第九話 謎のホワイトボード
前回のあらすじ☆
伊巫先輩がいなくなった。
部室のドアを開けた。
見知らぬ女の子がいた。
──以上!
見知らぬ少女は、積み上がった段ボールにちょうどいい感じにちょこんと座ってらっしゃる。なんか、ヌードルストッパーフィギュアみたいに。
つか、めっちゃ不安定でしょそこ。
バランス感覚鬼レベルじゃん?
「だ、だれ……」
って、こりゃ失礼か。
誰、じゃなくて、えーと。
「あ、あの……ここ、歴史研究同好会に何か?」
そう、俺は一応同好会の会員なのである。
もしかしたら、この子は、入会希望なのかもしれない。
あれ? でも斎藤はそんな部活ないって言ってたな。
じゃあなんだ? 何目的だ?
「あ、あの!」
と、女の子が話しかけてきた。
段ボールから降りる。
フワリ、と黒髪ロングの姫カットが舞う。
「……、イフ、知りませんか!?」
「…………」
見たところ、中学生みたいな外見をしている。ちっちゃいというか、幼いというか。
雰囲気がなんとなく、高校にそぐわない気がする。
俺(女体)のときのイメージと似た感じ?
「あ、あの……!」
「ああ、ごめん。情景描写に力が入った……って、伊巫さん?」
「あ、ご存知ですか?」
伊巫さん。この子は今、『伊巫知りませんか』と訊いた?
呼びすてだ。伊巫さんと近しい仲の子だろうか。
「も、もしかして、妹さん!?」
「は、はい」
うおおおおお!?
妹キャラきたーーーーーー!
あれか!
合法的に『お兄さん♪』とか呼ばれるやつか!
友人の妹に『お兄さん♪』って呼ばれるんだ!
そうなんだな!?(歓喜)
「つか、先輩に妹いたんだ!」
あんまし似てない気もするが。……
先輩はキレイ系で、この子はカワイイ系だ。
「……せんぱい?」
「ああ、うん。ここの部長……っていうか、会長? やってらっしゃてて、ボクはその部員? というか、会員という感じで……」
なんか、部なのか会なのかそろそろハッキリさせてほしい。
むちゃ説明しにくい。
「はあ……そうなんですか」
ぱっつん前髪の下から、控えめに覗き込むような目線を送ってくる。
Kawaii!
「先輩は、最近見かけないんですよーボクも。ホント、どこ行っちゃったんでしょうかねーあの人」
「そ、そうですかぁ……」
しょぼん。
なんか、残念そうな顔をしている。
年上として、彼女の落ち込みを緩和させねば!
「あ、伝言とかあったら、伝えときますよ。まあ、ボクも先輩に会えたらって感じなんですけど」
にっこり笑顔で言ってあげる。
伊巫さんのクラスのお姉さん先輩から学んだことだ。
「あ、ありがとうございます。でもあたし、だ、大丈夫ですっ」
妹さんはペコペコとお辞儀した。
人馴れしてないのか、顔がちょっと紅い。
kawaii!
「じゃあ、あたしはこれで……っと」
と、女の子はぴょんぴょんと器用に段ボールの地雷を跳び避け、入り口に着いた。
そして、再びペコリと礼をする。
「あの、ありがとうございました……お兄さん」
「ハッハッハ、どういたしまして!」
……
『お兄さん』キタコレーーーーーーーー!!
■
俺に至福のお兄ちゃんタイムをくれた少女は、そのまま子兎のようにトテトテと廊下を去った。
ッはーーーー。至福至福。
それにしても、伊巫先輩にあんなにぐうかわな妹キャラがいたとはな。……
うん。でもまあ納得の一杯。伊巫さんお姉さんキャラっぽいしな。
そういえば、あの子中学生くらいだったな。高校にまで来るなんて、なんてお姉ちゃん思いの妹ちゃんなんだ!
「健気よのう……ホロリ」
感心していると、ふと部室内に目がいった。
段ボールが散乱しているのか陳列しているのかわからないくらいのゴチャゴチャっぷりだった。
「でも段ボール、一週間前にはなかったぞ……?」
そう。一週間前。
最後に伊巫さんにあったのはいつだったかな?
えーと。うーんと。
そうだ、ここだ!
女の子から男の子に戻してもらったときだ。そうそう、思い出した思い出した。
女の子になっちゃったのを。
伊巫さんに脱げって命令されて脱いで。
伊巫さんも脱いで。
……イロイロやらされて。
で、鞭喰らって男に戻った。
すげー痛かった。
「ホント、わけわかんねえよな……」
なんだか、独り言が多いね。
いやー、一人になると、かなわんですわ、全く。俺の声だけが室内に反響して。……
室内。
?
なんか引っかかる。何だっけな。……
部室。
「──あッ」
視界に、ホワイトボードが映った。
段ボールに紛れて、しかし唯一部室が変わる前と一致している風景だ。
が、少し違う?
ボードには、『歴史研究部』と書かれていた。
……アレ?
なんか違った気がするな。なんか、もっと長かった気がする。
『(仮)』みたいなのがあった気がする。
それに、字体……というか、筆跡も違う?
もうちょいキレイな字だった気がするが。……
まあ全部、気がする気がする、ばっかなんだけどね。
「…………」
俺は、そのホワイトボードに歩み寄った。
触れる。黒のマジックで書かれたその文字が、触れた部分だけ、指に沿ってスウ、と消えた。
指を擦るようにして、付着した黒い水性の粉を確かめる。
「うん?」
粉は、黒ではなかった。いやまあ黒っちゃ黒なんだけど、なんか赤っぽい色もわずかに混ざっているような。
インクって、そういうものか?
……ま、いっか。どうでもいいや。
……帰ろ。
「……?」
と、またもや疑問に包まれた。なんかハテナマークばっかだな、今回は。安直ですね、すみません。
部室、そのドアを閉めようとした俺。と、そのドアノブ取っ手がなんとぶっ壊れていたのである。カチャカチャ回しても、全然手応えがない。
というか、引っ張ったらスポッと抜けた。
ほほお。さっき開けた時には、全く気づかなかったな。
まあ、ドアノブに手を掛けた瞬間に例の謎少女を見たから、それに気を取られてたってのもあるけど。
つか、何気にあっぶねー。下手したら俺、閉じ込められてたってこと?
そういや、最初からなんとなく隙間開いてた気がするな、今さら説明口調。だから俺ドア開けられたのか!
し、閉めなくって良かった〜〜。
ええ……いつの間にかドアノブぶっ壊れてたんだ。なんだよ整備不良かよ。それとも、どっかの誰かさんが蹴りでもして壊したのか?
ヤンキーさんか? だとしたら、この学校治安悪過ぎだな。
いくら離れ校舎で人ほぼいないからって、これはちょっとやり過ぎだろう。先生に報告したほうがいいかな?
……まあいいや。そんなに大したことでもないんだろうな。そもそもこの離れ校舎自体が、存在意義不明みたいなもんだし。誰も使ってないし。
現在段ボール畑になってしまったのだから、なおさらだ。
「うん。ま、いっか」
再び思考放棄した俺。ちょっと今回テンポが悪い。
今度こそ、本当に帰宅。
■
「このコーナー、また今回も俺スタンドプレーっすか……つか伊巫さんいないなら言いたい放題じゃね? よっしゃ、この貧乳ー。ハッハッハ」