桃太郎
「お父さん、お母さん、赤ちゃんはどうやったら出来るの?」
お父さん、お母さんは大きく唾を飲み込みます。
「僕はどうやって、産まれてきたの?」
黙る両親に桃太郎は矢継ぎ早に重ねました。
桃太郎は疾うにその答えを知っていましたが、どうしても両親の口から聞きたかったのです。
お父さん、お母さんは答えます。
「お前は私が川から拾ってきた桃から産まれたんだよ。」
「だからかあさんと相談して、桃太郎と名付けたんだ。」
桃太郎はがっかりしました、家の親はごまかすタイプだったのです。
本当に知らないとでも思っているのでしょうか、隣のクラスの田辺君は
お姉さんのお友達とCまでいったと学校で持ち切りです。
桃太郎はただ正直に教えて欲しかっただけでした。
これから何を信じて生きて行けばよいのでしょう。
本当に分からないことを聞いて、それが嘘だったとしたら・・・
だから桃太郎は嘘をついてしまいました。
「そうなんだ。知らなかった。」
この時、桃太郎は嘘をつかなければ良かったのです。
素直に本当は子供の作り方を知っていると言っていれば良かったのです。
だって、この場で嘘をついたのは桃太郎だけだったのですから。
そして現在
お父さんは、おじいさんに、お母さんはおばあさんになっていました。
桃太郎は中年です。
あの日から、桃太郎は大学に落ちたり、就職出来なかったり、彼女が出来なかったりしましたが、おじいさんとおばあさんの元で幸せに暮らしていました。
一日中、好きなことをして腹が減れば飯が出てくる。
控えめに言って天国でした。
不満と言えば、限定物のゲームが手に入らなかったことぐらいのものです。
「ももちゃん、行ってきます。ご飯は冷蔵庫に入っているので温めて食べてね。」
「うるせぇないちいち言わなくても分かってるよ。」
「ごめんね」
そう置いていくように言っておばあさんはパートに出かけていきました。
「謝るなよ・・・」
ここは、桃太郎にとって天国・・・でした。
おじいさんはアルバイト、おばあさんは近くのスーパーでパートしていました。
それでも生活は大変、厳しいものでした。
40年以上勤め上げた会社の退職金もあっという間に溶けていました。
なにせ、桃太郎は人一倍食べるし。
欲しいと言った物はなんでも買い与えていたからです。
そんな折、おばあさんの財布から今月の食費にと入れていた10万円が消えてしまいます。
聞けば、桃太郎が買えなった限定物のエロゲを転売屋から買う為に
使ったそうです。
流石のおばあさんも怒りました。
確かにパートのせいで並びに行けず、買ってあげられなかった物ですが
その時、お金は渡していました。
自分で買いに行くと言っていたのです。それをめんどくさがって行かなかったのは桃太郎です。
この10万が無ければ今月どうやって生きていけばよいのでしょう。
そう伝え、返品するよう桃太郎に言いました。
ところが桃太郎は逆切れです。
10万でも安い、今買わなければもう手に入らない。
フルボイスだの、マルチエンディングだのおばあさんに分からない言葉を並べます。
遂には特典の一枚絵、これにはサイン付きなんだとおばあさんに突きつけます。
そこには、ピンクの髪の女の子と目元の見えない男のあられもない姿が描かれていました。
それを見たおばあさんは思いました。
この子は私がお腹を痛めて産んだ子ではない。
本当に川から拾った桃から産まれたのです。
それでも授かりもんだと、心から思ったのに、そうだというのに・・・
気が付けばおばあさんは桃太郎の持っていた絵をびりびりに破いてそのまま部屋をあとにしていました。
桃太郎は怒るかと思いましたが、唖然としたまま動きませんでした。
夜も更けおじさんが帰って来ました。
おばあさんはおじいさんに全てを話しました。
桃太郎がしたこと。自分がしてしまったこと。
あんたさえいなければと思ってしまったこと。
自分の子ではないと思ってしまったこと。
おじいさんはその話を黙って聞いていました。
おばんさんが話終わると、
「今日は休みなさい。明日また桃太郎と話そう。」
と言いおばさんを寝かしつけました。
「桃太郎、聞いていたね。」
「はい、父さん。」
桃太郎はもう一度あの質問をしました。
「僕はどうやって産まれてきたの?」
「お前は、桃から産まれてきたんだ。」
今日は心から信じることが出来ました。
「初めて怒られた、かあちゃんのあんな顔見たことない。」
「俺もだ・・・桃太郎すまなかった。」
桃太郎は戸惑いました、謝らなければならないのは自分の方です。
「叱ってやれなった、嫌われたくないばかりに。」
「僕もごめんなさい、自分が駄目なのに二人の所為にしてた。」
本物に本物以上に、本当にそんなことばかり考えていたから見ることが
出来なかったんだと二人は気が付きました。
「明日はもっと大変だぞ、かあさん謝り倒すだろうから。」
「そうだね。」
こうして桃太郎達はやっと家族になることが出来ました。
「はい、お弁当。」
「ありがとう、行ってきます、おかあさん、おとうさん。」
桃太郎のお話は始まったばかりです。
めでたし、めでたし。