9話
レーヴェンシュタインのキャラバンがシュヴァルツフェルト領を発つ朝、村全体が活気づいているかのようだった。鉄塩商会から急遽送られてきた空の荷馬車まで動員され、山のような米俵が果てしなく積み込まれていった。
領民たちは道端に出てきて、遠い道のりを旅立つ商人たちに手を振って見送った。彼らの顔には、単なる見物の楽しさを超えて、自分たちの汗と努力がついに外の世界へ出ていくのだという、ときめきと期待が宿っていた。
「お気をつけて、レーヴェンシュタイン殿」
領主城の門前で、アルブレヒトが最後の挨拶を交わした。彼の傍らには、ヴァレンティン卿が黙って立っていた。
「領主様のご配慮、深く感謝いたします。お約束は必ず守ります。我々商会は、約束を命のように重んじますので」
レーヴェンシュタインはここに来て、自身の価値観が変わりつつあるのを感じていた。常に成功と歴史に足跡を残すことだけを目指して生きてきた彼にとって、アルブレヒトの善意は実に斬新なものだった。
彼の目には、アルブレヒトが聖人のように映っていた。優れた人格と優れた能力。どちらの点においても不足のない、まさに完璧な領主だった。
(まったく、将来は大物になるやもしれんな)
そう思いながら、レーヴェンシュタインはしばしの間、情が移ったシュヴァルツフェルト村を後にした。
数日間の旅程の末、キャラバンはついに巨大な商業都市ヴァルデンブルクの城門に到着した。シュヴァルツフェルト領とは比較にならないほどの活気と騒音、そしておびただしい人波がレーヴェンシュタインを出迎えた。彼はまっすぐ鉄塩商会の巨大な本部建物へと向かった。
商会の倉庫区画はすでに慌ただしく動き回っていた。レーヴェンシュタインのキャラバンが到着すると、荷役人夫たちがどっと押し寄せた。
「こいつは何ですかい? 麦ですかい?」
一人の人夫が見慣れぬ形の米俵を見て尋ねた。
「米というものだ。丁重に扱え。非常に貴重な品だぞ」
レーヴェンシュタインが厳しく言うと、人夫たちは好奇心に満ちた目で俵を運び始めた。倉庫管理人は、終わりなく運び込まれる米俵の量に驚き、口をあんぐりと開けていた。
「こ、この膨大な量が、全てその『米』とやらなのですか?」
「そうだ。急いで分類し、目録を作成しろ。商会長にご報告せねばならん」
レーヴェンシュタインは倉庫作業を指示し、自身はすぐに商会長イョルクの執務室へと向かった。イョルク・フォン・ラインベルクは、鉄塩商会を小さな行商組織から王国全体に影響力を行使する巨大商団へと育て上げた、立志伝中の人物であった。彼は年は取ったものの、依然として鋭い眼光と隙のない判断力で商会を率いていた。
「戻ったか、レーヴェンシュタイン。それで、あのシュヴァルツフェルト領はどうだったかな? 君の表情を見るに、手ぶらで帰ってきたわけではなさそうだな」
イョルクは書類から目を離し、レーヴェンシュタインを見つめた。彼の声は低く落ち着いていたが、その中には相手を見透かすような力が宿っていた。
「商会長。期待以上でした。いえ、想像を絶しておりました」
レーヴェンシュタインは興奮を隠せずに報告を始めた。彼は米の味と食感、領民たちの反応、そして何よりもアルブレヒト領主が成し遂げた驚異的な収穫量について詳しく説明した。彼はあらかじめ準備しておいた小さな米袋をイョルクの机の上に置いた。
イョルクは黙って米粒を手のひらに取り、注意深く観察した。彼の経験豊かな目は、即座にこの穀物の非凡さを見抜いた。
「…それで、どれだけ確保した?」
イョルクが核心を突いた。
「2000俵から2100俵の間です。都市民全員が一月半は食べられる量かと」
イョルクの眉がわずかに上がった。人口300人の領地から出た量とは信じがたい数字だった。
「…値段は?」
レーヴェンシュタインは一度唾を飲み込み、最も重要な部分を報告した。
「一俵あたり…銀貨1.5枚です」
「なんだと?」
イョルクの目が瞬間的に見開かれた。彼はレーヴェンシュタインが聞き間違えたか、あるいは自分が聞き間違えたのだと思った。
「もう一度言ってみろ。一俵あたりいくらだと?」
「銀貨1.5枚です。麦と同じ価格です」
イョルクはしばし言葉を失った。彼はレーヴェンシュタインが持ってきた米粒を再び指で転がしてみた。これほどの品質の新しい穀物であれば、最低でも銀貨10枚、いや、うまく売れば15枚まで行けるはずだった。
「アルブレヒトはそれほど甘い男ではないはずだが? どうやって丸め込んだ?」
「私が丸め込んだのではありません。むしろ、向こうから提示してきたのです」
「米の価値を知らなかったとでも?」
「いいえ。正確に把握していました。適正な買い取り価格を8枚程度だと考えておいででした。それでも敢えて1.5枚で受け取ったのです」
レーヴェンシュタインは、アルブレヒトが価格を下げた理由、すなわち全ての人々がこの米を味わえるようにという彼の願いと、その見返りとして鉄塩商会にも暴利を貪らないでほしいという条件を説明した。
イョルクは顎鬚を撫でながら深い考えに沈んだ。彼の頭の中では複雑な計算が行われていた。短期的な利益だけを見れば、アルブレヒトの条件を無視して米を高く売り、莫大な富を築くこともできた。しかし…
「ぷっ…」
「商会長?」
「ぷはは! やっと分かったぞ」
「は?」
レーヴェンシュタインはこの文脈で突然笑い出した商会長を理解できなかった。
「君は騙されたのだな」
「は? 大きな利益を得ましたが」
「いや、アルブレヒトは私が知る限り、徹底した男だ。座して損をするような男ではない。彼が非常に安い価格で米を渡した理由は、おそらく…」
「おそらく?」
「米の生産によって短期間に過大な富を築けば、他の貴族たちが脅威と見なし、シュヴァルツフェルトを攻撃するだろう。そうなれば、備えのないシュヴァルツフェルト家はどうなる?」
「滅亡…するでしょう」
「その通りだ。アルブレヒトはわざと米の価値を低く見せかけることで、まず人々の心をつかみ、貴族たちの嫉妬をも避けようという長期的な戦略を立てたのだ。一種の『愚か者の策』だな」
レーヴェンシュタインは混乱した。彼が見たアルブレヒトの姿は、民衆からも愛され、能力もある聖人のような人物に見えた。そんな人物が自分の利益のためにわざとそんなことを? 考えにくかった。
「商会長、会長はご覧になっていないからご存じないでしょうが、アルブレヒト領主は素晴らしい人格者でいらっしゃいました。自ら民と共に畑仕事をされ、民もアルブレヒト領主を気兼ねなく遇していました。彼は立派な人格者です。単なる善意である可能性が高いと見ています」
「ふむ、今はそうなのか? 私が知っているアルブレヒトは全く違うのだがな」
「は? どのように違うと仰るのですか?」
「知りたいかね?」
イョルク商会長の口元に弧が描かれた。彼の目は遠くを見つめていた。その遠い場所の名は、過去だった。
イョルク商会長が初めてアルブレヒトに出会ったのは15年前、王立中等アカデミーの卒業式の時だった。
当時、平民出身で巨大商会を築き上げた立志伝中の人物として名を馳せていたイョルクは、世間の話題となっていたため、アカデミーの卒業式に招待され、スピーチをする機会を得た。
そこでアルブレヒトに初めて出会った。スピーチの後、生徒たちの質問を受けている状況で、一人の少年が手を挙げた。全てに疲れ果てたかのような気だるい眼差し、万事が面倒くさそうな態度、しかしその眼差しと態度からは、徹底的に教育された者の知性が感じられた。イョルクは何かに引かれるように、アルブレヒトを指名した。
「はい、そこの君」
「失礼します。アカデミー卒業生、アルブレヒト・フォン・シュヴァルツフェルトです。質問よろしいでしょうか?」
「もちろんだとも。どんな質問かな?」
「イョルク殿は無一文の荷役人夫から身を起こし、一つの商会を築き上げた立志伝中の方だと伺いましたが、具体的にどのような点が、他の人々とイョルク殿を分けたのでしょうか?」
面白い質問だったので、イョルクは内心で「ほほう」と笑った。そしてすぐに答えた。
「うむ、私の場合は数字の計算が得意だったな。多くの桁の暗算とそろばんを扱う能力に長けていて、当時の商会長の目に留まったのだ。最初は会計を任され、やがて行商人となり、その後は町の商人、そして中堅商人を経て商会長まで上り詰めたというわけだ」
「では、その当時と比べて、現在はどうですか?」
「そろばんは今でもよく触れているから、腕は上がっていればこそ、落ちてはいないと思うがね」
「失礼な物言いとは存じますが、その腕前を見せていただくことは可能でしょうか?」
「無論。誰か、そろばんを持っている者は?」
生徒の一人がよく使うそろばんを持ってきた。教授の一人が問題を出すと、イョルクは手元が見えないほどの速さでそろばんを弾き始めた。数秒も経たないうちに、イョルクは計算を終えた。
「答えは64886だ」
「正解です! さすがは、素晴らしい腕前ですな!」
教授の言葉に、生徒たちは一斉に拍手した。イョルクは自信満々な表情で、どうだと言わんばかりにアルブレヒトを見やった。しかし…
「……」
アルブレヒトは依然として気だるく、万事が面倒くさそうな眼差しで虚空を見つめているだけだった。
(なんだ。賢い奴かと思えば、ただの馬鹿だったか)
そう思い、イョルクはアルブレヒトへの関心を失った。
生徒たちとの質疑応答が終わり、帰り道で『あの音』を聞くまでは。
どこからか、恐ろしい速さでそろばんを弾く音が聞こえてきた。
吸い寄せられるように近づいた先には、恐ろしい速さでそろばんを扱い、高い桁数の数字を計算しているアルブレヒトの姿があった。
イョルク自身と互角に渡り合える速さで、いや、もう少し練習すれば自分よりも速い速度でそろばんを扱っていた。
その光景を見たイョルクは驚愕し、教授たちにアルブレヒトについて尋ねてみた。
すると教授たちはこう答えるのだった。
「あの子ですか? 天才ですよ。特に熱心にやっているわけでもないのに、常に成績は上位ですからな」
「真面目に努力すれば歴史に名を残すでしょうに…」
「大した才能ですよ。実に惜しい」
その言葉を聞いて、ようやく全てを悟った。
(奴は…全てがつまらなかったのだな)
他の人々が特別だと言う全ての才能が、あまりにも、つまらなかったのだ。
時は再び現在に戻る。
「だからこそ、私はレーヴェンシュタイン、君を高く買っているのだよ。君は若い頃のアルブレヒトに似ているからな」
「私が…あの方と?」
あのへらへらと笑う人の良さそうな領主と自分が似ているだと? 彼の少年時代など想像もつかなかった。
「下がってよい。アルブレヒトには、約束は確実に守ると伝えてくれ。ただでさえ賢い男が米という強力な武器まで手にしたのだ、彼を敵に回したくはないのでな」
「…承知いたしました」
果たして、それほどの人物なのだろうか。疑問は残ったが、レーヴェンシュタインは静かに頭を下げた。