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いふ☆いふ 〜先輩は魔法使い〜  作者: 岩流佐令
6月 忍び抗争&お見舞い
59/59

タイトル未定2024/12/24 23:55

『もしもし?』


「はい。シャア・ミゼラブルです」


『ああ伊巫さん。こんばんわございます』


「……ツッコミなさいよ」


『どこに?』


「は?」


『上の口ですか? 下の口ですか?』


「……何を言っているの、藤見くん」


 突然電話をかけてきたと思ったら、これだ。


 何を考えているのかわからない。通話上だから読心術が使えない、というのを差し引いても。


 もっとも、初手でボケたわたしも、人のこと言えないのだけれど。


 ちょっとしたユニークじゃない。電話なんてお母さんしかかけてこないし(もしくはセールス等)、彼の声が聴こえてくるとは思わなかったのだから。


 少し気が動転しつつも、すぐに脳を切り替えられたクールな自分を褒めてあげたい。でも、そんな暇もなく繰り出される彼の痛烈で下賤な会話のジャブには、毎度のことだけどため息をつかざるをえない。


 それこそ、ユニークどころの騒ぎじゃない。フリークだ。


 とにかく謎、謎、謎の人。──それが、彼。


『後者でしたらすみません、今ゴム持ってないんです』


「ジャパニーズ価値基準で考えないで。前者でもちゃんと使いなさい。“咽頭クラミジア”で検索けんさくぅ」


『うわあーこれは大変だべ』


 本当に調べたんだ……。


 電話口の向こうで画像検索をかけている彼の姿が目に浮かぶ。行動が早い。


『今度伊巫さんの口腔内写真も撮らせてくださいね?』


「くされげどう」


『ぐふっ』


 今の『ぐふっ』が罵倒に打ちのめされた音声であることを切に願う。決して、何かによろこんでいる声ではないと(上ずっていた?)。


「大丈夫かな、この人……?」


『ん? 伊巫さん、どうかしました?』


「いえ、別に……」


『ところで伊巫さん』


「……はい」


『ご用件は?』


 がちゃん。

 電話を切った。


 ……

 ……

 ……


 プルルル〜〜。

 がちゃ。


 がちゃん。


 ……

 ……

 ……


 プルルル〜〜。

 がちゃ。


「あなたがかけてきたんでしょ?」


『いや、そうですけど! 電話かけましたけど! 俺の方から!』


「ツッコミのありがたみがわかったかしら?」


『ええそれはもう、はっきりしっぽりびんびんにね!?』


「それはよい儀にて」


『わざわざ再通話越しにツッコミされたら、そりゃあ誰だって……てか、何故に一度切ったし!? 出て・切って・また出たその意味は!?』


 ヒヤヒヤしましたよ、と叫ぶ声がうざったい。音声口から耳を離す。……もう一度切りたくなってきた。


 そもそも、なぜ電話番号を知っているのだろう? 教えてないのに。


 まあ、今更かもしれない。彼のことだ。またなんか変なことでも思いついたのだろう。


 いつもこっちの頭の中がぐちゃぐちゃになるほど、彼の脳内は謎とエロスでごった返している。だから、あまり見たくない。この能力も考えものだ。


「で、なんの用かしら?」


『伊巫さん、俺、伊巫さんのこと……』


「え」


 まさかの展開。


 個人的には、頬が一瞬にして熱くなったのも、まさか。気の所為だろう、自律神経の乱れ、体温上昇、頭が真っ白に──


『あの、俺……伊巫さんの、こと』


「……っ!」


『伊巫さん……』


「あ……え?」


 同様するな自分。誤字るな。ちゃんとしろ。売ろたえるなな。


『……伊巫さん』


「幾太くん……」


『……』


「……」


『……』


「……もしもし?」


『カチッ、カチャ』


「?」


『シュル……パサッ』


「な、何の音……?」


『ヌギヌギ』


「だから何の音!? ていうか口でオノマトペ再現しないで!?」


『大丈夫ですか伊巫さん? 動揺しすぎてキャラぶれてますよ』


「誰のせいだと──って、喋れるんじゃない……」


 ため息。乙女なキャラは似合わない。わかってる。彼に振り回されただけ。……癪だ。


『ときに伊巫さん。ピザって十回言え』


「……ピザって十回」


『疲れてますね?』


「ええとても」


『グフッ! グフフフ……ヌプぅッ!』


「気持ち悪い……」


 本当に切りたい。このまま通話を切ってしまいたい。


『認識に失敗しました。ピザという単語の発声を十度要請します』


「……ピザ、ピザピザ」


 わたしはピザって十回言う……何故?


 ピザという単語を十回言う行為が、彼のニーズのどの辺りを満たしているのであろうか?


 わざわざオペレーターみたいな口調で要請したのも、まったくわからない。


『ココは?』


「……どこよ」


 理解不能。


 おそらく彼はおのれの肘でも指しているのだろう──受話器越しで。


「見えないわよ」


『見えませんか? 暗くて見えませんか?』


「は? 電気はついてるけど……こっちで」


『先輩、今どこにいるんですか?』


「どこって……家だけど」


『ふーん』


「なにその生返事……ねえ、さっきからなんなの?」


 ついに言った。そろそろ通話終了させたかったから。だって、現在時刻二十三時五分だし。ただでさえ眠いのに、なんだって、こんな時間に。


『見えないなら誘導しますね。あ、そっち壁ですよ。ほら、頭ぶつけないように……』


「は?」


『もうちょい下……そう、そこです。あとは自分で探ってみてください。あ、もちろん、手は使わずに……ふッ』


「誰と会話してるの? 藤見くん」


『何言ってんすか。あなたですよ、伊巫さん』


「でしょうね」


 そう思いたい。

 ……いや、思いたくないわ。


『くッ……頑張ってください伊巫さん』


「電話してるだけのわたしに何を頑張れっていうの?」


『裏も……裏もていねいに……ううッ』


「……ねえもう切っていい?」


『なんてこと言うんですか。まだ早いですよ。いくらなんでも早すぎです。あまり俺に自信を付けさせないでください』


「切るわ」


『何度でもかけますよ? ぶっかけます』


「……」


 眠い。普通に眠い……。


 この男は何を言っているんだろう。深夜に電話をかけてきて、謎のやりとりを強要している。こちらが電話を切っても、またかけてくるとのたまう。


『ふッ……くッ……』


「なんかさっきから息荒くない?」


『大丈夫です……伊巫さん大丈夫ですよ……』


「そうねわたしは大丈夫。そうでないのはお前の腐った脳ミソのほう」


『怖いんですか』


「おまえがな」


『大丈夫です怖くないです……誰にだって“はじめて”はあるんです』


「おそろしい仮定と過程がよみがえるんだけど……」


 受話器の向こうで聞こえる摩擦音的な音声がどんな真実を裏付けているとしても、無視。長年の読心術(受信アンテナのみ)で培った現実逃避力に、これほど感謝したことは今までになかっただろう。


『ちょっち体勢変えますね』


「好きにしたら……」


『後ろ向いて……そう、暗いから気をつけてくださいね?』


「設定に忠実ね……」


『手ぇ一旦解きますか?』


「ええー……わたし縛られてたの?」


『目隠しも取りますね』


「目隠しもされちゃってたか……」


『ちょっと真面目にやってくださいよ伊巫先輩』


「なんの義理があってドンドコドン」


『あ、シーツあとで洗っときますんで。血ィ付いちゃいましたもんね』


「……ハッハッハ」


 もう笑うしかないもんね。笑え。笑ってしまえ。

 人生なんて、そんなもんだ。


 彼の脳内では、どんなわたしが乱れているのだろう? もはやどうでもいい。


『伊巫さん、いい声してますね。くぎゅうみたい』


「絶対ちがう」


『ざーさんみたい』


「黙れ。それ以上ヴィーナスを侮辱するな」


『あ、きたないですよ。飲まなくていいです』


「……ん?」


『そ、そんな、お掃除だなんて……ッ』


「うわあ……いつの間に展開進んでいたの?」


『伊巫さん、いい声してましたね。かわいかったです』


「あなたの中のわたしはバカね。そんな男と付き合ってんだから」


『もっと自分に素直になってもいいんですよ。防音対策してますから』


「わたしの家ってこと? シチュエーション、わたしの家ってこと?」


 防音対策してる設定は、そうに違いない。──さっきどこにいるのか訊いていたし。


『そんなにお掃除したいなら、いま、猿轡外しますから、ちょっと待っててください』


「わたしは今までどうやって会話していたの……?」


 少なくとも、人語を話せるシチュエーションではなくない?

 設定ガバガバ、どんなレベルだよ?


『伊巫さん。十メートルって何階建てですか?』


「……は?」


『四階あれば足りますか?』


「話題転換がすさまじいわね……まあ、そのくらいじゃない?」


『七秒で気絶って、うそですよね』


「なんの話?」


『あんなん、歯ぐきめっちゃ痛いじゃないですか。なんなんですかね、あれ。すげー耳鳴りするし……』


「……?」


『伊巫さん』


「なに?」


『俺、伊巫さんのこと……』


「それさっきもやったから」


『伊巫さん』


「だからなんなの? もう十二時近いわよ」


 現在時刻、23:54


『──ありがとうございました』

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