天然塩と登山口とラブホテル
唐突で申し訳ないのだけど
私の旦那は筋肉バカで
「元気がない?なら筋トレだ!」
ってくらいのただのバカで
バカでしかないんだ
私は私で
ほんの少し曖昧な霊感擬きがある程度で
到底
人のことは言えないんだけれどね
旦那の方は筋肉バカのくせに
なぜか変なものに憑かれやすい特異体質
大きな公園へ行った時に
男子トイレの入り口から
凄く変な黒っぽいものが溢れ出ていたのが視えた
(なんと言うか、男子トイレ中に充満してるような感じ)
そのトイレに入った旦那は
案の定ね
黒っぽいものを身体にまとわりつかせながらトイレから出てきた
それでさ
言うのよ
「うーん何か身体が重いな!!」
って
(そりゃそんな身体に悪そうなものを身体にまとわりつかせてたら重いよね)
と思ってたら
「うん!身体が重いぞ!!そんな時は筋トレだ!!」
っていきなり公園の芝生で超高速腕立て伏せ始めた
1.5倍速の早回し動画みたいな腕立てを黙って見てたら
旦那の身体に纏わりついていた黒っぽいもやが
旦那の高速腕立てに
まるで悪酔いでもしたように
もぞもぞ離れていって空気中に霧散した
本人なりのノルマをこなした旦那は
「おっ!?身体が軽いぞ!?やはり筋トレはすごいな!!」
とね
そう
いつも通りうるさくて鬱陶しかった
そんな旦那の長所は
別に変なものに憑かれやすいところではなくて
超インドアな私含め
他人には絶対筋トレを勧めてこないところ
これ大事
プロポーズ受けた理由もこれ
その筋トレ大好き旦那は
日々のジョギングも欠かさないのだけれど
ジョギングコースを変えると
変なものが憑いてきたり背負ってきたりするから
「あ、ジョギングコース変えたな」
ってすぐに分かる
まぁ
私に視える程度のものだから
大概ファ○リーズやリ○ッシュが効く低レベルなものばかり
玄関先で旦那ごとファブ○ーズを吹き掛けると
「はっはー!俺はカーテンでもクッションでもないぞう!?」
と言いつつ
私に構ってもらえて嬉しそうにしてる
そんな私自身の最近のやらかしはね
帰ってきた旦那の後ろに
くっきりはっきり見える気味悪い爺さんがいて
私にもこれだけはっきり見えるのって
これ相当やばいやつだと
玄関に常備してある天然塩を鷲掴みにして
ファブリーズと一緒に旦那共々そいつにぶっかけたら
それ悪霊じゃなくて
ただの大家さんだったのよね
「上の階の部屋ね
空室の間にリフォームしたいから少しの間うるさくなりますよ」
って
わざわざ伝えに来てくれたの
そう
私の悪いところは人の顔を覚えられないところ
平謝りしたけど
大家さん
笑って許してくれた
仏のように心広かったわ
生きてるけど
「あんた、数字も苦手じゃなかった?」
うん、数字も全然覚えられない
料理もお菓子作る時も何度でも同じレシピ見てる
……あ
今、なんでこんな奴が結婚できるんだって思ったでしょ
「思ってない思ってない」
私と
もう1人の友人が慌てて手を振る
まぁ本当は少し思ったけど
「私はね
タイトルは一応
『登山口の駐車場』
かな
あぁうん
それじゃ全然分からないよね
登山には少し季節外れなって時期の平日に
ほぼ道楽でカフェをやってる友人がさ
珈琲用の湧き水を汲みに行くと言うから
ドライブがてら付き合ったんだ
友人も運び手があるのは助かるって言うしね
しばらく走ってさ
友人のナビで車を停めたのは
登山道の入り口が近い駐車場だった
力も体力もない女2人だと
水を汲める量なんてたかが知れているでしょ
車のトランクから小さなウォータータンクを取り出した
それでさ
そうメジャーでもない山の駐車場はガラガラ
平日だしね
それで
少し離れた場所に黒いセダンが一台停まっていて
運転席には男が一人座っているのが見えた
私は
その時は別に
誰かと待ち合わせかなと思うくらいであんまり気にしてなかったんだ
登山の車っぽくはないなと思ったくらい
それで私と友人は
登山ではないから
登山道とは反対側にある
ほどほどに歩いた場所にある湧き水の汲み場に向かって
何とか2往復して
それだけでヒーヒー言いながら戻ってきた時
駐車場に
登山口に近い場所に車が一台増えてた
それは淡い水色の小さい車でさ
女性に人気の車種で
コンセプトも
「女子でもどこでも」
だったかな
特に若い女の子に人気の車
それで
その水色の車の持ち主であろう若い女性が
大きな登山リュックを背負って
登山道へ向かう後ろ姿が見えたんだ
そしたら
元々先に停まっていて
人待ちかなと思っていたあの黒い車から男が降りてきて
その女性をね
まるで追うように登山道へ入って行ったの
大きなリュックは背負っているけどかなり軽そうに見えた
それだけ
ただ
そうなの
本当にそれだけのことなんだけど
何だかね
それが
凄く嫌な感じがしたんだ
私は
「ねぇ、ねぇ、どうしよう、やだよ、怖い」
と何の説明にもならない焦りだけをね
車のトランクにタンクを置く友人にぶつけてしまったんだよ
でも友人は
私の
その滑稽にすら見えていたであろう慌てた顔と気迫に押されたのか
「分かった分かった、落ち着け、どうした?」
と聞いてくれた
私は登山道への入り口を指差しながら
「嫌な感じがするんだ」
とね
もう半分は登山口に走りながら友人にそれを話した
友人は
「考えすぎ」
と笑うことなく
足を早めてくれた
2人とも山に登るつもりはないから
身軽なのが幸いして
すぐに
男が女性の後を尾けているのを見掛けた
(考えすぎなのかもしれないけど)
私と友人は
あまりの体力のなさにすでに息切れしていたけれど
その男を追い抜いて
更にしばらく先を歩く女性に声をかけた
まだ登り初めの段階で
すでにゼーゼーと息を切らしている私と友人に女性は驚いていたけれど
「あなたの車から変な異音がしてる」
と男に聞こえない様に嘘を吐くと
慌てるその女性と共に男の横をすり抜けて登山道から下に戻った
戻る途中に振り返ったら
男が
じーっとこっちを見ていた
ただの好奇心かもしれないけど
ただ無表情で
じーっと
こちらを見ていた
女性には駐車場で事情を説明し
嘘を吐いたことを謝った
本当にただの登山の人間なのもしれないし
いや
きっとそうなのだと思う
でも
その時だけはどうしても変だった
女性は
私たちに不審さを
不愉快を見せるわけでもなく
腹を立てることもなく
「いえ……教えてくれてよかったです」
と今は誰もいない登山口をじっと眺めてから
「今日は帰ります」
と言うため
一応安全のためにも
先にある道の駅まで彼女を先に走らせながら
私は
(やっぱり考えすぎだった考えすぎだった考えすぎだった)
と早とちりを酷く後悔し始め
道の駅で
登山のために準備した時間や今日を台無しにしたことを改めて女性に謝った
けれど
「……実は、家族には一人登山は反対されていたんです」
と教えてくれた
でも一人が楽で
今日も現地集合で友達と登ると嘘を吐いて来たと
なぜそこまでして
家族に嘘を吐いてまで?
と思うけれど
一人だとペース配分も楽で相手に気を遣わなくていいし気楽なのだと
そういうものなのか
というか
そこまでして登りたいものなのか
山というものは
山登りに興味がないため全く理解できない
ほんのお詫びに
最近はやたらお洒落な道の駅でせめてもと土産物を多めに買い与え
別れ際には
彼女が同じ県内に住んでいることが分かり
友人の方もお詫びの印も込めたのか
ケチだから滅多に出すことのない
友人のカフェの無料チケットを渡すと
「わぁ、絶対行きます!」
と
今日初めて
彼女の明るい笑みを見られた
それから
どうしても気になって
別に何ができるわけでもないけれど
2週間後に
またあの登山口の駐車場まで1人で行ってみたんだ
当然だけど
あの男の車はなかった
でも
なんとなく
あの男は
ただ河岸を変えただけだと思った
やっぱり
自分の勘を盲信するつもりは到底ないけれど
どうしてもどうしても
あの時は
何かがおかしく感じたんだ
そう
それで
それから気になって
ネットで色々調べてたんだけど
私たちが行ったところではなかったけれど
わりとそこから近くの山で
山に登っては1人で山に登る女性に痴漢を繰り返している男がいて
すでに警察沙汰にもなっていると聞いた
ただ山には防犯カメラもない人もいない
証拠も残りにくいで本当に捕まりにくいらしい
なんなら男の人も襲われるって聞いて
別の意味で山が怖くなったよ
あぁこれは蛇足だけどね
登山のお姉さんは後日
友人のカフェに来てくれたよ
それでさ
ソロ登山は諦める代わりに
「一緒に山に登りましょうよ」
とぐいぐい来られて
友人が毎回断るのが難儀なくらいの常連になってくれている
「山登りかぁ
インドアな私たちには無縁な趣味じゃん
ってか責任持って一緒に登りなよ
保険はしっかりね
湧き水の珈琲って美味しいの?
まあまあ?
正直だな、おい
ってあれ?
あ、私が最後か
あー私も大したことないけど愚痴がてら聞いて
うん
主に愚痴だから
お付き合いして数ヵ月の彼氏と
まだ若干明るい時間だったけどさ
ラブホテル入ったの
ほらあそこ
高速のさ
ラブホが数軒建ってるとこあるでしょ
あそこの1つ
そう狭くもない部屋だったよ
最近のラブホの定番のアジアンリゾート風でさ
なかなか良かったんだよ
なのにさ
部屋入るなり
ラタンソファと壁の隙間に
膝抱えてうずくまってる
作業着みたいなの着た男いてさ
え?
なにこれ?
誰?
凄いびっくりしたけど
彼氏は何も見えてないみたいで
私は
彼氏がトイレへ行ってる間に
慌てて履いてたスリッパを手に持ち直して
試しにそいつを叩いてみたけど
スリッパは壁とソファの間で宙を空振るだけ
「???」
何これ?
え、幽霊?
なら除霊?
塩?
でも塩なんかないし困ったなと思ったら
「あぁそういえば」
と思い付いたんだよ
部屋にあるさ
でかい空気清浄機をよっこらよっこら持ち上げて運んで
作業着さんの前に置いたのよ
作業着さんは少しもがいてた見えたけど
すぐにね
気清浄機に吸い込まれて消えた
私はさ
一仕事終えた気分で
トイレから出てきた彼に先にシャワーを勧めたんだ
初めてでいきなり一緒にお風呂はさすがにね
恥じらいも必要
彼を風呂場に押し込んで
何か飲もうかなと無駄に隠される冷蔵庫探そうとしたらよ
今度は
6階建ての4階
ベランダなんてないはめ殺しのガラス窓を
外からバンバン叩かれたんだよ
カーテン開けたらさ
ご丁寧に手の影まである
実は今日はさ
奥手の彼氏をね
何とか言いくるめてあの手この手で口説き落としてね
いい加減食わせろやとね
やっとこさよ
ここまで連れ込んだ日だったからさ
もう色んな意味で限界でさ
窓に向かって
「お前等は今日
この日まで私がどれだけ耐えて粘って
彼を口説き落としたと思ってんの?
邪魔したら解ってるよな?
覚悟できてんだろうなお前等?」
って
窓に向かって全身全霊の気合い込めてガラス越しに凄んだら
窓バンバンは止んだ
よし
いいぞ
聞き分けいい奴は好感持てるわ
それでさ
そわそわしながらお風呂から出てきた彼に
「私もシャワー浴びるね~♪」
なんてね
彼には気付かれないように
「邪魔すんなよ」
って部屋を一通り睨み倒してから滝修行の勢いでシャワー浴びて
急いで出たのよ
なのによ
そう
ここに来てピヨッちゃう彼氏よ
可愛いわね
じゃあ少しリラックスしようか~と部屋を見回したら
そういや
部屋の一角で今更存在感を放つ酸素カプセルがあった
そうだった
部屋に入るなり予想外に忙しくて
目にも止まらなかった酵素カプセル
アジアンテイストの部屋で無茶苦茶浮いてるのにね
あぁそうだ
部屋選ぶ時も
「え~どこにするぅ~?」
なんて身体を無駄にくねらせながらさ
内心は
(もうやれるならばどこでもいい)
と適当に部屋のパネルボタン押したから忘れてたけど
こんなんあったね
これに押し込めばダーリンの緊張もほぐれるかと
「ちょっと入ってみる?」
なんて酵素カプセル開いてみたらさ
うん
全裸のおじさんが横たわってたよね
空気清浄機で何とかなるタイプでなく
明らかに生存してるおじさん
生おじさん
なんかね
私たちの前の時間にデリヘルを呼んでたみたいで
デリヘルのお嬢さんとのあれやこれやの如何わしいコトが済んでから
好奇心で入ってみた酸素カプセルが思わぬ快適さで
爆睡しちゃってたらしい
おい
ホテルのバイトと清掃
客の出入り管理と掃除が杜撰すぎるだろうよ
ホテル代は返金して貰ったし
割引チケット貰ったけど二度と行くかだよ
それでさぁ
やっぱりそのあとは彼氏がやる気なくしてさ
もう絶対
あの地縛霊だか窓バンバンとか何だかのせいだよね
え?
生おじさんのせい?
そうかなぁ?
うん
そう
つい一昨日の話よ
結局彼氏も食い損ねたし
……
何?
ちょっと言いにくい?
何が?
え?あんたも?
うん
怒らないよ何?
言ってよ
2人してさ
え?
……
彼氏はがっつきすぎの私に一番引いてた?
えー?
発情期のメスゴリラ?
ははっ
おい
表出ろ