2WA
倉庫の扉の前に立ったアルブレヒトは、用心深く扉へと近づいた。
「ここが倉庫か?」
『はい。扉を開かれますか?』
「開ける」
シュゥゥゥン。奇妙な音とともに、扉が自動で開いた。従者や他の誰かがいるわけでもないのに、自ら扉が開くとは実に不思議なことだった。行ったことはないが、首都の王宮にもこのような仕掛けはないだろう。
『倉庫区画です。所有者のアクセスを許可します。』
扉が左右に開くと、アルブレヒトは瞬間的に目を細めた。倉庫の内部が思ったよりも明るかったからだ。広い倉庫にいくつもの照明が灯っており、自然と目が痛くなるほど眩しかった。普段、人工的な光に慣れていない中世人である彼にとってはなおさらだった。
『所有者の不快感を感知しました。光量を下げます。』
やがて光が少しずつ暗くなり、適度な明るさのその光を見て、アルブレヒトはようやく安堵感を覚えた。アルブレヒトはずんずんと前へ進んだ。
「これは一体なんだ?」
『先ほどご覧になったのは武器です。戦闘が発生した場合に備え、用途に応じた武器を用意してあります。』
「これが武器だと?」
アルブレヒトは武器の一つを手に取った。電磁小銃だった。
「軽い上に頑丈だな。こうやって持って殴りつけるのか? これなら完全武装の騎士どもも仕留められそうだ。」
『逆です。引き金を引けば弾丸が発射されます。』
「弾丸?」
『この世界の文明レベルで例えるなら…矢のようなものです。』
「この武器は鈍器ではなくて弓だというのか?」
『はい。簡単に言えばそうです。より正確には、石弓に近い武器と言えるでしょう。もちろん、その性能は石弓とは比べ物になりませんが。』
「ふむ… 珍しいな。今度一度、試してみることはできるか?」
『艦内には訓練場があります。』
アルブレヒトは頷き、さらに前へと進んだ。
「これは鎧のようだな。」
『鎧は先ほど通り過ぎられました。それは防護服です。』
「鎧? 防護服? 何が違うのかは知らんが……。ああ! これは分かるぞ。鋤だ!」
『はい。多用途耕耘機です。ボタンを押されますと…』
AIが言葉を続ける前に、アルブレヒトは耕耘機のボタンを押してしまった。瞬間的に水が噴き出し、アルブレヒトの服が濡れた。
『…乾燥した土壌を耕しやすくするために水分を放出したり、逆に水分を吸収したりできます。人間の水分は吸収しないよう設定されていますが、万が一事故が起こる可能性もありますので、ボタンの詳しい用途については私にお尋ねください。』
「…すまない。」
『アルブレヒト様は農機具に精通しておられるようですね。この開拓船内の農機具と種子を利用されれば、この惑星の平均よりもはるかに優れた収穫量を記録できるものと思われます。』
「種子だと!? 種子もあるのか!?」
『はい。生産性を重視した種子、生産性は劣るものの味が非常に優れた種子、あらゆる面でバランスの取れた種子など、様々な作物の種子があります。』
「一つくれ!」
『30メートル前方へ進まれれば、種子保管庫があります。』
30メートルがどの程度の距離なのかは分からなかったが、種子が見つかるまで歩いた。すると、本当に種子保管庫のような場所が現れた。
「これは?」
『稲の種子とトウモロコシの種子です。ここは地中海性気候と分析されたため、通常の稲は育ちませんが、3番種子と4番種子であれば生育可能と判断されます。』
「稲? 聞いたことがないな。それはどんな作物なのだ?」
『味が優れ、生産性の良い作物です。最初に植えてみることを推奨する作物です。』
味に優れ、さらに生産性まで良いとは! アルブレヒトはすぐさま3番と4番の種子を持って、外へと向かった。今夜すぐにでも、この稲というものを植えてみるつもりだった。
アルブレヒトは重い種子袋二つを胸に大事に抱え、慎重に宇宙船の外へ出た。夜の帳は依然として濃く、湖畔には不時着の痕跡以外、何も変わったことはなかった。冷たい夜気が肺腑を刺したが、彼の心は得体の知れない期待感で熱くなっていた。
『稲か… 味も良く、生産性も高いと言っていたな。』
もしそれが真実ならば、痩せたこの土地と飢えに苦しむ民にとっては、神の祝福にも等しいだろう。だが同時に、恐れも押し寄せてきた。この正体不明の種子が、果たしてこの土地でまともに育つのだろうか? もしかしたら、予期せぬ災いを呼び込むのではないか?
『いや、まずは植えてみなければ分からない。そしてこれは… 秘密にしなければ。』
アルブレヒトは本能的に感じていた。この奇跡のような種子の存在が知られれば、どんな混乱が起こるか分からない。貪欲な他の貴族たちや、異端として断罪しかねない教会、あるいは未知の存在を恐れる民衆の反応まで。
彼はまだ、この「稲」という作物について何も確信が持てなかった。成功するまで、いや、少なくともこれが安全だという確信が得られるまでは、徹底的に隠し通さねばならなかった。
彼は湖畔から少し離れた、自身の領地の中でも最も辺鄙で目立たない小さな空き地を思い浮かべた。森に隣接し、土地も比較的肥沃だが、あまりに隅っこにあるため、普段は人の足がほとんど向かない場所だった。夜中にこっそり作業するにはうってつけだった。
アルブレヒトは慣れた足取りで暗闇の中を進んだ。貴族とはいえ、幼い頃から土に触れて生きてきた彼にとって、夜道は恐ろしくなかった。小さなシャベルと鍬は、普段農機具を保管している小さな納屋からこっそり持ち出してきた。未来的な宇宙船の農機具は、あまりに目立つ恐れがあった。今は、慣れ親しんだ静かなやり方が必要だった。
目的の空き地に到着した彼は、息を整えながら周囲を見回した。月明かりだけが微かに降り注ぐ、静かな土地。彼は素早く手に持った鍬で雑草を取り除き、地面を掘り始めた。サクサクと土を掘る音が夜の静寂の中でやけに大きく聞こえるようで、彼はさらに腰をかがめ、慎重に動いた。
『このくらいでいいだろう。』
彼は二種類の種子のために、小さな区画を二つに分けた。人工知能が言っていた3番と4番の種子。どちらがこの土地により適しているのか、あるいはどのような違いがあるのか、彼には分からなかった。この目で直接確かめねばならなかった。
懐から種子袋を取り出した。彼の手には馴染みのある小麦や大麦の種子とは違う、小さく細長い形の籾だった。彼はまるで神聖な儀式を執り行うかのように、慎重に種子を土の上に蒔いた。浅すぎず、深すぎず。彼の長年の農作業の経験が、指先から自然と発揮された。
種子を全て蒔き終えた後、彼は柔らかい土で種子の上をそっと覆ってやった。それから小さなシャベルで土の表面を平らにならし、たった今誰かが地面を掘り返したという痕跡を最大限に消した。最後に、近くの湖から水桶に水を汲んできて、注意深く水を撒いた。稲作には水が重要だという基本的な知識くらいは、彼もおぼろげながら知っていた。たとえこの特別な種子がどのような特性を持っているかは分からなくても、基本的な道理は尽くさねばならないと思った。
全ての作業を終えたアルブレヒトは、腰を伸ばして自分が耕した小さな畑を見下ろした。暗闇の中では、ただの平凡な土くれに見えるだけだった。だが彼は知っていた。あの土の中には、彼の領地の、いや、あるいはこの世界の未来を変えるかもしれない秘密が眠っているということを。
心臓が激しく鼓動した。期待と不安が入り混じった複雑な感情だった。彼はもう一度周囲を見回し、自分が来た痕跡を足で消しながら、静かにその場を後にした。
彼の足取りは家へと向かっていたが、彼の心はすっかり、暗闇の中の小さな空き地に植えられた未知の種子、「稲」へと向いていた。あとは待つだけだった。静かに、誰にも知られず、その秘密の芽が出るのを待つことだけだった。
夜が更け、領地の最後の灯りさえも眠りについた後になってようやく、アルブレヒトの本当の一日が始まった。昼の間は勤勉な領主であり農夫として土埃にまみれていたが、夜になると彼は秘密の宇宙船の主となり、冷たい金属の通路を歩いた。湖畔に半ば沈んだまま偽装されたアルテミス1号は、彼の唯一の秘密であり、奇妙な安息の場所だった。
毎晩、彼は慣れた手つきで偽装用の覆いを外し、隠された入り口から艦内へと入った。
『ようこそ、所有者アルブレヒト・フォン・シュヴァルツフェルト様。』
いつものように冷たく明瞭な人工知能の声が彼を迎えた。アルブレヒトは今や、この声がない夜の方が不自然に感じるほどだった。彼はふかふかだがどこか冷たい操縦席の椅子に身を預けると、その日にあった出来事をとりとめもなく語り始めた。まるで旧友に愚痴をこぼすかのように。
「アルテミス」――彼は艦の名前をそのまま人工知能の名前として呼び始めていた。「今日、下の村のトーマス爺さんが腰を痛めたそうだ。ただでさえ人手不足なのに大変だ。この秋の収穫が心配だな」
彼はため息と共に心配事を吐露した。トーマス爺さんの負傷に対する気の毒さと、領地全体の生計に対する不安が入り混じった、人間的な感情の発露だった。
『医療データベース検索の結果、急性腰椎捻挫と推定されます。艦内の医療ベイに備え付けられた筋骨格系治療装置を使用すれば、2.7時間内外で完治可能です。あるいは、ナノ再生血清を注入し…』
「いや、そういう意味ではなくてな…」アルブレヒトは言葉を濁した。彼は治療法を尋ねたのではなかった。ただ、辛い人生の重荷を分かち合い、「それはお気の毒に。領主様もご心配でしょう」といったような共感を求めていただけだった。
だが、人工知能にそんなことを期待するのは無い物ねだりだということを、今では知っていた。
また別の夜だった。
「今日は昼間に結構な雨が降ったな。おかげで畑に水を引く手間は省けたが、もしや俺がこっそり植えたあれらが駄目になりはしないかと、気が気ではなかった」
彼は誰にも言えない秘密、稲に対する不安をそっと口にした。
『記録された降水量と土壌サンプルデータを分析しました。現在、当該区画の土壌湿度は3番及び4番種子の生育に最適化された範囲内にあります。過湿による根腐れの確率は3.4%未満であり、現時点では懸念するレベルではありません。必要であれば、微気候制御装置により…』
「はは… そうか、分かった。大丈夫ならよかった」
アルブレヒトは乾いた笑いを漏らした。彼のハラハラした気持ちを分かってほしいという内心とは裏腹に、アルテミスは正確な数値と解決策だけを提示した。間違ったことは言っていない。むしろ、あまりに正確すぎて言葉もないほどだった。
このような会話は毎晩繰り返された。アルブレヒトは人間的な苦悩、喜び、悲しみ、心配事を打ち明け、アルテミスは常にそれを解決すべき「問題」として認識し、最も効率的なデータに基づいた解決策を提示した。
感情的な交流は全く行われなかった。アルブレヒトが「今日は月が実に明るいな」と切り出せば、アルテミスは月の公転周期と輝度の数値を教えるといった具合だった。
最初はもどかしく、壁に向かって話しているような気分だったが、時間が経つにつれて、アルブレヒトはこの奇妙な対話に慣れていった。いや、むしろある面では安らぎさえ感じ始めていた。
アルテミスは人間のように彼の言葉を歪曲したり、感情的に反応したり、噂を広めたりしなかった。常に論理的で一貫した反応を示した。
彼の秘密を完全に知りながらも、ただデータとして保存するだけで、何の価値判断もしなかった。彼の苦労を「理解」することはできなかったが、「聞き」、分析し、解決策を提示しようとする「努力」は一貫していた。
もしかしたら、これが機械なりの「誠意」なのかもしれないと、アルブレヒトは考え始めていた。人間関係の複雑さや予測不可能性に疲れた彼にとって、アルテミスの絶対的な論理と一貫性は、むしろ寄りかかれる堅固な柱のように感じられた。共感を得ることはできなかったが、世の中の誰にも打ち明けられない話を聞いてくれる唯一の存在だった。
「そうだな、アルテミス。君の言う通りだろう」
アルブレヒトは操縦席の窓の向こう、闇に沈んだ自身の領地を眺めながら、低く言った。
「だがな… 時には、ただ『大変だったな』という一言の方が、もっと必要な時もあるものなんだ」
『データベースに「大変だったな」という表現の社会的、心理的効用性に関する分析データが不足しています。関連情報の収集及び分析を開始します。』
アルブレヒトはフッと笑みを漏らした。相変わらずのすれ違いだったが、今ではそれすらも愛おしく感じられた。彼はアルテミスと真の意味で「友人」にはなれないことを知っていた。
だが、この孤独な片田舎の領主にとって、毎晩自分を待つ冷たい人工知能は、明らかに世にも稀な奇妙な「友」であることには違いなかった。彼は暗闇の中で独り輝く艦の光を見ながら、この不思議な友情に静かに寄りかかっていた。