22.リズの想い人
( あの子はいったい誰だったんだろう‥‥? )
教室の窓からリズは、あの日の出来事を思い出していた。
それは学生食堂で見た小さな女の子。
まだ10歳前後のお子様が、毅然として帝国貴族に相対していた。
しかも、最後は彼らを打倒してしまったのだ。
風邪の噂では、編入生で高価な魔法チップを使っていると聞く。
また、違う噂ではキャンディの棒で、上級魔法を操ったとも。
「リズ様、今日から1年生と合同授業が始まりますね。
中には伊集院様のお嬢様もいらっしゃるとか」
「伊集院様と言えば、リズ様のハードル家と同じく、
侯爵のお家柄なんですよね。ご存じなんでしょうか? 」
「マリ様ですね。何度かお会いしたことはあります」
そういえば、今年の1年生には飛び級で伊集院マリが入学している。
5歳で魔法に目覚め、6歳の時には3属性の魔法を操っていた。
同じ侯爵家なのだが、あちらはお父上が地球軍のエースとも言われ
名実ともに優秀な家系である。
「そのマリ様ですが、編入試験ではもう一人、同じぐらいのお子様と
ペアを組まれていたらしいですわよ」
「え、それは知らなかったわ」
( まさか、あの子の事かしら? )
「その子も魔法力が強大なのかしら? 」
「いえ、団体戦だった二次試験ではマリ様がおひとりで、
5人の教師たちを瞬殺したのだそうです」
「え、そうなのですか」
(じゃあ、あの子じゃありませんね。
帝国貴族に圧倒するぐらいだから教師じゃ相手にならないはずですもの)
「たしか、その子もマリ様と同じクラスのはずですよ」
「では、今からお会いできるかもしれませんね」
そんな話をしていると、わらわらと1年生たちが教室へ入ってきた。
みんな入学して半年たつので、制服姿が馴染んて来ている。
何人かぎこちない制服の子たちもいる。
恐らく、編入生だろう。
「きゃー、かわいい」
「あの子たちがそうね」
「伊集院家のお嬢様よ」
1年生が入ってきてざわついていた教室が
一段とにぎやかになった。
ちびっ子コンビが教室に入ってきたのだ。
1人は見た顔だ、真っ黒な髪にパッツンヘア。
伊集院マリだ。
そして、もう1人。
「あっ! 」
思わずリズは声を挙げてしまった。
「どうしましたか?リズ様」
「いえ、何でもありません」
「伊集院様ですね。本当に可愛らしい」
「あら、ケイ様もいらっしゃったようです」
他の男子たち揉み合いながら、マリ兄が教室に入ってきた。
兄はマリの姿を見ると、妹の傍に駆け寄った。
相変わらずマリ兄は妹に甘い。
「きゃーーー 」
お人形さんのような妹に寄り添う美少年。
いかにも絵になる。
2人に注目が集まる中、リズだけはもう一人の少女を見ている。
(やっぱり、あの子だわ。名前はなんていうのかしら? )
「みなさん、お静かに。席について。
そろそろ合同授業をはじめますわよ」
教師が入っていて、黒板に何かを書き始めた。
ちびっ子コンビは、一番前に座っている。
黒板には「合同魔法実験」と大きく書かれた。
「今日は2年生と1年生がいくつかの班に分かれて、
一緒に魔法実験をしていただきます。
それでは、班分けを発表します」
教師は次々と、実験をおこなうグループを発表していった。
あちこちで、歓声や、ためいきが漏れている。
「では、Cグループ。ハードルさん、ソウマさんの2年生と、
伊集院さん、シェンカーさん。1年生ね。
ハードルさんは一番後ろの席だから、お二人はそちらに移動してね」
「はい」
「はーい」
ちびっ子コンビが立ち上がり、コチラに向かって歩いてきた。
まさか、こんなに早く再会が実現するなんて、
リズは喜びが顔に出ないように、必死に耐えた。
「リズ様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、マリ様。
いつ以来かしら、マリ様のお父様の大佐就任パーティ依頼ですね」
「はい。リズ様。今日は宜しくお引き立ての程、お願い申し上げます」
マリは、やっぱり良い所のお嬢様だ。
挨拶する姿がとても美しい。
「そちらの方もよろしくね」
「サーヤ・シェンカーでーす。宜しくお願いします」
「そうシェンカーさんね。よろしく」
そんな挨拶が終わり、早速、実験が始まった。
今日の実験は、火属性魔法と水属性魔法を使って、
ミニ台風を作り出す高度なものだ。
普通、2つの属性を魔法で使うのは2年生からの授業だ。
今回は2年生の復習の場であり、1年生の体験の場でもあった。
「それでは、実験を始めてください。
2年生は1年生に解説しながら、実技を進めてくださいね」
教師の合図と共に、リズは杖を取り出して解説を始めた。
「マリ様には簡単な実験かもしれませんが、お付き合いくださいね。
通常は水と火の魔法は相対するものなので、ぶつけると消滅します。
しかし、属性のバランスを調合すると風を起こせるのです」
そういうと、リズは小さな火魔法と、水魔法を目の前に展開した。
2人の1年生は、リズの手元を凝視している。
( この2人の前だと、緊張するわね )
リズの得意魔法は、火属性だ。
安定した炎と水を調合し、水蒸気を展開。
その後、炎と水で空気に寒暖差を作り、空気の流れを生み出した。
実験デスクでは、小さな雲が発生し見事にミニ台風が再現された。
「すごい、あの杖高そう。いくらぐらいするのかしら? 」
「サーヤ、今は魔法に集中しなさいよ」
「マリの杖も高価だけど、あれは相当なものよ」
確かにちびっ子2人は、リズの手元を凝視していたが、
魔法ではなく高価な杖を見ていたのだ。
「それでは、1年生も2年生を真似して、
同じ魔法にチャレンジしてみてください」
一通り、2年生の実験が終わるのを見届けると、
教師は1年生に向かって指示をした。
1年生に魔法学習の厳しさを教え、
2年生には自信を持たせるための指示だ。
「できるわけないよ」
「無理無理」
ほとんどの1年生が尻込みした。
その中、チャレンジしたのは伊集院マリだった。
マリはいつもの子熊のイラスト入り杖を振りかざし、
リズと同じようなミニ台風を作り上げた。
「さすが、伊集院家ね」
「ケイの妹、すげーなー 」
1年生の芸術的な魔法を一目見ようと、
リズの実験デスクには大勢の人だかりができた。
( あの子の魔法も見てみたい )
リズはその衝動にかられ、サーヤに声をかけた。
「シェンカーさん、あなたも挑戦してみなさい」
「えー、アタシ、マリと違って魔法はダメなんです(棒読)」
「そんなことないでしょ。帝国貴族を倒すあなたなら、
これくらいのこと、朝飯前じゃありませんか? 」
そういった瞬間、突然リズの背中には凍るような殺気が走った。
生まれて1度も感じたことがない [ 恐怖 ] で髪の毛が逆立っている。
めまいと吐き気で、立っているのが精いっぱいだ。
そして、可愛らしくも低い怖ろしい声が耳に入ってきた。
「おねぇさん、アタシの何を知っているの? 」
――その瞬間、周囲の温度が数度下がったような錯覚に陥った。
リズの視界から色が消え、鼓動が耳元でうるさいほど鳴り響く。
目の前の少女は笑っている。
けれど、その瞳の奥には、数千の星を掠奪してきた銀河の怪物の残影が揺らめいていた。
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