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旅に星魔  作者: 有栖サカグチ
一章 秘密主義者編
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秘密主義のサラ

 図書館の入口近くで俺とSnaKidの2人はグレイヴさんが降りてくるのを待っていた。

 ブームは図書館で何をされたのか、どんな事を聞かれたのかを俺に聞いてきた。とはいえ俺はそれとないアンケートに答えたくらいで特別なことは何もしていないので、あんまり何かしたという実感がない。

 本当にこれで対価というのは獲得できているのか、しばらく悩んでいると丁度グレイヴさんが書類を抱えて図書館の大きな階段を降りてきて俺たちの待つ入口近くまで走ってきた。


「いやはや、待たせたかな諸君ら。昔の顔馴染みがここで働いててつい話し込んでしまったよ。」


「アレェ?昔の知り合いっても、この図書館っつーの最近できたモンっすよねェ!?」


「弟よ、これは色んな国に設置してあるンだぜェ?対価を渡してあらゆる知見を集める為に世界中に作られたんだ。姉御は旅してるってンだから、どっかの知り合いがたまたま配属されたってだけじゃねェか?」


「そんなとこかな。その人は仕事のできる堅物のメガネくん、君たちの真逆だよ。」


 よくまぁ真顔で毒を吐くお人だ。SnaKidたちはやはりグレイヴさんのこういうところにもやはり慣れているようで、二人とももう受け入れていた。不思議な関係だとは思うが、彼らはいまだに謎が多い。知らないことが多すぎるのだと思う。この図書館に来るまでに色々聞いてみたりはしたのだがふんわりとした回答だったり、上手くかわすように答えられることが多かった印象だ。

 例えばブームとスラングはどこの神様の信者なのか聞いても、いやァ…俺らは自分を信じてるぜェとか言われたり、どんな魔法が使えるのかを聞いても、治癒するのとかじゃねェならオイラたち大体使えっぞォ!?と言われたりした。

 グレイヴさんにも同じように聞いてみても「私?治癒が得意なくらい。」らしい。見ていればまぁ分かる。

 誘拐された・した・それを依頼した仲の4人とはいえどまだ個人的な質問には答えづらいらしい。というよりもあからさまに何かを隠しているように感じている…気のせいだと良いのだが。


 だが、何にせよ対価とやらは手に入ったらしい。もう俺は用済みなのだ、帰らせてもらえる筈だ。


「え?まだ帰らせないけど。」


 グレイヴさんは当然のことかのようにキッパリ、明瞭に断った。


「で、でもそろそろ家に帰らないと〜…家族に心配かけますので…ね?」


「はい嘘〜。私はもう君が一人暮らしって事もここ数日暇なのも調査済みで〜す。」


 彼女は少し鼻から息を出して、煽るように喋った。なんで俺の事情こんなに知ってるんですかこの人は。


「とりあえず今日は遅いから調査は一時中断だよ。宿をとって、明日からまた調査再開ね。」


 まだ俺は連れ回されるという衝撃の事実を受け止め切る間も無く、明日の朝までの予定が一瞬にして埋まった。

 ほら行くよ、とグレイヴさんに手招きされ、どうしようもないので着いていく事にした。もしもここで何かの間違いで断って、腕を切り落とされたく無かったのだ。

 グレイヴさんに着いて行こうとやや左に足を踏み出した。しかしまさに反対方向へとSnaKidの二人は歩き出した。


「えっ。」


「彼らは仕事あるからここで解放だよ。」


 頭の中を読まれたように、グレイヴさんの言葉は先回りしてきた。彼女の真顔はこころなしか、やはり怖い。

 もう一度反対方向を振り向くと、微かにブームと目が合った。なんとも、ニヤついた顔であった。もし俺にあと少し余裕がなかったら殴りかかってしまうようなドヤ顔。俺らは先に解放されるけどお前はいつまで連れ回されっかなァ、明らかにそう言いたげな緩んだ顔をしている。


 騒がしげな2人と別れた後、俺たちは宿…ではなく俺の家にまで戻っていた。そう、図書館から2つ隣の地区の人が少なくてだだっ広いスラム街。廃れた古城があるだけの地区。そこにある俺の家だ。無論スラム街なのだから家と言えどしっかりとした扉もない。


「グレイヴさん…やっぱりあっちの古城にでも行った方が良いですよ。」


「…だよね。君はマトモな身なりだし家くらいあると思いこんでたな。」


 いいやこれは間違いなく俺の家です、と言いたいが先程の上層を見てきてしまったからそうも言えなくなってしまった。これでも一応普通な生活は出来ている。


「じゃあ仕方ないや、古城行こうか。」


 そうして俺たちふたりは大きな廃れた古城の重い扉を開けて、またあの広間に戻った。床にはスラングの血液が若干残っているのが見えた。あそこでは寝たくない。


「さて、寝る前にこれから私達がやる事を話そう。」


 彼女はご丁寧に対価として貰ったその書類や、自分で持ってきた物品まで見せて説明をしてくれた。


「まず最終目標は行方不明の放浪者を見つけて大元の依頼主に引き渡すこと。」


「その為に彼に関する情報を図書館から頂く。ここまでは大丈夫。問題は次ね…」


 彼女は沢山ある書類の真ん中あたりから1枚を抜き出し、並べた物品の中から日誌のようなものを1つ取り出した。


「多分彼は只者じゃない。その上これは明らかに事件性があるんだ。」


「事件性…?」


「うん。この日誌のさ、ここ見てよ"僕は魔法が使えない"って。」


「魔法が…使えない…?」


 魔法が使えない人間はこの世界には存在しない。誰でも知っている。確か、大昔は限られた人間しか使えない人知を超えた強大な術だったが、旅匡がどうにかして"一般化"した。

 限られた人間というのは、神に1人の個人として神に認識されたような人だ。神に自分を認識してもらうとその神の権能のほんの一欠片のおこぼれを頂ける。

 これは今でもそうらしい。大半の人はちょっと腕力を強くしたり、指先から小さい炎を出せたり、あくまで日常で使える程度の魔法を使う。魔法専門の学校へ行ったり長年修行をするような人達ならもっと高度な魔法を使える。軍人や犯罪者ならさらに攻撃的な魔法を使う。だが認識された人間はそれらとは本当に一つも二つも格が違う魔法を扱うらしい。実際にこの目で見たことは無いがそういうものだ。

 現在、大半の人間が使うような日用魔法は、大昔使われていた魔法のそれよりよっぽど地味で規模が小さい魔法ではある。だが、それを人類は活用してきた。

 例えば俺の目の前にいるグレイヴさんは癒演を信じ、きっとさらに厳しく修行し続けた事によってあれ程の治癒魔法を獲得したのかもしれない。


「その放浪者は魔法が使えないのに…この本には明らかに魔法を使った痕跡があるんだ。」


「痕跡…ですか?」


「瘴気みたいなの。ほら、私が君を治癒してあげた時白いもやもや出たでしょ。使う魔法にもよるけど、あぁいうやつね。」


 自然と受け止めていたのだが、そういえば白いモヤがどこからともなく出ていた…思い返すと、スラングが拳を握りしめた時に、微かにメリケンサックが緑に発光していた気がする。もしかしたらあれも魔法の痕跡なのかもしれない。


「で、魔術が使えないとか行ってるのに痕跡が残ってるって矛盾してるでしょ。そしてこの日誌があった部屋も痕跡が残ってたの。で、その部屋から外には一切痕跡ナシ。しかも物に染み付くくらいの瘴気って、複数人が同時に死ぬほどヤバい事しないと出せない。」


「…部屋に誰かを呼んで魔法を使わせていただけでは無いんですか?」


「それね、考えたけど…ほらこの資料見て。」


 彼女の差し出した資料にはびっしりと硬い文字が詰め込まれていた。彼女の指さした辺りの一文には、大方放浪者の人間関係が書いてあるようだった。

 パッと見でもとんでもない情報が入ってきてしまった。曰く「恋人:無し」「友人:無し」「家族:無し」。


「おかしいよね?同居人や同棲するような人も居ない。部屋に呼ぶような友達も居ない。ならなんで痕跡が染みているのか説明出来ないでしょ。」


「…」


 俺は黙ったまま首を傾げた。そうするしか出来なかった。スラム生まれで、魔法を教えてくれる人も環境も無かったから魔法とか神とかいうのには疎い俺だが、それでも明らかに変な事だと理解できた。


「その部屋でやたら凄い魔法を使われたのは分かりますが、でも事件性なんて…」


 俺がそう言いかけた時、グレイヴさんはその言葉を待っていたと言いたげにパチンと指を鳴らした。


「一つ心当たりがあるんだ。そういうことする…というか()()()()()集団。」


 そう言うとまた書類の中から1枚紙を取り出して俺の前に置いた。そしてまた指で文章を指さし、円を描くようにして俺に見て欲しい部分をアピールした。

 曰く「シュヒェルディ王国・下層においての活動:個人名"サラ・ペリアーテ"に商談を持ちかけられる…」らしい。

 図書館はどうやってこんな個人的極まりない情報を知り得たのか気にはなるが、今はそれより気にならなければいけない物がある。


「サラ・ペリアーテ…?どなた様でしょうか?」


「そいつが鍵だよ。コレが関わってるとなると一気に事件性が増す。サラってのは、秘密とかを司る神を信じる者たちのリーダーだよ。」


「秘密を司る神ですか?…聞いた事がないです。」


「当たり前でしょ。秘密を司ってるんだから。それにその神様はもう死んだってことになってるし。」


 そんな秘密の神様の信徒が一人の名前と行動がこうも筒抜けなのかは気になるところだ。それに死んだ神様にも信徒が着くというのも不思議だ。


「この神の権能に続く魔法は、変装とか、透明がどうとかみたいなやつとか、とにかく隠れて秘密にする事に特化した魔法なの。」


「そうすると…事件性が高いというのもその魔法のせいなんですね?」


「そうだよ。私の見立てでは3人くらいでこの放浪者の部屋で、彼の姿が誰にも見られないようにして誘拐ってとこかな。」


 なるほど、複数人で計画的に犯行したからこその瘴気だというのか。


「なるほど、分かりました。でも透明にしたって、周りの道行く人たちには放浪者の声くらい聞こえませんか?もし声を聞かれたら、彼らとしても誘拐しづらくないですか?」


「私が前使ってたでしょ。"フォヴィレ"、閉口の呪文だよ。」


 …やはりあの時使っていたのは口を閉ざす魔法だったのか。思い出すだけで身の毛もよだつあの断末魔を、一瞬にして静かにさせたあの魔法だ。


「それも理解できましたが、果たしてそれだけでこんなに痕跡って染みちゃうんですか?」


「いいや。同じことをしても、痕跡が染み付きはするだろうけどこれほどでは無いだろうね。多分他にも何かやったんだろうけど、その辺の証拠はヤツらに()()にされてしまった。」


「さて、だいたい分かったかな?」


「大丈夫です。」


 こうして俺は、今まで俺たちがやっていたこと、これから何を見つけるのか、誰が敵か分かった。


「あ、明日朝から魔法の訓練やるから。」


 眠ろうとする俺の耳に何か飛び込んできた。グレイヴさんの顔は見えていなかったが、確実にあの怖めの真顔をしていたはずだ。そんな声をしている。

 

なぜだろうか、ブームの別れ際の顔が浮かんできてしまった。

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