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7wa

ザクッ、ザクッ。よく研がれた鎌が稲の茎を刈る音が、軽快に響き渡る。田植えの時に歌った労働歌が再び野に響き渡り、人々は互いの呼吸を合わせ、リズミカルに稲を刈り進めていった。


子供たちは刈り取られた稲束を運ぶ大人たちを手伝い、老人たちは畦に腰を下ろし、満足げな微笑みを浮かべてこの豊かな光景を見守っていた。数日にわたる大規模な収穫作業は骨の折れるものだったが、誰一人疲れを見せることなく、楽しげに働いていた。


アルブレヒトもまた、領民たちと肩を並べて汗を流し、稲束を運んでいた。その背後では、老騎士ヴァレンタイン卿が彼を補佐し、万が一の危険に備えていた。


収穫が終わり、脱穀作業が始まった。


製粉所の主マックスが指揮を執る脱穀場には、山と積まれた稲束が果てしなく続いていた。唐箕とうみを回す音と共に、黄金色のもみがパラパラとこぼれ落ちるたび、人々の歓声が上がった。


「なんということだ、マックス! うちの製粉所の倉庫に、これが全部入りきるのか?」

「ご心配なく、領主様! 倉庫が足りなければ、新しく建てればいいんです! これほどの豊作なんですから、何だってできますよ!」


脱穀と精米を経て、ついに真っ白な米粒が姿を現した。その量は、実に膨大なものだった。領地全体の倉庫を満たしてもなお、余りあるほどだったのだ。


アルブレヒトは領地の全世帯を対象に、公平な分配を開始した。彼は一晩中アルテミスと共に、各家庭の家族構成や労働力を考慮し、次の収穫期まで十分に食べていけるだけの量を計算したのだ。


翌日、領民たちはそれぞれの袋や籠を手に、領主城前の広場に集まった。アルブレヒト自らが天秤を使い、正確に米を分け与えていく。


「ありがとうございます、領主様! これで冬も飢える心配はありません!」

「この米さえあれば、うちの子らもまるまると太るだろうて!」


米を受け取った領民たちの顔には、心からの感謝と安堵の微笑みが満ちていた。ずっしりと重い米袋を肩に担いで帰っていく彼らの足取りは、いつになく軽く見えた。


全ての世帯への米の分配が終わった後、アルブレヒトはがらんとした広場とは対照的に、依然として山のように積まれた米俵を眺めていた。領民全員が次の収穫まで食べる分を分け与えてもなお、信じられないほどの量の米が残っていたのだ。


(これをどうしたものか……?)


単に倉庫に積んでおくには、あまりにも量が多すぎた。鼠や害虫の被害も心配だし、何よりもこの貴重な穀物を無駄に腐らせるわけにはいかない。その時、彼の脳裏に新しい考えが閃いた。


(これを売ってみてはどうか?)


この米は味も良く、この地域では全く見られない新しい作物だ。都市の裕福な商人や貴族たちは、きっと興味を示すに違いない。もしこの余った米を売ることができれば、その金で領地の不足している部分を補うことができるはずだ。古い農具を買い替え、城壁を補修し、あるいは領民たちにもっと良い生活環境を提供できるかもしれない。


だが同時に、リスクも伴う。この『奇跡の作物』の存在が外部に知れれば、貪欲な者たちの標的になりかねない。特に、シュバルツフェルト家のような力のない辺境の男爵にとっては、分不相応な富はかえって災いを招く可能性もあった。


アルブレヒトは悩みに沈んだ。夜遅くまで領主城の執務室で、一人蝋燭の灯りの下で考えに耽った。彼はアルテミスに、慎重に尋ねてみた。


「アルテミス、もし……この余った米を他の都市で売るとしたら、どれくらいの価値が付くだろうか? それと、どの商人に接触するのが良いだろうか?」


『データ分析の結果、『米』の栄養価、希少性、そして記録された嗜好性を考慮すると、この惑星の既存の主食作物である小麦や大麦の少なくとも5倍以上の価値を持つと推定されます。特に貴族や富裕層の間では、美食の材料としてさらに高値で取引される可能性があります。近隣都市の中では、港湾都市『フリッツハーフェン』及び内陸商業都市『ヴァルデンブルク』の大規模商団と接触することが最も効率的と判断されます。当該商団の信用度及び取引規模データは以下の通りです……』


アルテミスは膨大な情報と共に、いくつかの有力な商団の名前と特徴をスクリーンに表示した。アルブレヒトはスクリーンを見つめながら、深い思考に沈む。リスクを冒して新たな道を開拓するか、それとも安全に現状に満足するか。


結局、彼は決断した。この機会を逃すわけにはいかない。これは単に金銭を得るという問題ではなく、痩せた領地を立て直し、民の生活を改善できる絶好の機会なのだ。


彼は羊皮紙を取り出し、羽根ペンにインクを浸した。アルテミスが推奨した商団の中で、最も信頼度が高そうに見えた二つ――フリッツハーフェンの『青きあおきほ商団』とヴァルデンブルクの『鉄塩てつえん商会』の代表に宛てて、手紙を書き始めた。


「拝啓、青き帆商団(鉄塩商会)代表殿」


彼は丁寧かつ簡潔に自己紹介をし、自身の領地で特別で味の良い新しい種類の穀物、コメを大量に収穫し、その一部を販売する意思があることを伝えた。米の素晴らしさを簡単に説明し、もし興味があれば返信をくれるか、直接領地を訪れて品質を確かめてほしいと、丁重に依頼した。


手紙には、米の起源に関する詳しい説明は省いた。あまり多くを明かすのは、まだ危険だと判断したからだ。彼は慎重に手紙を封蝋し、家門の印章を押した。


翌朝、アルブレヒトは最も信頼するヴァレンタイン卿に、二通の手紙を託した。


「ヴァレンタイン卿、この手紙をそれぞれフリッツハーフェンとヴァルデンブルクへ、最も早い便で送ってくれ。重要な書状だ、信頼できる者に託さねばならん」

「承知いたしました、領主様。直ちに手配いたします」


ヴァレンタイン卿は手紙の内容について尋ねることはなかった。ただ黙々と、主君の命令を遂行するのみだった。


手紙が送り出され、アルブレヒトは窓の外に広がる、再び黄金色に染まった野と、今や米で満たされた倉庫を眺めた。賽は投げられた。あとは、ただ待つだけだ。果たして、遠い都市の商人たちは、この片田舎の領主の提案にどのような反応を示すだろうか? 彼の胸中には、期待と不安が交錯していた。彼の小さな領地は今、未知なる大海原へと、最初の帆を上げたのだ。


時間は有限である。それが『鉄塩商会』の商人、レーヴェンシュタインの持論だった。


人は誰しも与えられた寿命があり、その限られた時間を最大限効率的に活用し、人類史に足跡を残さねばならない。レーヴェンシュタインは、それが自らがこの世に生を受けた理由だと信じていた。


ゆえに、今従事している仕事は甚だ不本意であった。シュバルツフェルト。海辺にある小さな都市の名だ。


いや、都市と呼ぶのが果たして正しいのか? 男爵領とはいうものの、人口三百人規模の小さな村に過ぎない。かつては数千人に達した時期もあったらしいが、土壌の痩せと先代領主の内政失敗により、人口は激減したという話だった。


「こんな場所で時間を浪費せねばならんとは……」


しかし、今回の命令を無視することはできない。商会長直々の命令だったからだ。「今代の領主アルブレヒトは、決して虚言を弄するような男ではない」とか何とか。


(どうせ田舎男爵の勘違いに決まっているだろうに)


レーヴェンシュタインは内心で毒づきながら、馬車を進めた。その傍らでは、馬に乗った護衛たちが隊列を組んで警護している。


あまりの田舎ゆえに山賊すら出没しないような場所ではあったが、それでも万が一ということがある。用心するに越したことはないだろう。そう考えると、金ばかりかかってまともな収益性も見込めない案件であることは明らかで、レーヴェンシュタインの気分はますます沈んでいった。


(商会長も、お歳を召されたものだな)


こんな僻地に自分を派遣した商会長への不満を込めて、レーヴェンシュタインは再び首を横に振った。そしてしばらく進むと、視界に黄金色の野が広がってきた。


「あれは……麦か?」


麦があのような色を見せるものだったか? 近づいてよく見ると、麦とは少し様子が違う。わずかに緑がかっており、より密集しているようだ。こんな痩せた土地で麦を育てても、これほど豊かには育たないはずだが?


作物をしげしげと眺めていると、通りかかった村人が怒鳴り声を上げた。


「貴様、何者だ! この米泥棒め!」

「米?」


手紙に書かれていた『米』というのが、これのことか? と物珍しそうに見ていると、農夫が近づいてきた。


「おや? よく見れば米泥棒じゃなくて、商人様じゃないですか?」

「いかにも。新しく栽培した作物があると聞いて、買い付けに来たのだが」

「へぇ! そりゃあようこそ! これが本当にどれだけ美味いか、あんたも知らねえだろう。好き嫌いの激しかったうちの子でさえ、この米さえあれば飯を二杯はぺろりと平らげるんでさあ」

「飯?」

「米で作ったパンでさあ! まあとにかく、来て食ってみてくだせえ! こっちだ! こっち!」


村人は手招きすると、すぐに自分の家へと案内した。みすぼらしい家だったが、その中からは実に食欲をそそる良い匂いが漂っていた。


「おっと。こいつはうちでも祭りの日にしか食わねえもんなんだが。商人様だから特別にお出しするぜ。うちの特製! ニシンの塩漬けとごゴハンでさあ!」

「ご飯、とな……」


ニシンの塩漬けはどこでもよく食べられるもので、特に珍しくはない。このニシンもそうだろう。だが、この『ご飯』というものは……。


(珍しいな)


どうやら、アルブレヒトという人物が虚勢を張っていたわけではなさそうだ。ふわりと立ち上る柔らかな湯気、そして一粒一粒が寄り添うようにくっついているその姿は、これまで見たことのない代物だった。


「さあさあ、遠慮なさらず! そこのスプーンで掬ってくだせえ!」

「うむ」


米を匙で慎重にすくい上げる。そして口に含んだ瞬間、脳天を撃ち抜かれるような強烈な衝撃。


「これは……!」


確かに。これだけでも美味い。だが、この暴力的なまでの美味さの本質は、これ単体で味わうものではない。これは……!


(魚と一緒に食べれば、さらに美味いだろう!)


フォークでニシンを大きく切り分ける。そしてニシンを咀嚼した後、ご飯を口に含み、もぐもぐと数回噛みしめると……。


「ご、極楽……!」


ご飯特有のふくよかな甘みと柔らかな食感は、まるでヴァルデンブルクの製紙所で作られた特製の高級紙のようだ。ニシン特有の塩辛い旨味を最大限に引き立て、包み込んでいる。どんな文字でも滑らかに書ける紙のように、どんな食材とも完璧に調和するのだ。


ニシンを食べるとご飯が欲しくなり、ご飯を食べるとニシンが欲しくなる。無我夢中でニシンとご飯を交互に口に運び続け、気づいた時には、皿は空になっていた。


「しゅ、主人。金ならいくらでも出すから……」

「金なんていらねえよ! どうせ米なら有り余ってるんだ。美味そうに食ってくれりゃ、それで十分ってもんさ! ほら、次のお代わりだ」


再び差し出されたニシンの塩漬けとご飯の器。レーヴェンシュタインは、エリート商人であるという自覚すら忘れ、夢中で三杯も平らげてしまったのだった。

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