかないじゃない。おカネよ )
「ええ、もちろんありますわ」
「それじゃ、その夢が簡単にかなわぬものであるとき、
あなたなら、どうなさるのでしょう」
「そんなの決まってる…、決まってますわ。
叶うまで、しつこく、追い続けます。
それでも駄目なら、力づくで奪います」
「だって、好きで好きでたまらないのですもの」
([4次元]には時間の限りがないし、海賊たるもの
最後は当然力づくで奪い取るわよ。
おカネが好きで好きで、たまらないのだから仕方ないわ)
「好きだから、しつこく追う、力づくで奪うか・・・・」
「リズ様、何かお気に障るようなことが
ございましたでしょうか? 」
急にアタシがいなくなったかと思うと、
リズが急に黙りこくり、下を向いてしまったので、
マリが心配して思わず声をかけた。
リズは自問自答のように、アタシのセリフを繰り返している。
「しつこく追う、力づくで奪う・・・・」
「うふふ、そうよね、それでいいのよね」
突然、晴れやかな表情でリズは上を向いた。
リズには夢がある。
画家になって、地球の良さを帝国中に広めることだ。
しかし、地球人画家なんて、誰が認めてくれるだろうか?
お父様、お母様も許してはくれまい。
そう思い、リズはいつも自分で夢を落とし込めていた。
その重々しく鬱屈した気持ちが、一気に晴れ渡ったのだ。
「ありがとう。サーヤさん。私やるわ。
いつの日か地球人画家として、帝国美術展で入賞してみせるわ。
叶うまで、しつこく、追い続けます。それでも駄目なら、力づくで奪いますわ」
未来の天才画家が誕生した瞬間――
その産声は、サーヤの「強欲」な独り言だったのである。
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