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旅に星魔  作者: 有栖サカグチ
一章 秘密主義者編
2/7

呪われた女

 廃れた王国、その古城にて


「兄貴ィ!もうコイツ殺しちまって良いか!?」


「おうバカ弟!!!ンな簡単に人の命奪っちゃァ駄目だろ!!!ぶち殺すぞォッ!!!」


 彼らは古城の広間の玉座にもたれかかって、忙しなく会話を続ける。俺は口に布を巻かれ、手足を縛られて寝かせられている。

 ある日道端で人さらいに遭って、この世紀末的な兄弟に助けられたかと思ったら何故か城に連行→王座の前で拘束である。俺は顔が良いから拐かされるのは辛うじて理解できるが、このバカ兄弟の行動は理解できない。人さらいをボコボコにして「もうこんな事すんなよォ!」とか言ったと思えば真顔で俺を拘束して拉致なんだから。

 ちなみにこっちの、ボサボサで暗めの緑髪で歪な形の大きいナイフを持った男が弟「スラング」らしい。であっちの暗めの金髪のが兄の「ブーム」。どちらもパンクなゴーグルとマスクをしている。トゲトゲが付いているデニムジャケットがよく映える2人だ。

 屈強な男たちに攫われそうになったところを助けていただいてどうもありがとうございます!!!と言いたかったのに何故か古城に連れて行かれたうえに拘束されているのだから溜まったものじゃない。

 さて、そのブームとスラングは誰かが来るのを待っているらしく、その人から仕事を受けて俺を攫ったと見える。彼らはお喋りさんらしくて、傍から聞いてるだけでもかなり状況が掴めてきた。アイツら何で俺の前でベラベラ仕事の事とか個人情報とか話しちゃったんだろう。


「しっかしよォ~~~あァの人いつ来るんだァ???」


「落ち着けよォ弟。あンの人だって色々仕事があるんじゃねェのかァ???」


「にしても随分な遅刻だぜ~?????」


 突然ガタッと広間の扉が持ち上がる音がし、恐らくブームとスラングが待っているその仕事の依頼主が姿を現す。

 精悍であり、俺に並ぶ絶世のイケメンとも、神の寵愛を受けたような傾国の美女にも見えるほどの中性的な顔。無造作にも見えるがむしろそれがよく似合っている深い藍色の短めの髪。ちらと袖を捲ると傷が多く見えた。その人の濃い紫の瞳が俺を覗き込んだ。

 安定した足踏みでゆっくりと、真っ直ぐこちらに向かってくる。薄汚れたローブのフードを外し、着けていた茶色の手袋を思い切りポケットに突っ込み、咳払いをした。…その人の入室に気付かないブームとスラングに向けて。


「おァァァ!姉御!!!依頼の品でス!こちら!」


 ようやく依頼主であろう人に気づいたスラングは、挨拶も無しにいきなり成果報告をする。


「お久しぶりですぜ姉御ォ…ご依頼の通り、この少年を連れてきましたぜェ。」


 兄たるブームは多少礼儀を弁えつつ報告をした。まるで、さっきからあなたがいたのに気づいていますゼという顔である。


「そうか、よくやったようだね。でも私はこいつを丁重に扱えと言ったよね?」


「ハイ!オイラたちめちゃくちゃ丁寧にしましたぜ!」


「これだけ縛っておいてかい?」


「ハイ!兄貴も合意の上で縛りましたァ!」


「…足から出血していないかな?」


「姉御ォ…それァそもそもこいつを攫おうとしてた別のやつらに付けられた傷だぜェ?」


「…そうか。そうなのか…報告は以上で構わん。」


 その姉御とやらは面倒くさそうにしゃがんで俺の拘束を一つ一つ解いていく。


「あンれェ!?それ解くんすか姉貴ィ!?」


「丁重ってのはこんな拘束しろってことじゃないってんだ。アホ兄弟。」


 ようやく口枷を外されて喋れるようになった俺はまずはそうやって兄弟を罵倒した。


「あァんだガキ!?顔が良いからって調子に乗るなよォ!?!?!?さっさと殺しとくべきだったかァ!?」


「おいおい弟よ…」


 よかった、兄貴はまだまともな方なんだよな。さっさとこの弟分を止めてやって。


「まぁやるならキッチリ殺せェよ?」


 駄目だこの兄貴。


「だよなァ兄貴!?こいつ顔だけ無性に良くて気に入らねェもんな!?」


「…」


 ずぅっと黙って見ていた依頼主は突然、ゆっくりとローブの中から木の棒のようなものを取り出す。それをぐっと握りしめてブツブツとなにか囁くように唱えたら、不思議と棒が長くなってゆく。太さも太くなって、それはステッキのようなものになっていた。シックな黒に、赤のラインと金の装飾がよく似合ったステッキだ。

 さらに彼女は元々綺麗な背筋を伸ばし、軽く腰を曲げて右足を下げた。ステッキを持ち上げて、素早く2回、床を叩く。


「ゲェ!?なんでェ!?姉御とだけは()()したくないンですけど!?」


「仕方ないだろうに。私はお喋りな人は嫌いじゃないけれどね、あんまりうるさいのは違うよ。それに契約不履行の罰さ。」


「あァマジか!?本気なんスね!?」


 スラングはそういいながらも、やはり背筋をただし拳を構えた。いつの間にかその拳にはメリケンサックのような鉄の塊が装着されていた。


「…あぁっと…こういう決闘は俺が音頭とりゃァ良かったんだよなァ?」


 ブームはそう言い、確かこんな感じで…と呟き、肘から先の前腕を上げて指先をはっきりと伸ばす。

 スラングも女性もより深く腰を下げる。両者それぞれメリケンサックとステッキをまた深く握る。

 彼がメリケンサックを深く握り込んだ時、それは何故だか深い緑色に光ったように見えた。丁度彼の髪色と同じような深い緑。

 ブームは深く息を吸った。


インツィーオ(始め)!」


 ブームが開始の宣言とともに開いていた左手の指先を思い切り握り込んだ。

 開始とほぼ同時にスラングは足を踏み出し右腕を思い切り振りかぶる。スラングがそうするよりさらに先に依頼主はステッキを若干持ち上げ何かをボソボソと呟いた…いや、唱えたのだろう。

 あのステッキのラインと同じ赤色の閃光がこの空間に響き渡った。それは光というには、あまりにも禍々しい、ナイフのように鋭い赤。杖の先から轟いたその閃光は一瞬にしてスラングに衝突し、貫通した。ほんの一瞬であった。

 あんな閃光は他に無い。直接目にするのは初めてだがきっとあれは、”破洒(はじゃ)”…破壊を司る神、デリグレスの力。それから生まれた魔法の一つ。

 そして、その破壊の神(デリグレス)の力は、この国で禁忌とされている魔法。なるほど、禁忌とされているのもよく理解できる。

 現に、赤く鋭い閃光はスラングの肩から先の右腕を綺麗()()()()、切断していた。あまりにも一瞬のことで、俺は呼吸すらも出来ていなかった。そしてスラングはワンテンポ遅れてから自分に起きたことに気づいてしまったようで、目を見開いている。彼の声にならない叫びが聞こえた。

 あたりに飛び散る血液は例の閃光によく似た赤色をしている。


「フォヴィレ…」


 今度ははっきりとその依頼主の囁く呪文が聞こえた。同時に杖で床を叩くとスラングはすっかり口が縫い付けられたかのように()()してしまった。しかし喉から出る空気は鼻から抜け、悲痛で生々しい無声音が出てくる。


「ッ゛!!!!!」


 叫びながら彼は膝を床につき、左腕と、もう無い右腕を頭より上に持ち上げた。

 あぁ、降参したのかと俺はようやく理解できた。俺を攫おうとした男たちを追い払って、俺を拉致した、その男が今負けたのだ。一瞬も一瞬、20秒としないうちに彼は腕を失い、膝をついてしまった。

 あァ〜あ…とでも言いたげな顔の兄貴も何故か両手をあげている。俺はというと、呼吸の一つできずただじっと依頼主の横顔と、吹き飛んだ右腕を見ているしか出来なかった。自分の足の出血などもう気にならないほど、スラングの血液は俺の周りにも飛び散っている。


「…ブーム、私さ、少年を丁重に扱えと言ったよね。それと、私が破壊の神(デリグレス)に呪われた女ってこともさ。」


「その通りですぜェ姉御…」


 ブームは弟を憐れむような目で飛び散った血を眺めている。まだ決闘の気分が抜けきっていないであろう依頼主の女性は床に伏したままの俺を一瞥し、深呼吸を一つしたのであった。

ブームとスラング、二人揃って毒蛇兄弟「SnaKid」!!!!!!

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