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3.ある夫妻


3.ある夫妻

リツの高解像度コンタクトレンズには、ユイの視界がリアルタイムで同期されていた。 彼女が見ている世界を、リツも同時に見ている。

彼の端末が震える。 「胎児モニタリング警告:心拍数変動検出」

「ナツ、大丈夫か?」

三人目の子供を宿したナツは、体調モニタリングカプセルの中で微笑んだ。 「大丈夫よ。この子、活発なだけ」

リツ、32歳。中堅IT企業のバーチャルプロジェクトマネージャー。 妻のナツ、31歳。在宅遺伝子デザイナー。 彼らには二人の子供がいる。長女ユイ、5歳。長男ケン、3歳。

そして今、三人目を妊娠中だ。

彼らの住むのは、居住タワー第5ブロック。 高級住居区画には、合成木材の床、本物の植物、そして窓がある。 外の景色を直接見られる贅沢。

「出産権は高かったけど、それ以上の価値があるわ」 ナツは自分のお腹に手を当てながら言った。

彼らは自分たちの出産権を二人の子供のために使った。 一つ買い足した出産権で、今度は三人目だ。

「高すぎるね」 リツはため息をついた。 「でも、この子が生まれれば、家族五人分のベーシックユマが入る」

それは計算的な言い方だった。 しかし、子供たちの画像を見つめる目は、計算だけでは説明できない愛情に満ちていた。

端末に表示される家族の資産状況: 「月間ベーシックユマ収入:1174ユマ(大人2+子供2)」 「追加収入リツ:850ユマ」 「追加収入ナツ:380ユマ」 「出産権ローン返済:-450ユマ」

子供が増えれば、基本的なユマも増える。 生活は少しずつ豊かになる。

リツはホログラフィックスクリーンに映る仕事データを左にスワイプし、家族写真を表示させた。 笑顔の家族。明るく照らされた部屋。

それは、このハイテク社会の中で人々が求める、古典的な幸福の形だった。

「ナツ、エコー検査の予約、明日だったよね?」 「ええ、9時からよ。怖いわ」 「なんで?」 「もし…双子だったら、どうする?」

リツは口を閉ざした。 双子。 それは出産権取引で最も扱いにくい問題だった。

この制度では、出産権がない命は、「選択」を迫られる。 制度上は、片方を「正規出生」、もう片方を「廃棄」とするしかない。 あるいは、急遽出産権を一つ購入するか。

リツは計算してみた。 出産権をもう一つ購入すれば、すべての貯金が吹き飛ぶ。 さらに20年のローンが増える。 だが、その代わりに…

「もし双子なら、もう一つ買うよ」 彼は静かに言った。 「家なんて、後回しでいい」

彼らの住居は、まだローン中の賃貸物件だ。 購入するつもりで貯金していた。 それが無くなっても、リツは迷わなかった。

なぜなら、人間通貨の時代において、命は最も確実な投資だから。


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