表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/59

第八話 段ボール少女

 二年A組。

 うちの学校は若えもんが苦労しろという校風によって、一年が四階、二年が三階、三年が二階という配置になっている。

 だから、俺──一年A組のクラスとは、ちょうど一階違い。

 俺の教室の真下である。


「あのう……このクラスの、伊巫先輩っておりますか……?」


 俺は先輩の教室に赴いてみた。

 ちなみに今は昼休みである。

 女の子になったときのデータがどれくらい引き継がれるのかとか、なんで部室が資材置き場の段ボール畑になっているのかとか、いろいろ訊きたいことがあるのだ。


「ああ、きみ一年の子? あ、もしかしてこの前きた子かな?」


 長髪のきれいな、親切そうなお姉さんが話しかけてきた。先日俺がこの教室に来たことを覚えているらしい。

 といっても、俺(女体)のときの情報なんだけど。

 やっぱり俺の行動自体は記録されてんのか?


「あー今伊巫いないみたいだねー。なんか伝言あったら伝えとくけど」


「あ、そうですか……えっとーじゃあ、放課後部室でちょっと訊きたいことがあるんですってことだけ、伊巫先輩に伝えといてもらってよろしいですかね……?」


「あいよ! 伝えとくわ。じゃね」


 気さくなお姉さん先輩は敬礼のポーズを取ると、軽く手を振ってスタスタと教室の中に戻っていった。

 そうか、伊巫さんいなかったか。

 ……何気に今まで俺が訪ねたor探してたときはエンカウント率100%だったから、ちょっと拍子抜けだ。


「……ま、放課後だな」


 俺は自分の教室に戻った。

 あ、そういえば。あの段ボール畑になった部室で、どう落ち合うっつーんだ?

 あー、俺も思慮がたりないな。まあ、ドアの前にでも待ってよう。

 伊巫さんが先に来たら、申し訳ないけど。……

 ごめんなさいねー。



 ■



 放課後。

 部室(会室?)の前。

 俺はここで、三時間待っていた。


「……来ねえ」


 あれ俺ちゃんと放課後部室って伝えたよな?

 それともあの気さくなお姉さん先輩が伝えそびれた、とか?

 でも、わりときっちりしてそうな人だったけどな。


 あ、伊巫さんにも都合があったか。

 じゃあ、ちょっとくらい連絡くれればよかったのに。ってか、そういえば連絡先とか知らんしな。

 ちら、と部室のドアを開け、見る。


「中に誰もいませんよ〜っと。って、こういうやり取りも独りじゃ虚しいか、ハハ」


 ま、もうそろそろ下校時間だ。

 とりあえず今日は帰って、明日にしよう。

 明日、伊巫さんを探して、そんで、いろいろ話とか聞こう。

 なーんかまた神経逆撫でしちゃって、鞭で打たれちゃったりしてな、ハハハ。

 て、それは嫌だけど。ブルブル。……



 ■



 それから一週間。

 その間、伊巫さんとは合わなかった。一切である。これまでとは打って変わって、奇跡のゼロ・エンカウント率である。

 教室には何回も行った。

 なんなら、休み時間のたびに行った日もある。あの気さくお姉さん先輩に、完璧に顔を覚えられたくらいに。

 しかし、ことごとく伊巫さんはいなかった。


 なんなら、お姉さん先輩が隠蔽しているんじゃないかと疑ったこともある。が、そんなことはなさそうだ。

 彼女も伊巫さんがどこへ行ったか、わかるときもあれば(中庭にお弁当食べに行ったよー、と言われ、行ったけどいなかった)わからないらしいときもあった。


 まじで、どこいったんだあの魔法使いは?

 部室の前にも毎日一時間くらい陣取ってる(本読みながら)けど、中からも外からも、全く現れる様子がない。


 それとなく保健室に行くと告げて授業をブッチして二年A組をこっそり覗き見したことも二回した。が、いずれにおいても彼女の存在は、ついに認められなかった。

 え? 授業中でも?


 俺、完全にお手上げ状態。……そもそもね?

 相手は魔法使い(自称)だろ? それも、威力は本物ときた。

 だったら、どんなわけわからんチートキャラに、かくれんぼで俺ごとき一般人が勝るわけがない。

 無理無理。無理ゲー。

 つまるところ、俺はこの一週間、全く伊巫先輩に会うことができなかったのであった。



 ■



 悪あがきとして、今日も部室に来てみた。今日で最後にしようと思う。

 まあ、空中浮遊マジック拝見とか、人生初の女体化(当たり前だ)とか、けっこう楽しかった。

 が、彼女がその存在を現さない──それが、彼女自身の意思かどうかはわからないが──なら、俺が何かできることも、もうない。


 はー、ちょっと寂しいな。でも、まあ、仕方ねーか。

 なんなら、今までの全部俺の妄想とか? 白昼夢?

 なんてな……ハッハッハ。


 ふと、最後に部室に入ってみる気になった。

 そういえば、最初の日(伊巫さん探し一日目)にちらっと入って見た以来、中を開けて見ることはなかったな。

 まあ、開けても天井まで届くほど積まれた、大量の段ボールしかないんだけどね。


「中に誰もいませんよ〜っと。って!?」


 いた!!

 え? え、え? ……

 ──女の子が、いた。



 ■



「ねえこのコーナーやる意味あんの? つか、ホント先輩どこ行ったんだこれ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ