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いふ☆いふ 〜先輩は魔法使い〜  作者: 岩流佐令
5月 体育祭&家庭訪問
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第五十四話 ちゅどーん

「!?」


 伊巫さんが、裸で抱きついてきた。


「な、」


 その衝撃的事実により、俺の記憶が一瞬ログアウトしたらしい。


 が、五秒前までの意識の綱を懸命に手繰り寄せる俺のイマジナリーハンドは、優秀なはたらきをして主人の脳裏に光景を描写させる。


 光景──五秒前の俺は。


「い、伊巫さ……!?」


 そう、伊巫さん。俺はその人を探しに浴室のドアを開けた。寝ていたはずの彼女の布団が、もぬけの殻だったからだ。


 お母様である流堂さんに警備を任されている俺としては、伊巫さん脱走疑惑は由々しき事態でもあり。すぐさま捜索隊として緊急出動した、単身。


 次々と開かれる真実のドア。明瞭で堅実な冴え渡る推理の数々。


 最終的に、風呂にいるのではないか? という懸念及び確信をもたらした俺のクレバーブレイン。その怪しい気配プンプンの取っ手に手を掛けて。


 本人がいないならそれでいい。しかし、中を一応チェックしておきたかったというか。


 何しろ、電気だって点いていない。一切の音も聞こえない。そんな室内状況なのである。


 だいぶ怪しい。ひそめられる自らの眉に、少しの不安と恐怖がよぎった。


 まさか高校生の年齢で、溺れるということはないだろうけれど。それも自宅の風呂で。いつも使っているであろうその浴槽で。


「あ……」


 しかし、それすらやりかねないと思ってしまったのは、この人が本当に不注意の申し子であることを経験上から悟っていたことだけではなく。


「……幾太、くん」


 今現在ここでこうしてこうやって、本人に全裸で抱きつかれるくらいには、わけのわからないアバンギャルドな人柄であることを知っているというのもあり。


「幾太くん……」


 ああもう、混乱している。俺の名前を抱きついた下方から呼ぶ女の声によって、話が全然まとまらない。


 なんなんだ、この人……?


 俺がドアを開けた瞬間、ハッとしたように振り返って抱きついてきて。


 電気も点いていない暗闇の中、その表情は見えなかったけれど。


 今だって身体を洗っていたらしいそのふわふわの石鹸に塗れた女性肉体は、持てる最大の接触面積で俺に抱きついてきただけでなく。


 俺が教えた覚えすらない動作──その脚を、女の裸の脚を、俺の股の間に食い込ませてくるなんて。


 無論、表情の謁見など望むべくもなし。

 俺の鎖骨辺りに埋もれた伊巫さんの茶髪。

 その見えない唇から紡がれる、あえかな言葉さえ。


「あし、みた……?」


「え……」


 ──震えていた。


 俺に抱きついてきた、裸の伊巫さんは。

 震えていた。



 ■



「あ……し?」


 『あしみた』──『脚、見た』?


 俺は彼女の唇から紡ぎ出された四文字の言葉を、深く全身で反芻するように。混乱し、引き攣った喉で前半二文字を繰り返した。


 女の子の声も、抱きついている裸の身体も、確実に震えているのだけはわかる。それこそ異様な怯えを纏って。恐怖で硬直している雰囲気だ。


 伊巫さんの緊張が、空気を伝って俺へと流れてくる。尋ねる、短くて弱々しい音声とともに。


 感情。


 伊巫さんの現在の感情は、恐怖なのだと知覚。胴体前面範囲で繋がっている俺まで、その恐怖に共鳴するように脈拍が冷めていく。


「脚を、見ましたか」


「……?」


 今度はより丁寧に質問を投げかける伊巫さん。その声の震えは、すでに無くなっていた。


 冷淡な声。いつもの感情が無いような、無機質、無感動な声。


 いつの間にか身体の震えもおさまっている。クールダウンがすごい。さすがとしか言いようがない。


 俺なんてまだ混濁しているのに。

 え、伊巫さんもう冷めちゃったの?

 早くない……?


「脚を見ましたか」


「え」


 再び淡々とした声で質問伊巫さん。ぐい、と俺の二脚の間に、その裸の太ももを割り込ませながら。


 や、やーらけー。

 すっげ、ズボン越しでもわかる。

 伊巫さん太もも、俺のナニ方向です。

 ぐいぐい。


 何故か石鹸の泡まみれの伊巫さん。は、俺の脚の間に自らのすっぽんぽんの御御足具体的には太ももを、艶めかしくも愚かしくもぐいぐいと押しつけているのであった。


 なーぜ?


 いや、泡まみれなのはわかる。つい今までお風呂に入っていたからだ。入浴スタイル伊巫さん。そのヌルヌルグチョグチョが俺の上半身及び下半身へとダイブ!


 つまり、俺のTシャツは石鹸まみれになってしまいました。伊巫さん本人の肉体による全身マッサージにより。とんだハプニングだよへッへヘッヘhshshshs。


 というかこれをハプニングと捉えていいのかどうか?


 どこからどこまで意図的に仕組まれたのかわからない。なぜお風呂の電気が点いていなかった? なぜ伊巫さんの物音が一切しなかった?


 疑問は尽きないが、伊巫さんのぐいぐいの強烈な威力によって俺の思考能力は粉砕。


 体内エネルギー及びリソースは主に下半身区域にふんだんに使用されたし。晩ご飯の餃子分のカロリーも。


 にんにくパワー全開元気百倍チムチムマン。チムチムなのにマンっていうこれ不思議?


「脚を見ましたか」


「……」


 伊巫さんぐいぐい脚でぐいぐい腰にぐいぐいバン○ーリン☆


 狙ってやってんの?

 それとも尋問のつもり?


 おそらく、後者だろう。伊巫さんはそういう人だ。狙うとか一ミリも考えちゃいない。そういう理不尽で、「ムード? なにそれおいしいの?」みたいな人。


 やがて俺のチムチムニーがウルトラ変身するのさ!


 それさえ自覚というか、把握していまい。不注意の権化というか、もはややべえ奴というか。危険なほど無自覚というか。


 よく今までジョーショーだったな?

 いやまあ、それも俺の憶測だけど。

 でも96%以上の確率で間違っちゃいまい。

 お母様の反応もそんな感じだったしね。


 あとおっぱいもものすんごいですよ伊巫さん。丸裸おぱー泡泡ヌルヌルんちょDカップ。抱きついているからそのお姿が見えないのが残念だけど。


 しかし『ふにょん』を感じる。『ふにょん』双丘エリクサー。だから世界はこんなにもふつくしいのだと。


 生乳hshshshs。整理前の程よく張ったフルーティおっぱいがええ感じに俺の胸板の下辺りに当たっとるんじゃ〜〜ですぞがな。


「脚を見ましたか」


 ぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐいぐい。


 伊巫さん尋問は俺には通用した。とてもよろしく通用させていただきました。ありがとうございます。


 なんか「脚」がどうたらこうたら言ってるけれど、今の俺の状況及び状態及び生態には、関係ない気がするな。


 よっぽど見られたくない秘密でもあるの?


 脚なんかより見られてはイケナイ部分があるだろうに。今本人が俺の上体とかに抱きついて擦り付けているところとかさー?


 まあ微動だにしていないから、擦り付けるは嘘だけど。普通に俺も伊巫さんも硬直しているだけだけれど。


 こんなにも脳内お喋り過多なのに、現実の俺の行動といえば、伊巫さんを抱きしめ返すでもなく。


 腕を背中に回して「大丈夫だよ……」とささやきながら優しくぎゅっとしてあげるでもなく。


 普通にベイビーみたいにあばばばバイブレーションぶっこいて大人しくチムチムニーをちむちむどんどんさせているだけである。


 情けないね。みじめみじめ。


「脚を見たかって訊いてんだこの外道」


「おおう……」


 口調が荒くなった伊巫さん。堪忍袋の尾が切れたみたいに。たぶん、俺の脳内地の文を読心術効かせたことも作用している。


 チムチムニーとかの下り。全部聞かれているだろう。そもそも伊巫さんがチ婿という雄性物体の存在証明を目撃したことがあるのかさえ、現時点では不明だが。


 でも今もおそらく彼女本人は先日よろしく「こいつ変なとこに携帯入れてんな?」くらいにしか考えていらっしゃらないでしょうから。


 じゃなかったら、こんなことしないよ。できないできない。ジョーショーなのに?


 チムチムとミチムが幸せの青い鳥を発見することさえ。俺の股間のブルーフェニックスがハッピーに花鳥風月することさえ。


 そんなに脚見られたかって情報が重要?

 乙女の采配に美脚はマストイブニング?


 別段、伊巫さんが脚綺麗じゃないってこともないだろうけれど。むしろ程よく筋肉が付いて引き締まっていて、綺麗な部類だと思うけれど。それもかなり上級レベルで。


 ん? そういえば、最近伊巫さんの生脚拝んでいないな?


「あ」


 ──俺は気づいた。


 伊巫さんの脚。なぜ彼女がそこまでして。

 裸で抱きついてまで、見られまいとする、その理由。


()()()()()()()……」


ようやくちゅどーんしました。

あと二、三話とか嘘吐きました。

脳内ではその予定だったんですけど……。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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