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0.エピローグ

「アナタたち!何度言ったらお分かりですの!

ここは平民が立ち入れる場所じゃないのよ」


「食事時に平民なんて見たくない、、誰か追い出せよ」

「平民がいるの? けがらわしい」


 ここは、中世のベルサイユを模して造られた学生食堂。

高級な調度品が並び、気品あふれる空間で、

貴族の学生たちが食事をとっている。


 その中に1人、場違いな学生が紛れ込んでいた。

編入生だろうか、部屋を間違えて入ってきてしまったらしい。


 扉の傍に座っていた女子学生が、その姿を見るや否や

汚い動物を見るような目をして悲鳴を上げた。


 たちまち、その学生は男子たちから

肌が一瞬で氷づくマイナス20℃の氷魔法で取り押さえられ、

外につまみ出された。



「リズ様、何であのような平民をこの学校で受け入れているのでしょうか? 」


「そうね。でも、あの平民の中にも稀に大魔法士が生まれると聞きます。

地球、いえ、帝国としては1人でも多くの兵士を育てたいのでしょう」


 リズと呼ばれた女学生は、金髪縦ロールの髪を優雅に揺らしながら

ハーブティーに口をつけた。


 今、出ていった平民学生は、リズと同じ基調の制服を着ていたが、

デザインだが若干違う。


 リズの制服は、胸のところに金色で★が刺繍されている。

さっきの学生にはそれがない。


 更に言うと、いまハーブティを給仕している女学生の胸には

銀色で★が刺繍されている。

これは上級貴族と平貴族との違いを表すものである。


「ほんとうに、図々しい。

侯爵の息女たるリズ様と、あのような平民が同じ空間にいるなんて、

絶対に許されるものではありませんわ」



「いいのです。

仮に、この学園が私たち地球貴族だけのものならば、

あのような平民が紛れ込んでも、大きな問題にはなりません。

しかしもし、帝国の貴族がいる場で、同じ場面があれば、

地球貴族も一緒に罰せられてしまいます」


「左様ですね。彼らににらまれたら

お父様たちだけでなく、親戚にまで害が及びますものね」


 以前、学園で帝国貴族の不評を買った生徒がいた。

その生徒は地球男爵の子息だったが、

父親が帝国管理局から呼び出され処分された。

更に親類一同も地球外へ追放されてしまったのである。



「しっ 」


 リズはナプキンで口を拭い、周りを見渡した。


 ルネサンスを意識したデザインの食堂には、甘いスープの香りが漂い、

リズのような貴族が整然と並び食事をとっている。


「大丈夫なようね。

めったなことは口にしない方が宜しくてよ。

どこに盗聴魔法が仕掛けてあるか、分かりません」


「リズ様、失礼いたしました」



 この魔法学園は400年前、地球を征服した

シルベスター帝国によって設立された。


 学園には帝国民の子息、地球人民、その他周辺星系からの留学生が在籍。

主に魔法技術を教え、将来の帝国軍人を輩出している。


 それぞれ身分階級ごと、帝国民>地球貴族>地球平民、に分けられており、

食堂でも、貴族たちの後に平民が食事をとる慣例となっている。

帝国民には個室が与えられ、そちらで食事をとる。



「エリーさん、地球は帝国に負けたのです。

帝国に従うのは私達地球人の生きる道なのです」


「はい。私は決して帝国を恨んではおりません。

私達は彼らのお陰で貴族として暮らしていけるのですから」


「そうですね。

しかし平民は私達と違い、思慮が浅いので、何をするか分かりません。

彼らのために被害を被らないためにも、なるべく近づけないに越したことがないのです」


 怖ろしい帝国貴族には近づかない、汚らしい平民を寄り付かせない。

これはリズに限らず、この学園の地球貴族なら誰もが持つ感情である。


 学生食堂に、再び気品あふれる静寂な時間が流れ始めた。

その静寂を、耳を覆いたくなる少女の大声がぶち破った。



「「「 なーによーー!このカレーパン、アタシが買うのよ 」」」



「今日は騒がしいですわね。また平民? 

今度こそ私が魔法で躾て差し上げますわ」


 エリーはリズにそっとお茶を差し出し、声の方に歩きかけたが、

その足は凍り付いたかのように、その場で固まってしまった。

顔から血の気が引き、僅かだが震えている。


 リズも、あわてて扉の方を振り返った。

そこには、ぶかぶかの制服を着た幼女が

体格の良い男子生徒たちに囲まれている姿があった。


 幼女はまるで百戦錬磨の戦士のような落ち着きをみせている。

そのオーラは、身体が2倍ほどもある男子生徒をはるかにしのいでいる。

だが、本人たちはそれに気が付いていない。



「お子様が学園にいるぞー」

「なんだこいつ制服着てるぜ」

「おいチビ、そのパンをよこせ。

帝国臣民の俺様が食べてあげようというのだ」



( いけない…!  )


 とっさにリズは視線を自分のテーブルに移した。

男子生徒たちが帝国の学生専用の制服を着ているのだ。


 あの幼女は見たことがない。

最近編入してきた他の星の留学生か、地球の平民だろう。


 とにかく今はトラブルに関わると、自分の命が危ない。


 食堂は満員のはずだが、学生たちは物音ひとつ立てずに

見て見ぬふりをしながら、黙々と食事を続けている。



「おい、この制服を見て分からないのか? 

俺様は帝国臣民、しかもお父様は太陽系方面軍の士官だ」


「知らないわよ。それとアタシのカレーパンと何の関係があるのよ」



( あいつはアホだ。確実に死んだな )


 必死に関わらないように食事をしている学生たちは誰もが心の中で叫んだ。

お子様とは言え、帝国に逆らってタダで済むわけがない。



「なるほど、俺様達に逆らうのか? 」


「もうパンはいらん!

俺達がお前ら地球人とは違い、なぜ特別なのか見せてやる」

「そうだ、昨日習ったスキルを使おうぜ! 」


「べつに見たくないわよ。それとも見てあげたらおカネくれるの? 」


( あいつ、帝国からカネを取ろうとしてるぞ )

( どこのどいつだ?やっぱり狂っている )


 テーブルのあちこちでヒソヒソ話がはじまった。


「ふふふ、俺様を怒らせるとは、チビのくせにいい度胸だ」


 学生が右手に握った杖を掲げた瞬間、

食堂の空気が静電気を帯びてパチパチとはじけた。


 紫色の火花が散り、強烈なオゾンの臭いが鼻をつく。


『光の聖霊よ、雷となりて顕現せよ! 』


 杖から放たれた稲妻は、

視界を真っ白に染め上げるほどの閃光となり、

幼女の小さな頭部目掛けて一直線に伸びた。


――勝負はついた。リズが目を伏せようとした、その刹那。



<< バリバリバリ >>


 そして、

その1秒後、もう一度、更に大きな音が食堂に響いた。


<< バリバリバリ >>


( あぁ、女の子、即死かもしれない )


 鼓膜を突き破るような爆音。

だが、それは「命中した音」ではなかった。


 幼女が掲げた両手――

その先端が物理法則を無視して雷光を「吸い込み」、

一瞬で増幅して撃ち返したのだ。


 雷に打たれたのは、放った本人だった。


「あ・・・・・・? 」


 男子学生は、自分が何をされたのか理解する暇もなかった。

放電の衝撃で、周囲のテーブルに並んだ水差しが一度に粉砕され、

水飛沫がスローモーションのように宙を舞う。


 その中心で、黒焦げの塊と化した学生が、力なく床に崩れ落ちた。


 みんな食堂を離れたいが、帝国の学生に目を付けられたくないので

椅子から一歩も動けない。食堂は音一つない。


「 ・・・・・・ 」


「あー、すっきりした。何がお子様よ。

アタシは立派な9歳のレディなんだから」


 なぜか、女の子の声が聞こえる。

ま、まさか。。。


 そっと横目で見ると、

なぜか、さっきの男子学生が黒焦げで倒れている。


 その脇で、何事もなかったかのように女の子が

サイドテールの髪留めを一生懸命に直している。



「シモーヌ様の仇だ。全員でやるぞ」

「帝国の怖さを思い知らせてやる」

「どぶすチビ」


 他の帝国の学生たちが、思い思いに魔法の呪文を唱え始めた。

さすがに多勢に無勢だ。今度こそ女の子がやられる。


「うっ」

「ぐえ」

「がはっ」


 次の瞬間、他の3人の男子学生たちが床に這っていた。

女の子が魔法を使ったようには見えない。

いったい何があったのか?誰もわからない。


 幼女は倒れている男子生徒に近づくと手を差し出した。


( やっぱり女の子ね、最後は仲直りするのかしら ) 


 遠くから結末を見守っていたリズの予想は全く外れてしまう。


「『どぶすチビ』っていったのは?アンタ? 」


「うぐぐ」


 苦しそうにしている男子生徒は、声にならず、隣の学生を指さした。


<< ドン >>


「10万ギラでいいわ。精神的慰謝料としては安いでしょ」


 幼女が学生の顔面をかすめるように地面に足を打ち付けると、

床が大きくへこんだ。

学生は震えるようにして、キャッシュカードを差し出した。


「1,2、3、・・・・・・9,10っと。じゃ、もらっとくわね」


 幼女は、受け取ったカードの上に自分のカードを重ねて、

『精神的慰謝料』を移し終えると、嬉しそうに笑顔を見せた。


「ありがと。

あっ、もうこんな時間…。

やっばーい、アカネに叱られる。早く帰らなきゃ」


 トコトコと走り去っていく幼女。



「なんだあれ? 」

「あんな子供が学園にいたのか? 」

「結局、どっちが被害者なんだ? 」

「俺達にも帝国の仕返しがあるかもしれない」


 幼女が食堂を去り、保健委員が男子学生たちを運んでいくと、

あちこちで悲鳴に似た声が巻き起こった。



 そんなカオスが広がる食堂で、

目つきの悪い女子とグリグリメガネの少女が

顔を突き合わせながら笑って、乾杯をしている。


「へへ、やっぱり二代目だぜ」

「本当に少しも我慢できませんね。うふふ。

地球を吹き飛ばさないだけでも、成長したのかもしれませんよ」


 楽しげに笑う二人の影。

だが、彼女たちが手にしていたのは、

この時代の地球には存在しないはずの**【透過する端末】**だった。


 地球人を見下す帝国。

その帝国すら「原始人」と断じる、遥か高次元からの来訪者。

最凶の海賊による、史上最も贅沢な「暇つぶし」が、今ここから始まる。

さて、次話からは本編のスタートです。

[4次元] 編につづいて 学園編へと続いていきます。


もし「面白いかも」と思ってくださったら、

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作者のモチベーションが増殖します!

宜しくお願い致します。(#^.^#)

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